俳優の小栗旬が主演を務める大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が9日にスタートした。第1回「大いなる小競り合い」(脚本:三谷幸喜 演出:吉田照幸)は、1175年安元元年、主人公・北条義時(小栗旬)が「姫、振り落とされないように気をつけて」と言いながら馬を駆り、敵の攻撃から逃げるシーンから始まった。

  • 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』北条義時役の小栗旬

まるで、異国のファンタジー戦記のような趣。威勢のよいオープニング曲と、陰影の深い画面、野望のために敵を陥れていくスリルとサスペンスあふれるストーリーを、「歴史がうねりはじめている」と囁くように語りかける長澤まさみのナレーション。それらには家族で見られる間口の広さがあった。

子どもはいま『鬼滅の刃』で、ヤングは2.5次元もので、和モノに対して好意的だ。とりわけ鎌倉時代は戦国時代や幕末ほど詳しくわからないからこそファンタジー感が高まる。途中、陰惨な出来事も描かれたが、現実から遠い世界のサスペンスとして楽しむことができた。

また、天下を獲ろうと燃える男たちは、『クローズZERO』シリーズや『HiGH&LOW』シリーズのようなやんちゃ感もあって親しみやすい。伊豆の豪族・北条時政(坂東彌十郎)の長男・宗時(片岡愛之助)が「平家をぶっ潰すぜ」と「NHKをぶっ壊す」的なトーンで言い放ったり、宗時が「将門のように坂東で乱を起こすべし!」と言うと時政がSNSをざわつかせた「最後は首チョンバじゃねえかよ」と返すやりとりなど、京都の雅な人たちとはまるで違う、伊豆の田舎の野性的な人たちなんだなあと思う。で、こういう人たちが台頭してくる時代の始まりなのだ。

時政は「(京都の土産が)安いもんじゃねえんだよ」とか「弔いまで重なっちまったよ~」とか言葉遣いがとにかく軽い。ついでに女性関係も軽いようで前の妻が亡くなって日が浅いにもかかわらずもう次の妻・牧の方(宮沢りえ)を嫁に迎えると言って、子どもたちを辟易させる。ところが時政も宗時もふだんやんちゃな人たちなのだが、戦になるときりっと雄々しいのだ。時政は、爺様こと伊東祐親(浅野和之)に向かって「わしがおらんといえばおらんのだ」と毅然と立ち向かう。

娘の政子(小池栄子)も、源頼朝(大泉洋)に一目惚れすると、ぐいぐい迫っていく。頼朝の子を産んだ八重(新垣結衣)も楚々とした姫かと思いきや、わりと辛辣で、キツイ性格のようだ。第2回の予告では義時になにかを投げつけていた。

伊豆の人たち――とりわけ北条家は割とみんな、よく言えば素朴。素直でストレートだ。そんな一家のなかで妙に苦労人キャラなのが義時。「北条を守らねばなりません。勢いで動くわけには行かないのです」と言う。勢いで動く父と兄では北条家が危ういと感じているのだ。のちに北条家が頼朝の死後、将軍の補佐としての執権という役割を世襲するようになり、傀儡の将軍に代わって実質政権を握るようにまで成り上がっていくのは、義時のこの決意あってこそであろう。

でも、第1回のまだ10代の義時は、思いだけはあるが、まだまだ北条一家の一員らしく、思ったことが表情に素直に出てしまう。八重への恋心も、頼朝への不信も、手にとるようにわかる。

義時がはじめて、本心を隠した駆け引きの場を経験するのが、爺様とのやりとりだ。「ここへ来た本当のわけを申せ」と問い詰められる。あやしい劇伴がかかってスリル満点。義時はとぼけるが爺様は何枚も上手で、時政が頼朝を匿っていることをわかっていてかまをかける。

祖父と孫といえどもそこに甘さは微塵もない。だからこそ八重と頼朝の子ども・千鶴丸は殺されてしまうのだ。義時はその現場にニアミスな感じで居合わせてしまう。この瞬間から義時が修羅の道を歩む運命が動き出したといえるだろう。

ラスト、政子の機転で姫の扮装をして、頼朝を後ろに乗せて走る義時の姿はものすごい重荷を背負ってしまったようにも見えた。見事な幕開けだった。

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