ほくでんグループとNTT東日本は12月1日、災害時の連携、ビジネス協業の実現、設備の保守・運用効率化に向け、「地域の発展に向けて連携協定」を締結した。インフラ企業として北海道の生活を支える両社が手を取り合った経緯、そして目的について聞いてみたい。

  • (左から)北海道電力 森田英俊 氏、吉本岳史 氏、NTT東日本 北海道事業部 森公一 氏、河井潤 氏

連携協定の"3つの柱"とは

北海道電力(ほくでん)グループとNTT東日本。北海道のインフラを支える2社が連携協定を締結したのは、両社の安定供給、そしてサービスの向上と経営効率化を通じて、北海道の持続的な発展に取り組むためだという。

この「地域の発展に向けた連携協定」には、シナジーを生み出す3つの柱がある。それは、お互いの持つ技術やアセットを活かした「災害対策連携」「ビジネス協業」「最新技術の活用」だ。

災害時の連携によるレジリエンス強化

ひとつ目の柱は「災害対策連携」だ。日本では近ごろ、"10年に一度"と言われるような災害が毎年のように発生している。北海道民の生活を守ることがインフラ企業の責務である以上、災害対策にはこれまで以上に取り組みを強化しなければならなかったという。

近年の災害を振り返ると、2019年には千葉で房総半島台風が発生した。特に影響が大きかったのが強風による倒木だ。電柱を通じて電力網、通信網を維持している電力会社と通信会社もまた大きな被害を受けている。

こういった事態を重く見たほくでんグループとNTT東日本、道路管理者は三つ巴となり、円滑な道路通行確保のための情報共有の実施を決めた。また、ほくでんグループとNTT東日本は、災害復旧活動において双方の敷地・資機材等を相互に融通し合うことで復旧を速める取り組みを行うそうだ。

  • 情報・敷地・資機材等を共有し災害の早期復旧に向けて連携する

だが、災害時に急に連携しようとしても実力値以上の結果を出すことは難しい。そこで、平時からの定期的な意見交換、災害時の停電・通信障害を想定した連携訓練も実施するという。

両社の特性を活かしたビジネス協業の実現

ふたつ目の柱は「ビジネス協業」。これは、ほくでんグループとNTT東日本のサービスを組み合わせてワンストップ化し、顧客の利便性向上を目指すものだ。わかりやすい例としては、一度の申し込みで電気と通信サービスの両方を契約できるサービスなどが検討されている。

合わせて、社会課題の解決への取り組みでも協業する。具体的には、2020年10月に政府から宣言された「カーボンニュートラル」、脱炭素社会の実現を目指すという。同時に、カーボンニュートラル実現に用いる技術を、家庭向けサービスとして提供することも考えているそうだ。

  • ビジネス協業を進め、カーボンニュートラルの実現と顧客の利便性向上を目指す

今後は、地域コミュニティの活性化やビジネスマッチングの促進も検討しているそうだ。多くの事業者と接点を持つ両社のネットワークを活かして、道内の事業者からの参画を募り、北海道ならではの商流プラットフォームを創造したいとする。具体例としてはECサイトやクラウド上の交流スペースが候補に挙がっている。

設備の保守・設計の効率化

3つ目の柱は「最新技術の活用」。代表的な例は、設備点検業務だ。NTT東日本のスマートメンテナンス技術「Mobile Mapping System (MMS)」を用いて、電柱の傾き・たわみ・ひび割れ等を計測する。これは車両に3Dレーザースキャナや高解像度カメラを搭載し、3D点群データや高精細画像を取得、オペレーションセンターで分析を行い、診断を行うというシステム。この情報を共有し、設備点検と設備改修の効率化を図る。

  • NTT東日本のMMSから得られる情報を共有し、電柱の点検・改修を効率化する

また、調査・立会受付の業務効率化も検討したいとする。現在、道路掘削工事を行う際は、埋設物調査および工事立会の申請を個別のライフライン事業者ごとに行う必要がある。しかもその手段はEメールやインターネット、FAXや電話などさまざまだ。この窓口をNTTインフラネットの「立ち会い受付Web」に一元化し、申請のデジタル化、ワンストップ化を目指す。

  • 受付を一元化し、道路掘削工事における調査・立会受付の業務効率化を図る

さらに、ほくでんグループのドローン技術を用いて設備保守の効率化にも取り組む。現在、ドローンを用いた水力発電所の調圧水槽内点検や、空撮画像を3Dモデル化した通信電波の支障となる樹木の調査などで、高度な技術を確立している。

  • ドローン技術を用いて、人の立ち入りが難しい設備の効率的な保守を狙う

北海道は山林が多く積雪量も多いため、人が立ち入りにくい場所、時間を要する場所にある設備の保守巡視や、停電原因箇所の特定にドローンを積極的に使っていくそうだ。ほくでんグループの持つ高いドローン技術を参考に、NTT東日本でもパイロットを養成していきたいとする。

