ミドルコンパクトSUVの新型「NX」は「次世代レクサスの第1弾」に位置づけられるクルマだ。フルモデルチェンジしたNXを見ると、外見は先代と大きく変わっていないような印象だが、このクルマの何が次世代なのか。チーフエンジニアの加藤武明氏に話を聞いた。

  • レクサスの新型「NX」

    新型「NX」は「次世代レクサス」の第1弾となるモデルだ(本稿の写真は撮影:原アキラ)

これまでの歩みは否定しない

――早速ですが、なぜ新型「NX」を「次世代レクサスの第1弾」と呼んでいるのでしょうか。

加藤氏:レクサスの次のチャプターは、今までやってきたことを真っ向から否定するのではなく、カーボンニュートラルの時代に向け、レクサスがトヨタという会社の中で電動化を引っ張っていこうと考えています。その第1弾が、今回の新型NXなんです。

――具体的には?

加藤氏:電動化というと「BEV(電気自動車)がないよね」とか「PHEV(プラグインハイブリッド車)はあるのか」といった感じで、「電動車がどれだけあるか」に注目されがちなんですが、そうした表面的なところだけでなく、「クルマは楽しくなくてはいけない」「売れなければ、普及できなければカーボンニュートラルに向かっていけない」などの視点も必要です。

「レクサスらしい楽しいクルマとは」と思った時、特に電動車というのはモーターを使うので、いわゆる大きなトルクを、わりと瞬時に使うことができる点は重要です。駆動力をいかした走りに進化していくとなると、それをいかすためには、まずボディ。“体幹”といっていますが、いわゆるボディ剛性、シャシー剛性をもう一度、基本に戻ってやる必要があります。それを、このNXからしっかりやっていこうということ。これが一番大きいですね。

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    新型「NX」を作るにあたり、レクサスではクルマの“体幹”づくりに取り組んだ

加藤氏:もうひとつは、人を中心に考えてきた先進安全とか先進技術、つながる技術などです。安全技術が次世代に入った時、人とクルマの関係はどうあるべきか。そこを考えました。マルチメディアも刷新し、さまざまな機能を持たせ、愛されるクルマとして快適な装備を積極的に採用していく。そのあたりをしっかりと行ったのが新型NXです。

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    新型「NX」のチーフエンジニアを務めた加藤武明氏

――走りについては?

加藤氏:今までの「スッキリした走り」をゼロリセットしたわけではありません。電動化の時代になっても、レクサスらしい走りを提供していきます。

今回は適材適所という意味でPHEVを採用しました。特徴は、他社のPHEVよりEVレンジ(バッテリーの電力だけで走れる航続距離)が長いところです。ただ、ハイブリッド車(HV)であっても楽しくなければ選んでもらえないので、走りをよくするためトルクを上げたモーター、つまり大きなサイズのモーターを採用しています。

新型NXにはガソリンエンジン搭載モデルも2種類ありますが、こちらは燃費と環境性能を向上させるため、熱効率を相当引き上げています。将来は水素エンジンやeフューエルにも使えるような技術を盛り込みました。

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    レクサス初となるPHEVモデルのほか、2種類のガソリンエンジンを用意する新型「NX」

――パワートレインが増えましたね。

加藤氏:このチャプターからではなくずっと続けてきたことなんですが、お客様の価値観がどんどん多様化する中で、レクサスは「寄り添いたい」と考えています。そんな理由から、パワートレインを4つにしました。

NXはレクサスの中では量販車種なので、さまざまなニーズがあるんです。例えば日本だけでも、「普通のガソリン車がいい」という方もいれば「やっぱりHVや電動車がいい」という方もいますし、あるいは「トルクがあった方がいい」とか、「そこまで求めないけど内装には先進性が欲しい」など、本当にニーズは多様です。世界を見ると、欧州はHVなどの電動車がほとんどですし、米国だとカリフォルニアは別ですが、まだまだトルクの大きなガソリンエンジンのニーズが大きい。これはロシアや豪州にも当てはまります。グローバルで考えると、さまざまな選択肢が必要になります。

もう少しいうと、日本ではそれぞれのパワートレインが平均的に求められるのですが、欧州は法律的にも税制的にも、ガソリンエンジン車を持っていっても、とてもじゃないけど買っていただけません。逆に東欧に持っていくと、いまだに米国と近い感覚で、普通のガソリンエンジンが売れる。地域によって最適なものに違いがありますし、同じ国の中でも地域最適というのがあるんです。

台湾には5種類目のパワートレインがあります。2.0Lエンジン車です。台湾では「RAV4」(トヨタのSUV)などからラグジュアリークラスに上がってくる方が多くいらっしゃいますので、そうしたお客様に対して2.0Lが販売の柱になっています。

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    レクサスの量販車種である「NX」はさまざまなニーズに対応する必要がある

なぜPHEVにしたのか

――レクサスの新型BEVについても期待の声が届いていると思いますが、いかがでしょう?

加藤氏:BEVを出すことはすでに公表済みですし、レクサスとしても専用BEVを拡充していく必要があると考えています。競合車も電気になっていますからね。

1997年の「プリウス」からそうなんですが、電池には「瞬発型」と「持続型」があります。HVに使う電池とBEVに使う電池は、同じ技術といっても違うといえば違う。ただ、電気をコントロールするという大きな意味では一緒です。電池はある意味、ちゃんとコントロールしないと危ないものなんです。バッテリーについてはノウハウがありますが、まだまだ学ぶべきことはありますし、知見をさらに深めていく必要もあります。

答えはまだわからないんですが、カーボンニュートラルに向け、レクサスは電動車を牽引していきます。HVもまだまだいいと思っていますし、象徴としてのBEV、これも出していく。そうすることでお客様の声も聞こえてくるはずです。

――BEVの問題点は?

加藤氏:BEVには航続距離と充電時間という課題があります。それに、製造するにはレアメタルが必要ですし、製造コストを下げるには生産効率の向上も不可欠です。なので、一気にBEVに移行するのはなかなか難しいと思います。コスト=技術ともいえます。

ガソリンは5分で給油できますが、BEVの充電時間はどれだけ短縮できるのか。急速充電した際のバッテリーへのダメージをどれだけ抑えられるのか。このあたり、まだまだ勉強しなくてはいけないところがあります。

インフラ不足という面もあります。今回、NXがPHEVを採用した理由のひとつです。都内には充電設備がそこそこありますが、BEVで遠出する際、目的地で充電できるのかは気になるところですし、山で道に迷って電気がなくなったらなど、いろんな心配があります。現状、クルマが全てBEVになったとしても、インフラは追いついていません。PHEVであれば、ガソリンがあればなんとかなります。

――NXを楽しむポイントは?

加藤氏:NXのPHEVに乗る際は、ぜひEVモードを楽しんでほしいと思います。EV走行の航続距離(WLTCモード)は約90km近くあり、実用でも60~70kmほど走れるはずです。山登りでは結構電気を使いますが、下りではきちんと回生するので、そのあたりも見てほしいですね。

HVモードだとバッテリーをほぼほぼ維持しながら走っていけますし、チャージモードなら充電しながら走れます。3つのモードでうまく電気をコントロールして、電費・燃費を確認しながら走るのも楽しいと思いますよ。