ビジネスシーンにおいて、顧客と契約を交わす機会もあるでしょう。「契約を履行する」という言葉を聞いたこともあるかもしれません。この「履行」という言葉の意味、正しく理解できていますか。
本記事では履行の意味や類語、対義語、英語表現などをご紹介します。履行保証保険や債務不履行といった専門用語についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
履行とは
履行とは「りこう」と読みます。どのような意味があるのでしょうか。
履行の意味
履行には以下のような意味があります。
- 取り決めたことを実際に行うこと、実行すること
- 債務者が、債務内容の給付を実現すること
このような意味を持つことから、履行は法律関連用語としても使われています。
債権と債務とは
ここで、債権と債務の意味を確認しておきましょう。
- 債権: 金銭を貸したものが、借り手に返還を要求できる権利
- 債務: 金銭を借りたものが、貸し手へ返還する義務
上記を踏まえると、債権者とは債権を持つ側、つまり金銭を貸した側のこと。債務者とは債務を持つ側、つまり金銭を借りた側のことです。
履行と弁済の違い
履行と意味を混同しやすい用語に「弁済(べんさい)」がありますが、両者の違いは何でしょうか。
【弁済とは】
弁済には以下のような意味があります。
- 借りていたものを相手に返すこと
- 債務者が、債務内容の給付を実現することで、債権を消滅させること
「債務を弁済する」などと使います。
履行と弁済の違いは、履行が「取り決めを実行させる」という債権の効力に重きが置かれるのに対し、弁済は「(返済することで)債権を消滅させる」ことに重きが置かれている点にあります。
「債務の弁済を履行しない」というフレーズを簡単にすると、「債務をすべて返済するという約束を守らない」などと言い換えられます。
履行が付く言葉
ここからは、履行が付くさまざまな用語の意味を解説します。
履行期間・履行期限
履行期間とは「債務者が契約を履行すべき期間」、履行期限とは「その日までに履行を終えなければならない期日」のことです。履行期間や履行期限は「弁済期」と言い換えられることもあります。
履行義務
履行義務とは「債務者が約束通り、契約の内容を果たさなければならない義務」のことです。
履行利益
履行利益とは「契約どおりに履行されていれば、債権者が得られるはずであった利益」を指します。
例えば売買契約において、契約通りに売買が行われていれば買い手がそれを転売して利益を得られたはずなのに、売り手のミスで破損してしまい転売できなかったとします。この場合、買い手が転売して得られたであろう利益が、履行利益となります。
履行勧告
履行勧告とは、家庭裁判所の調停や審判などで決まった内容を守らない相手に対し、家庭裁判所が電話や書面などでその履行を勧告する制度です。
履行保証とは
ここでは保険や金融、不動産業界などで使われる「履行保証」と「債務不履行」という言葉について解説します。
履行保証とは、債務が実行されないときに適用される保証のことです。一般的に、「履行保証保険」と「履行ボンド」などがあります。例えば建築工事を請け負った債務者が、何らかの理由で工事ができなくなってしまったとします。このとき、債権者(発注者)が被ることになってしまう損失をカバーするものが履行保証です。
履行保証の側面
履行保証には以下の2つの側面があります。
- 金銭的保証
発注者(債権者)の経済的損失に対し、金銭を填補すること
- 役務的保証
残りの工事を請け負う代替履行会社を選定して、工事を完遂させること
履行保証保険
履行保証保険とは、債務者(受注者)が保険契約者となり、債権者(発注者)が被保険者となって結ばれる保険契約です。上記の「金銭的保証」をカバーするものであり、「役務的保証」はカバーされません。
履行ボンド
履行保証保険が「金銭的保証」だけをカバーしているのに対し、履行ボンドは「金銭的保証」「役務的保証」のどちらかもカバーしているという違いがあります。
債務不履行とは
ここからは、「債務不履行」について解説します。
債務不履行(さいむふりこう)とは、「債務者が正当な理由がないにもかかわらず、債務内容を履行しないこと」という意味です。具体的には「履行遅滞」「履行不能」「不完全履行」があり、これらをまとめて債務不履行といいます。
履行遅滞
履行遅滞(りこうちたい)とは「履行が可能な状況であるにも関わらず、債務者が履行しないこと」という意味です。
【履行遅滞となるケース】
- 確定期限債務: 決められた返済期限が過ぎた翌日から
- 不確定期限債務: 「母親が亡くなったら建物から退去する」という約束において、母親の死を知った後から(母親が亡くなっていても、本人が知る前であれば履行遅滞とはならない)
- 期限の定めのない債務: 期限を定めずに金銭の貸し借りをした場合は、貸したもの(債権者)が「返して」と言ったその時から
履行不能
履行不能とは「契約成立のときには履行が可能な状態だったが、債務者側の過失などが原因でそれが不可能になること」という意味です。
不完全履行
不完全履行とは、「債務の履行内容が、本来の契約より過不足のある不完全なものである」という意味です。
追完請求とは
追完請求とは、債務不履行の際に行使できる権利の一つです。売買契約において、引き渡された目的物の種類や品質、数量が契約内容と違う場合、買う側が売る側に不足分の引き渡しを請求できます。
追完請求は、不適合と知ったときから原則1年以内に、不適合であるという通知を行わなければなりません。
履行の類語・対義語
ここからは、履行の類語・対義語をご紹介します。履行という言葉の理解を深めましょう。
履行の類語
履行の類語には以下のようなものがあります。
- 遂行(すいこう):仕事や任務を最後までやり遂げること
- 執行(しっこう):とり行うこと。法律や命令などの内容を実際に行うこと
- 実施(じっし):計画や法律を実際に行うこと
履行の対義語
履行の対義語には以下のようなものがあります。
- 反故(ほご): 不要になったもの、役に立たないもの。「約束を反故にする」とは「約束をないものにする」という意味
- 破棄(はき): 破り捨てること。約束や取り決めを一方的に取り消すこと。上級裁判所が事後審査において、上訴に理由があるとして原審の判決を取り消すこと
履行の英語表現
履行は英語で「fulfillment」「performance」などと訳されます。「履行する」という動詞は「fulfill」「perform」となります。
例文
・You have to filfill a promise.(約束は守らねばなりません)
・Please pay before the term of performance.(履行期限を迎える前にお支払いください)
履行の意味を理解して、ビジネスシーンに役立てよう
履行には「取り決めを実際に行うこと、債務者が債務内容の給付を実現すること」という意味があり、法律の専門用語としても使われています。
ビジネスシーンにおいても、契約を結んだ際に「履行」という言葉を使うこともあるでしょう。迷いなくスムーズに使いこなせるように、この機会に類語や英語表現なども理解しておきましょう。