  • ほくでんグループの高いドローン技術を設備の保守運営に活かしていく

インフラ企業だからこそ感じていた北海道の課題

こういった先進的な取り組みや経営課題に関しての意見交換会も行われており、人材交流も盛んだという、ほくでんグループとNTT東日本。両社がこのように手を取り合い、ともに歩むことになった経緯はなんだったのだろうか。ほくでんの吉本岳史 氏、NTT東日本 北海道事業部の森公一氏、河井潤氏に、その内容を詳しく伺っていこう。

「最初にNTT東日本さんから『地域のインフラを担う企業としてなにかできないか』とお話をいただいたのが、2020年の12月ごろです。北海道は非常に広く、230万本以上の電柱があり、そのうち4割は我々2社でシェアしています。これに対して効率的にアプローチできないだろうか、というのが最初の交流でしたね」(ほくでん 吉本氏)。

  • 北海道電力 経営企画室 新領域想像グループ リーダー 吉本岳史 氏

「北海道は課題先進地域です。NTT東日本はICTセンシング技術を活用し、企業の領域を超えて災害等への取り組みを進めております。ほくでんさんもまた、2021年4月に『経営企画室 新領域創造グループ』を作り、エネルギー技術を中心として地域課題に取り組んでいらっしゃいます。ビジョンがまさに一緒だなと感じておりまして、ぜひ一緒にお仕事がしたいと考えていました」(NTT東日本 森氏)。

  • NTT東日本 北海道事業部 企画部長 森 公一 氏

これをきっかけに両社はワーキンググル-プを作ってディスカッションを進め、話は災害対策やビジネスにまで発展。「いっそのこと包括的に手を組めば、北海道の地域発展に繋がるのではないか」と、とんとん拍子に合意が進み、「地域の発展に向けて連携協定」が実現することになる。

しかし、ほくでんグループもNTT東日本も大きな企業であり、働き方も仕事の仕組みも異なる。これを業務として融合し、着地点を見つけていくのは難しかったはずだ。実際の現場の状況はどうなのだろうか。

「我々からすると、NTT東日本が組んでくれるという驚きもありました。もちろん、コンフリクトするところもスタックするところもありますが、お互いの持つ力を合わせればより大きなパワーになります。2020年10月に最初の交流会を行いましたが、当社だけでは気づけない多くの課題をご紹介いただきました。実際の技術もさることながら、そういった視点の違いが非常に勉強になりました。距離感を着実に縮め、具体的な姿を見つけて行きたいと思います」(ほくでん 吉本氏)。

「現在7つのプロジェクトが走っており、しかるべき人材をアサインしていますが、それぞれが前向きに取り組んでおり、しかも一緒にゴールを目指してくれています。とくに現地には職人気質の方が多く、両社のマインドセットを合わせるのが大変なのですが、我々の立場に立ってものを考えてくれている人が多く、とても良好でやりやすい環境ができていると思います。ほくでんさんは大きなアセットとマンパワーをお持ちですから、連携によって業界を超えた新しいカタチを作りたいと思っています」(NTT東日本 森氏)。

北海道内でも話題を集める連結協定

「地域の発展に向けて連携協定」は非常に大きなチャレンジとして注目を集めており、多くの人が期待をしている。現段階ではまだ目に見える成果があるわけではないが、いま両社は、ひとつでも多くの結果を出そうと奮闘中だ。

「さまざまな事業者さまが今回のニュースリリースを見てくれているようで、2社間以外の商談や打ち合わせの場でも話題に上ることが非常に多いと感じます。多くの方に注目されている連結協定だと思います」(NTT東日本 河井氏)。

  • NTT東日本 北海道事業部 パートナービジネス部 ディーラーアカウント部門 コラボレーション推進担当 担当課長 河井 潤 氏

ほくでんグループとNTT東日本 北海道事業部から、北海道の発展に向けたメッセージをいただいたので、最後にお伝えしたい。

「北海道は全国に先駆けて人口減少が進んでいます。我々のようなインフラ企業が手を結ぶことで、お客さまの生活を守り、そして便利でリーズナブルなサービスを提供することで、北海道の持続的な発展に少しでも貢献していきたいと考えております」(ほくでん 吉本氏)。

「企業が垣根を越えて取り組むと、こんなにもいろいろなことができるとわかりました。やはり地元における電力会社さんのプレゼンスは非常に強いのです。また、北海道は本州と離れた島国ですから、一致団結がしやすい土地柄なのかもしれません。それを活かし、これを機にさらに仲間を増やして、北海道全体を盛り上げていきたいと思います」(NTT東日本 森氏)。