不動産の契約書などに「瑕疵担保責任」という言葉が出てくることがあります。不動産の売買で隠れた瑕疵が見つかると、買い主から売り主に損害賠償や補修の請求が可能です。
この記事では、瑕疵や担保責任が何なのか、法的な意味などを紹介します。大人として知っておいて損はないことですので、ぜひご一読ください。
瑕疵の意味と使い方
「瑕疵(かし)」には、下記のような意味があります。
- 傷や欠点、過失
- 法的に何らかの欠陥や欠点があること
主にビジネスシーンなどのあらたまった場において、不具合や欠陥、欠点や失敗などを表す言葉として使われます。また、不動産業界を中心に、法律用語としてもよく使われる言葉です。
不動産における瑕疵とは
瑕疵は不動産業界でよく使われる表現で、住宅など建物の傷・不具合・欠陥などを示す言葉として用いられます。
不動産用語として瑕疵が用いられる場合、瑕疵の範囲は目視できる傷や破損だけではありません。雨漏りや木造の屋根や柱といった主要部位の腐食など、建物の性能や機能の不備も瑕疵に該当します。さらには、過去にあった自殺や事故死などの事故情報、法律上の規制に関する情報の違いなども含まれます。
不動産が本来あるべき要件を満たしていなければそれらはすべて瑕疵に当たる、と考えておくとわかりやすいでしょう。
瑕疵担保責任とは
瑕疵担保責任とは、売買などの有償契約において、目的物に通常の注意では発見できない欠陥がある場合、売り主らが負わなければならない賠償責任のことです。
民法改正で瑕疵担保責任は契約不適合責任に
2020年4月に民法が改正されて、瑕疵担保責任という用語は「契約不適合責任」に変わりました。これまでの瑕疵担保責任とは内容も少し変更されています。しかし不動産業界などでは、現在でも「瑕疵担保責任」が通称として用いられることも多いです。
「隠れた瑕疵」とは
不動産を契約する機会があるなら知っておきたいのが、「隠れた瑕疵(隠れたる瑕疵)」の存在です。住み始めてからわかる瑕疵もありますので、契約内容には気をつけましょう。ここでは、「隠れた瑕疵」にはどのようなものがあるのかを紹介します。
法的な瑕疵
一見して問題はないようにみえる不動産でも、法的な瑕疵が隠れていることがあります。
- 構造上、安全基準が十分ではない
- 設置義務がある防災設備が設置されていない
など、建築基準法や消防法に抵触しているケースが法的な瑕疵(法律的瑕疵)です。建築規制によって再建築ができない状況も法的な瑕疵に含まれる可能性があります。
物理的な瑕疵
不動産の瑕疵において最もわかりやすいのが、物理的な瑕疵です。
- 住み始めてからわかった雨漏り
- シロアリによる床下の腐食
- 地盤沈下に伴う床の傾き
- 耐震基準の不適合
これらが代表的な物理的な瑕疵です。
環境的な瑕疵
環境的瑕疵とは、不動産周辺の環境が悪いという問題を指します。
- 建物の近くに騒音を出す施設がある
- ごみ処理施設があって悪臭が常に漂っている
こういった環境面における問題点を、売り主が不動産売却時点で把握しているのに買い主に伝えていなければ瑕疵となってしまいます。
心理的な瑕疵
「心理的な瑕疵のある物件」とは、不動産やその敷地において「人が住みたくないと感じるような事件や出来事が過去に起こっている」際に認められる瑕疵です。
- 殺人事件
- 住人の自死
- 火災
などが一例です。そのほか、反社会的勢力の拠点が周囲にあるケースも心理的な瑕疵になる可能性があります。
法律ごとにおける瑕疵担保責任の範囲・期間
瑕疵担保責任の範囲や期間は、法律によって異なりますので押さえておきましょう。ここでは、民法や宅地建物取引業法(宅建業法)、住宅の品質確保の促進等に関する法律(住宅品質確保促進法、品確法)における瑕疵担保責任について紹介します。
民法
民法では、売買の目的物が瑕疵担保責任の対象となります。対象者や期間は下記の通りです。
対象者 | 責任・権利の開始時期 | 責任・権利の期間 |
宅建業法・品確法の規制を受けない売主 | 不動産を引き渡した時 | 10年 |
買主 | 瑕疵の存在を知った時 | ・1年以内に売主へ通知 ・1年以内に通知したとしても、その後売主に請求せずに所定期間(5年または10年)経過すれば時効により消滅 |
ただし条件によっては免責特約を締結でき、瑕疵担保責任の免責も可能です。
宅地建物取引業法(宅建業法)
宅建業法では、建物または宅地が瑕疵担保責任の対象で、対象者や期間は下記の通りです。
対象者 | 責任・権利の開始時期 | 責任・権利の期間 |
宅地建物取引業者である売主 | 不動産を引き渡した時 | 2年 |
買主 | 瑕疵の存在を知った時 | 1年以内に売主へ通知 |
売り主がプロである宅地建物取引業者である場合に限って適用される点を押さえておきましょう。
住宅の品質確保の促進等に関する法律(住宅品質確保促進法、品確法)
品確法で瑕疵担保責任の対象となるのは新築住宅の基本構造部分です。対象者や期間を紹介します。
対象者 | 責任・権利の開始時期 | 責任・権利の期間 |
新築住宅の売主 | 不動産を引き渡した時 | 10年(20年まで延長可能) |
買主 | 瑕疵の存在を知った時 | 1年以内に売主へ通知 |
新しい建物なので、他の法律に比べて長期間の瑕疵担保責任があります。
瑕疵担保責任の負担は軽減できる?
瑕疵担保責任の範囲が広すぎると、売り主の大きな負担になってしまいます。しかし、特約を設定することで負担の軽減もできますので、詳しくみていきましょう。
瑕疵担保責任の免責特約とは
売り主が宅建業者や消費者契約における事業者でない場合は、売り主の瑕疵担保責任や契約不適合責任を免責する特約を盛り込んだ契約も可能です。ただし、買い主にとって不都合な瑕疵があったのに売り主が告知しなかったといったケースでは、責任を免れることはできません。
瑕疵担保責任の免責特約は、主に中古住宅の売買において契約に組み入れられる事例が多いです。売り主が破産寸前といったような金銭的な事情がある場合に瑕疵担保責任免責の特約が結ばれるようです。
しかし、瑕疵担保責任の特約を結んだ後に瑕疵が発覚することも考えられ、買い主のリスクとなってしまいます。契約前に専門家に調査してもらうなど、調査や対策を十分したうえで契約を結びましょう。
瑕疵とは取り引きの目的とされる不動産に、何らかの欠陥があることです。一般的に備えているべき性質や品質、契約者の要望などを満たしているかどうかが基準になります。
あわせて覚えておきたいのが瑕疵担保責任で、瑕疵がある不動産を売ったり作ったりした側が負うべき責任のことです。瑕疵担保責任は民や宅地建物取引業法・住宅品質確保促進法に記載されていますが、法律によって範囲や期間が異なります。
瑕疵は不動産の取り引きにおいて必ず出てくる言葉です。人生で何度か触れる可能性があるものですので、この機会に意味を理解しておきましょう。