「有終の美」という言葉はビジネスシーンに限らず、ニュースなどでも使われる機会が多い表現です。比較的身近な言葉ではありますが、具体的な意味を知らないという方もいるでしょう。
本記事では、「有終の美」の意味や言葉の由来を紹介します。また、正しい使い方をはじめ、類語や反対語、英語表現などを例文とともに解説しますので、参考にしてください。
「有終の美」の意味
「有終の美」とは、最後に素晴らしい結果を残すという意味の言葉です。
「有終」には「最後までまっとうする」「終わり」という意味があり、そこに「美」が組み合わさっているので、美しい、または素晴らしい、立派な結果であることを表す表現であると考えられます。
また、「求める結果にたどり着くために最後までやり遂げる」という意味合いで使われることもあります。「終わり」と聞くとネガティブなイメージが持たれることもありますが、「有終の美」はポジティブな意味合いで用いられるのが一般的です。
「有終の美」の言葉の由来
「有終の美」の由来は、中国最古の詩集『詩経』である「初め有らざるなし、よく終わりあるはすくなし」の詩にあるとする説が有力です。この詩には「ものごとには必ず始まりがあるが、終わりをうまく迎えられることは少ない」という意味があります。
このことから転じ、「最後までやり遂げられるのはすばらしいことである」とされ、そこに「美」という言葉を加えて「有終の美」という表現が生まれたと考えられています。
この由来もあって、「有終の美」は最後までやり遂げて結果を出した人を賞賛する際によく使われます。
「有終の美を飾る」
「有終の美」は「有終の美を飾る」という形で用いられることも多く、「飾る」には価値あるものにするといった意味合いがあります。したがって、「有終の美を飾る」という慣用句は、「最後までやり遂げ、価値ある結果を得た」ということを表します。
「優秀の美」は誤用表現
「有終の美」と「優秀の美」はどちらも「ゆうしゅう」と読みますが、後者は誤った表現です。「有終」と「優秀」とでは意味が異なりますので、メールなどで使用する際に誤変換しないよう注意しましょう。
「有終の美」の類語
ポジティブな意味で使われる「有終の美」ですが、意味合いが似ている類語が存在します。
「栄光」
「栄光(えいこう)」は「輝かしい名誉」を意味する言葉で、「最高の結果を残す」という意味の「有終の美」と似たニュアンスを持ちます。ただし、「栄光」には「最後までやり遂げる」といった意味合いは含まれません。
「達成」
「達成(たっせい)」は「目指していたことをやり遂げる」という意味があります。「物事を最後までやり遂げる」といった点では「有終の美」と似ていますが、必ずしもポジティブな結果を表す言葉ではありませんので頭に入れておきましょう。
「有終の美」の言い換え表現
ここでは、「有終の美」と言い換え可能な慣用句の表現を紹介します。
「掉尾を飾る(ちょうびをかざる)」
「有終の美」の言い換えの中でも、特に代表的な言葉なのが「掉尾を飾る(ちょうびをかざる)」です。「物事を立派に終える」「しっかりと見事に締めくくる」という意味があります。
「掉尾を飾る」には「最後を美しく終える」「最後に見事な結果を出す」といった意味合いもあるため、そのまま「有終の美」と言い換え可能な表現でしょう。
・最後の試合に勝って、掉尾を飾った。
・彼女の掉尾を飾るにふさわしいコンサートになった。
「立つ鳥跡を濁さず」
「最後をきれいな状態で終わらせる」といった意味合いで「有終の美」を用いる場合には、「立つ鳥跡を濁さず」ということわざで表現することもできます。
この言葉には「具体的に自分の過ごした場所をきれいにして去る」という意味もありますが、「最後を立派に終える」というニュアンスでも使用されます。
・立つ鳥跡を濁さずというように、気持ちよく退職の日を迎えたい。
・先生方にはご迷惑をおかけしましたが、立つ鳥跡を濁さずにふさわしい立派な姿で卒業式を迎えることができました。
このことわざは、「最後に結果を出す」といった意味合いでは使われないため、シーンや文脈によっては「有終の美」とそのまま言い換えができるわけではありません。したがって、同じく「最後をきれいに飾ること」も言い表せることわざとして覚えておきましょう。
「有終の美」の反対語
ここでは、「有終の美」の反対語について説明します。
「仏作って魂入れず」
