日本の社会において、子どもたちが安心安全に通学できる環境は当たり前のように存在している。しかし、その実態は多くのボランティアや地方自治体、警察署などが実際に通学路に立っての見守りやパトロール、安全な道路環境の敷設など、多くの点において配慮がなされていることも大きい。
そんな中、少子高齢化によって見守り活動の維持が難しくなっている状況は私たちにとっても大きな課題のひとつといえる。ここではNTT東日本のソリューションを導入することで、難しい課題に対応、大きな成果を得た山梨県富士吉田市の「見守り」事例を紹介しよう。
風光明媚な観光都市「富士吉田市」
同市は霊峰富士を南にのぞみ、市街地の多くが富士箱根伊豆国立公園区域内に含まれるという良好な自然環境から、国際会議観光都市に認定されている地方自治体だ。新倉山浅間公園からの富士山と五重塔の絶景を代表とする観光地には毎年、四季折々の風景を楽しもうと多くの観光客が訪れている。
一方で、噴火の可能性が現在も続く富士山にほど近いことや、南海トラフ地震に備えるために防災に対しても力をいれており、市民と観光客の安心安全を守るための数々の施策を続けている。
「当市のICTの取り組みとしては、すでに各キャリアから配信されている『富士吉田市公式防災アプリ』により、有事の際に的確な防災情報を皆さんにお知らせするシステムや、職員の業務改善、負担軽減のために導入した教職員校務システム『あいシステム』の活用など、要所において積極的に活用しています」と語るのは富士吉田市 企画部 安全対策課 課長 木勢洋二氏(以降、木勢氏)だ。
また、「市民の皆さまが安心安全に暮らせるまちづくりを目指すという意味において、私が所属する安全対策課交通安全・防犯担当の業務の一つとして、地域の見守り活動とその支援・推進事業を実施しています」と、安全対策課 課長補佐の堀内香氏(以降、堀内氏)はその活動内容を説明する。
子ども達の登下校の見守り活動に課題が
そんな富士吉田市にある課題が生まれ始めたのが平成29年頃。全国的に少子高齢化が進む中、同市も例外なく見守り活動のための人材不足が顕著化してきたのだ。
「子どもたちが犯罪に巻き込まれやすいのはやはり登下校の際です。特に子どもだけで行動するときや、人目が少ないときに発生しやすい傾向があります。当市では青色防犯パトロールやシニアクラブ、保護者有志等のボランティア活動による見守り活動を実施してきましたが、その維持に課題が見えてきたのです」と堀内氏は語る。
そこで防犯カメラの設置を検討することになった富士吉田市は、すでに防犯カメラの運用を始めている別の地方自治体の状況を視察させてもらったのだという。
「富士吉田市では、通学路付近の保護者の皆様からは防犯カメラの設置を歓迎するムードが当初より高かったこともあり、導入には前向きでした。そこで実際にどのような運用なのか、見学する機会をもらいました」と木勢氏は言う。
視察先となった地方自治体の防犯カメラは、カメラと連動する記憶装置を複数設置する、スタンドアロン方式を採用していた。しかしその場合、何かしらの異常があった際に職員が高所へ上り、メモリから動画データをダウンロードするなど、手間が多いのが難点だった。
「例えば、実際に事件が起こり、警察から協力を求められてもすぐにデータを渡すことができません。当市の安全対策課の職員も人数が限られるので、常に複数の防犯カメラを保守するのは難しいと考えました」と堀内氏はその時の感想を説明する。
クラウドでデータ管理する「ギガらくカメラ」に注目
防犯カメラの効果については疑いの余地がない。しかし、その運用方法について再度模索することになった富士吉田市は、NTT東日本に相談してみることにしたのだという。
「そこで提案してもらったのが『ギガらくカメラ』でした」と堀内氏は振り返る。
「ギガらくカメラ」は設置したカメラのデータをクラウド上に保存し、管理者はそこに保存されているデータをブラウザで管理できるソリューションだ。カメラの台数も増設が可能で、それぞれのデータは一元管理できるため、複数の動画を一覧して確認することもできる。
「さらにNTT東日本さんのクラウドにデータを預けておけますからセキュリティも万全です。当市にはこれが最適だと判断し、導入することになったのです」と堀内氏。
こうして、令和元年に導入が決定、富士吉田市には小学校が7校、中学校が5校(内1校は私立)あるが、その通学路における死角や人材の確保が難しい場所の選定に入ることになった。
「ここは一番苦労が多かったところでした。電源が供給でき、地権者の同意が得られる場所といった複雑な要件が重なり、思うように進まないこともありました」と、当時を振り返る木勢氏。
その作業にはNTT東日本も共に対応し、足を使った地道な調査と申請書類の制作などのサポートを行ったそうだ。
「本当に助かりました。私たちだけでは到底できなかったような作業も任せることがあり、おかげで15台のカメラを要所に配置することができました」と木勢氏は言葉を続ける。
導入したカメラは「ギガらくカメラ」が勧めているセットプランのものよりも、耐久性や解像度の面でアップグレードされたもの。これは風雪も多く、高所に設置して広い範囲をカバーするための仕様だ。
「せっかくの防犯カメラもぼやけてしまうのでは意味がありません。そこでNTT東日本さんにお願いしてカスタムしてもらいました」と堀内氏。
実はこの高解像度カメラを採用した導入事例は国内でも2例目で、東京電力の協力のもと、電柱へ共架しての設置例では富士吉田市が先駆者となったのだという。
事案発生率が50%減少
こうした苦労のかいもあり、令和2年には実運用に入ることができた富士吉田市の防犯カメラシステム。
「実際に運用を始めてみて、いつも使っているインターネット閲覧と同じようにPCからブラウザで管理できるのは本当に楽だと実感しました。解像度も高く、とても鮮明に録画することができ、有事の際にはスピーディーに有用なデータを入手することも可能です」と堀内氏。
導入して1年半が経過するが、その間に警察からの情報提供要請は6件あったという。「いずれのケースでも良好な画質の映像をスピーディーに渡すことができ、警察とスムーズに連携することができました」と堀内氏は導入の手応えを語る。
さらに富士吉田市の防犯カメラシステムの導入により驚くべき効果もあったそうだ。
「実はこの1年半の間の不審者情報や懸案事項を精査すると、以前と比較してその報告が約50%減少したという結果が出ました。もちろん、コロナ禍によって人流そのものが減っていることもありますが、この数値になったことは事実ですから、ある程度の抑止効果は確実にあったといえると考えています」と木勢氏もその高い効果に自信をみせる。
現在、富士吉田市では「ギガらくカメラ」による防犯カメラ運用を続けており、見守り活動の人材配置も効率化でき、カメラの目と人の目による、子どもたちの安心安全を守る取り組みは継続中だ。
「今回の導入で一定の効果が得られることが分かりましたから、次は台数を増やしていこうかと思っています。ただし、市中へカメラを向ける角度が広がりますから、市民の皆さまの同意を得ながら、防犯カメラの有効性をご説明しつつ、今後の活動につなげていきたいと思います」と堀内氏。
「今回の防犯カメラの導入においても、設置後の聞き取りで市民の皆さまからは安心が高まったという意見をいただきました。防犯カメラが人の目の代わりを務められることが分かったので、今後の社会的な動向を見極め、コロナ禍以降の新しい時代に対応できるようなシステム構築ができればと考えています」と最後に木勢氏は語ってくれた。
少子高齢化が進む日本において、子どもたちはもちろん、市民全体の安心安全を防犯カメラの導入・運用という視点で成し遂げた富士吉田市と「ギガらくカメラ」。同市の取り組みに今後も注目していきたい。