常に努力を怠らず、挑戦し続ける女優人生を歩んでいる米倉涼子。“かっこいい女性”といえば一番に思いつく一人でもあるが、主演を務めたNetflixシリーズ『新聞記者』(全世界独占配信中)では、元気でパワフルという彼女のパブリックイメージや、代表作であるドラマ『ドクターX ~外科医・大門未知子~』の“失敗しない医者”とは対照的な役柄にトライ。米倉は「吐息にも力を込めず、なるべく内股で歩いて、かっこつけない(笑)。つらいなと感じることもありましたし、大きい声を出したい! と思うこともありました」と笑顔を見せつつ、「本当に出会えてよかったと思える作品になった」としみじみ。新境地に飛び込んだ心境や、充実感を語った。

  • 米倉涼子 撮影:蔦野裕

■かっこつけないヒロインに挑戦「ものすごく緊張していた」

近年の政治事件やスキャンダルに正面から切り込み、第43回アカデミー賞最優秀作品賞を含む主要3部門を獲得した映画『新聞記者』(2019)。Netflix版はキャストを一新し、さらにスケールアップした全6話のドラマとして全世界に配信される。米倉は、“新聞業界の異端児”と呼ばれる主人公の東都新聞社会部記者・松田杏奈を演じている。

松田は権力の不正をとことん追及する“闘うヒロイン”だが、記者としての使命感を抱きながらも、徒労感や葛藤をにじませ、折れそうな心を必死に奮い立たせているような女性でもある。

米倉は「最初はもっと強いキャラクターを作っていこうと思っていた。強さを表に出していこうとしていた」そうだが、映画版に引き続きメガホンを取った藤井道人監督からは「もっと声を小さくして。もっと優しい松田さんにしてください。そこから自分の思いを訴えていってほしい」と指示があったという。「藤井監督が大きな挑戦をさせてくれました。“削ぐ”という作業が必要なキャラクターで、本来の自分ともかけ離れているし、これまで私が求められてきたのとはまったく違う役柄でした」と告白する。

米倉の持ち前の力強さや華やかなオーラを封印した役柄となったが、「なるべく内股で歩いて、歩幅も大きくせず、ポケットに手を入れてはいけない。かっこつけない!」と役作りを笑顔で振り返りながら、「つらいな、苦しいなと感じたり、大きな声を出したい! と思うこともありました。不安や戸惑いもあり、フラストレーションも溜まる(笑)。毎日がドキドキの連続で、本作の撮影はものすごく緊張していたことを覚えています」と心境を語る。

■刺激を受けた新境地への挑戦「また新しい扉を開いていきたい」

実際にロケ地となった東京新聞で働く記者へのリサーチを重ね、松田役に反映していったという。米倉は「新聞記者としての日々はどのようなことが起きるのか、どうして新聞記者になりたかったのか、家に帰ったらどんなことをしているのか、いろいろなお話を聞かせていただきました」とリアルを追求し、「松田の自宅の壁にポストイットを貼りたいとか、電動歯ブラシで歯を磨きたいなどの提案もさせていただいた」とアイデアも注ぎ込んだ。

演じる上でもっとも大切にしたのは、「取材対象者となる人たちに、『あなたたちの声を伝えたい』と思っていることを示す」こと。「松田は『新聞記者です!』と前に出ていくのではなく、新聞記者という目線を通して、いろいろな痛みや傷を抱えた人の思いを聞いて、心を開いていく立場だったんだなと感じています」と媒介としての役割を重視し、松田の心に寄り添っていった。

不安や戸惑いを覚えながらも、また役者としての新たな扉を開いた米倉。「初めての藤井組で、初めてお会いする俳優さんもたくさんいらっしゃいました。『こうやってお芝居をしていくんだ』と刺激を受けることも多く、エネルギーもたくさんいただきました。今はまた新しい扉を開いていきたいという思いでいっぱいです。最初はまだ藤井組の勝手がわからない部分もあったので、ぜひリベンジしたい!」と藤井監督との再タッグも希望。

「取材をする中では、今を生きて、声なき声を届けようと頑張っている記者の皆さんがいることを知りました。完成作を観ても、いろいろな思いを抱えて生きている人がいるんだと実感することもあり、私自身とても勉強になることが多かった作品です。本作は世界に向けて配信されますが、政治家と一般市民の間にある考え方のギャップというものは、きっとどの国の人も共感できる問題であるはず。日本で起こり得る問題に興味、関心を持ってくれる方が少しでもいたらうれしいです」とたくさんの発見、学びがあったことを明かしていた。

■米倉涼子
1975年8月1日生まれ。神奈川県出身。1993年モデルとしてデビュー。1999年に女優へ転身。近年は『35歳の高校生』(日本テレビ系)、『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』(テレビ朝日系)などに出演。『ドクターX~外科医・大門未知子~』((テレビ朝日系)は10年続く人気シリーズとなった。ミュージカルでも活躍しており、2008年に『CHICAGO』の日本版でミュージカルに初出演。2012年7月には『CHICAGO』でブロードウェイデビューを飾り、2017年、2019年と、3度ブロードウェイ主演を果たし、2022年4度目のブロードウェイ公演も決定している(東京凱旋公演は12月)。