「仏作って魂入れず」は、「最後の仕上げをしなければそれまでの努力が無駄になってしまう」「あらゆる物事は最後が重要であること」を意味することわざです。
最後まで物事をやり遂げない様子を表すため、「有終の美」とは反対の意味を持つ言葉といえます。
・歌詞も曲も完成したのに、肝心の曲名だけが思い浮かばない、まさに仏作って魂入れずの状態だ。
・ようやく仕上げの一冊なのに、本の宣伝を怠っては仏作って魂入れずになってしまう。
「晩節を汚す」
「晩節を汚す」は、「今まで評価が良かった人が最後になって評価を落とす過ちを犯す」という意味のことわざです。季節や人生の終盤という意味の「晩節」を「汚す」で、「人生で築いた名声を地に落とす」といった意味合いをもちます
・国民的アイドルとして人気を博していたのに、スキャンダルで晩節を汚してしまった。
・晩節を汚さないためにも、人として正しい道を選択したい。
「竜頭蛇尾」
「竜頭蛇尾(りゅうとうだび」は、「最初は勢いがあるものの、結果を出すことができない」、あるいは「最初はよかったが最後は冴えない」といった意味の四字熟語です。
こちらも、最後までやり遂げたものの素晴らしい結果を出すことができない様子を表す言葉ですので、「有終の美」の反対語として用いられる表現といえます。
・この試合は竜頭蛇尾に終わるだろう。
・できれば竜頭蛇尾なパーティーには参加したくない。
「有終の美」の英語表現
「有終の美」にはいくつかの英語表現があります。中でも代表的なものを紹介します。
「crowning glory」
「有終の美」の英語表現の一つに「crowning glory」があります。「最後を飾る名誉」「栄光」といった意味を持つ表現です。
My project was a crowning glory.
(私のプロジェクトは有終の美で終えた)
「end successfully」
「成功で終える」という意味がある「end successfully」も「有終の美」の英語表現として使用できます。
He ended his last work successfully.
(彼は最後の仕事を有終の美で飾った)
「done to perfection」
「完璧」を意味する「perfection」を用いた「done to perfection」としても「有終の美を飾る」と訳せます。
The job was done to perfection.
(その仕事は有終の美を飾った)
「有終の美」の使い方と例文
最後にシーン別で「有終の美」の正しい使い方を例文とともに紹介します。
ビジネスシーンでの使い方
「有終の美」をビジネスシーンで用いた場合の例文をみていきましょう。
・今回のプロジェクトを有終の美で飾ることができたのはチームメンバーのおかげです。
・この会社での最後のプロジェクトを有終の美で飾ることができました。
・今回退職される○○さんは私達のリーダーとして優秀な成績を収めて有終の美で終えられました。
・皆様のおかげで有終の美を飾ることができました。
「有終の美」はポジティブな意味合いで使われますので、自分に対してでも人に対してでも使用可能な表現です。
日常会話での使い方
続いては、日常会話の中での「有終の美」の使い方を紹介します。
・いろんなことがあったが、無事に成功することができたので有終の美であるといえるだろう。
・私は友人の有終の美を見届けるために現地まで足を運ぶことにした。
・恩師の指導のおかげでこんな私でも有終の美で終えることができました。
このように日常生活の中でもビジネスシーンと同様にさまざまな形で用いることができます。
その他の使い方
最後に「有終の美」のその他のシーンでの使い方をみていきましょう。
・長い現役生活の中でケガに苦しむこともあったが、彼は引退試合で素晴らしい結果を残して有終の美を飾った。
・チームはシーズン最後の試合を勝利し有終の美を飾った。
・多くのファンに愛された彼は最後のレースでも勝利し、有終の美を飾った。
「有終の美」という言葉はスポーツなどの勝者を称えるシーンでもよく使われる表現です。
「有終の美」の意味を知って正しく使いこなそう
「有終の美」はポジティブな意味を持つ言葉で、ビジネスシーンや日常会話などさまざまな場面で使用されています。
「有終の美」には類語や言い換え表現も多いことから、同時に頭に入れておくことで表現の幅をより広げられるでしょう。