藤井竜王の粘りを振り切った千田七段の会心譜

渡辺明名人への挑戦権を争う第80期順位戦、(主催、朝日新聞社・毎日新聞社)は、1月13日にB級1組の11回戦が一斉に行われました。

■昇級争いの大一番

中でも注目を集めたのは藤井聡太竜王―千田翔太七段戦でしょう。ここまで8勝1敗でトップの藤井竜王は、本局に勝てばラスト2戦を残してA級昇級が決まる可能性がありました。対する千田七段は7勝3敗。他力の状態とはいえ、昇級のチャンスは残っています。まずは目の前の強敵に勝たないと始まりません。

本局は藤井竜王の先手で相掛かりに進みました。42手目に歩頭に跳ね出した△4五桂が千田七段の決断の一着です。▲同歩とタダで取られる形ですが、この手によって、桂の後ろに隠れていた角が働き出し、中央にセットした攻め駒も連携した強襲が可能になりました。▲4五同歩以下△8八角成▲同金の角交換から△3九角▲3八飛△5七角成と進み、以降の順で千田七段はさらに飛車も切り飛ばして攻め続けました。自玉が安全で駒を渡すことを恐れる必要がないのが大きく、あとは攻めが続けば勝ちという展開になりました。

■藤井竜王の粘り腰

窮地に追い込まれた藤井竜王は、57手目には1分将棋に追い込まれ、時間切迫とも戦うことになります。そんな中、自陣飛車、妖しい手裏剣の歩を次々と放ち局面を複雑化させていきます。さらには飛車を敵陣に打ち込み、その飛車を自陣に引きつけて守りに使い、さらに侵入して駒を使わせてはまた自陣に舞い戻るというトリッキーな粘りを見せます。トップ棋士の粘りを振り切るのは容易ではありません。

■最後まで緩みなくゴールテープを切った千田七段

しかし最後まで千田七段は的確でした。最後は△8九銀と一見そっぽに打った手が決め手となりました。先手の守備の要である竜に働きかけたもので、この竜の位置がずれれば先手玉は詰むのです。終局時間は翌0時37分。後手番ながら緩急自在の攻めを見せた千田七段の会心譜となりました。

11回戦の結果、A級昇級の可能性が残っているのは8勝2敗の藤井竜王、8勝3敗の千田七段、7勝3敗の稲葉陽八段と佐々木勇気七段の4名となりました。順位の関係上、自力があるのは藤井竜王と稲葉八段です。そして降級は5勝5敗の屋敷伸之九段以下の6名に可能性が残っています。「鬼の棲家」の戦いも残る2戦、最後まで注目です。

相崎修司(将棋情報局)

2022年1月14日15時00分、訂正:8勝2敗でトップの~→8勝1敗でトップの~ 上記訂正させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。

藤井竜王の粘りを振り切った千田七段
藤井竜王の粘りを振り切った千田七段