2018年にPlayStation 4(PS4)で発売されて以来、売上本数1950万本を突破、さらに数々の賞を総なめにした傑作アクションADV『ゴッド・オブ・ウォー』。今回は、2022年1月15日に満を持して発売される同名タイトルのPC版レビューをお届けします。
『God of War』シリーズは、神話の神々とスパルタの戦士「クレイトス」の戦いを描くアクションゲームです。爽快かつ残虐なアクションで人気を博し、2005年から6本のシリーズ作品が生み出されています。
今回取り上げる『ゴッド・オブ・ウォー』はシリーズ最新作(7本目)。続編という立ち位置ですが、システムとストーリーが一新されています。クレイトスの物語は彼とその息子の物語に、戦闘はより戦略的で自由度の高いものに変わりました。シリーズ初心者でも、このレビューであらすじを読めば十分楽しめるでしょう。
心に鬼を飼ったまま、父になろうともがく男の物語
スパルタの戦士に生まれ、ギリシャ神話の戦神アレスから強大な力を得たクレイトス。しかし、彼の力を強めようとするアレスの策略によって、自らの手で妻子を殺めてしまうことに。復讐の鬼と化したクレイトスは、残虐の限りを尽くす戦いの中、次々と憎むべき神を倒します。ついに復讐を果たし、戦いの神としての力を得た彼が選んだのは、胸を貫いて自死するという最期でした。
本作は、それから長い年月が経ったあとの物語です。実はクレイトスは死にきれず、ギリシャから遠く離れた北欧神話の地に流れ着いていました。彼はそこで再び家族をつくり、静かな暮らしを送っていたのです。
ところが妻の死後、平穏な生活に終わりが告げられます。森には怪物が溢れ、クレイトスと息子のアトレウスは謎の刺客に遭遇。クレイトスは妻の遺言に従い、アトレウスに生き残る術を教えるため、そして妻の遺骨を「世界で一番高い山」でまくために、新たな冒険へ出発します。
冒険が始まっても、母を亡くした父子の関係にはぎこちなさがありました。クレイトスは狩りばかりして、息子とあまり話したことがない様子。かつて妻子に手をかけた後ろめたさもあるのでしょうか。クレイトスは、落ち込む息子の肩に手をかけることすらできません。
それでも、凶暴だったクレイトスが、親として振る舞う姿には驚きました。不器用ながら火傷の手当をしてあげたり、狩りのコツを教えたり……。筆者は『GOD OF WAR III』をプレイ済みですが、クレイトスの顔つきや雰囲気が静かになった気がします。ただ、凶暴性が消えたわけではなく、それを無理やり飲み込んだような、不穏な静けさです。
クレイトスは神の力を継ぐ息子に対し、自分のように暴力に溺れてほしくないと考えています。彼は巨大な力を得たことで妻子を失い、凄惨な戦いを経験しました。だからこそ旅を通して、力を持つことの責任を息子に教えようとするのです。対してアトレウスは、自分や母と関わろうとしなかった父を嫌うと同時に、父に認めてほしいとも思っています。
そんな複雑な思いを抱えた2人なので、最初はぶつかり合うことも。けれど旅を通して少しずつ会話が増え、わだかまりが溶けていきます。父は息子の成長を認め、息子は父の教えに感謝する、という信頼関係ができていく描写は感動的です。
順調に父になるかと思えたクレイトスですが、自らの過去と再び向き合わなければならないときがやってきます。実はアトレウスは、父が戦いの果てに神の力を得たことも、自分がその力を継いでいることも知りません。自分と父はただの人間だと思っているのです。しかし彼は次第に違和感に気づき、自分の正体を見失い、心身共に苦しむことになります。
果たしてクレイトスは、息子のために真実を明かすのか。穏やかな時間を手に入れても、忌まわしい過去はクレイトスにいつまでも付きまといます。そのうえ戦いを通して、自分の中に未だに残る残虐性を思い知ることに。それでも父として、息子を必死に導こうとするクレイトスのアンバランスな姿が胸に刺さりました。
さらに全編ワンショットのゲーム体験で、彼らの苦悩や喜びをありありと感じられます。カットがないので没入感が途切れず、むしろ強まる一方。戦闘パートとムービーがシームレスにつながり、ロード画面さえないことには驚きしかありません。モニターを超えて、本当に2人と同じ世界で旅しているかのような感覚を、ぜひ味わってみてください。
壊すだけの戦いから、つながりを育む戦いへ
本作はストーリーだけではなく、戦闘を通してでもアトレウスとのつながりを感じられるようになっています。
今までの『God of War』シリーズは、クレイトスがたった1人で繰り広げる、爽快で残虐なアクションが中心でした。規格外の大きさの敵や、ダイナミックに動くステージなど、その迫力は今見ても衰えません。
以上の魅力はそのままに、本作の戦闘システムは、息子アトレウスとの連携が欠かせない戦略的なものへ進化しました。アクションゲームとしては難易度が高めなので、緊張感のあるゲームが好きな人におすすめです。
プレイヤーはクレイトスを操作しつつ、アトレウスに指示を出して北欧神話の神や怪物と戦います。クレイトスが操る武器は、斧の「リヴァイアサン」です。撃ってほしい敵を指定すると、アトレウスが「かぎ爪の弓」で攻撃してくれます。
アトレウスの矢にはいろいろな効果があるので、戦況に合わせて的確に使うことが大事です。たとえば、レヴェナントという敵は、素早すぎてクレイトスの攻撃が当たりません。しかし矢を当てるとスタンして、クレイトスも攻撃できるようになるのです。ほかにもアトレウスの矢には、気をそらす、ガード解除、などの効果があります。
そして、どちらの武器も、スキルによって多彩な技を解放することが可能です。クレイトスにはリヴァイアサンの近距離・遠距離攻撃、素手攻撃、スパルタン・レイジ用の4つのスキルツリーがあります。リヴァイアサンを投げる攻撃が遠距離攻撃で、ボタン1つで投げた斧を手元に呼び戻せます。斧が戻るときにも軌道上の敵を攻撃できる点が、戦闘にひねりを加えていました。スパルタン・レイジは、クレイトスのパワーが一時的にアップするモード。一方、アトレウスのスキルでは矢の攻撃力を上げたり、クレイトスとの連携を意識したアクロバットなどを強化できます。
またスキル技に加えて、特殊攻撃「ルーンアタック」も登場。ルーンを2人の武器にはめると使える技で、いろいろなルーンを付け替えられるのが特徴です。気分や戦況に合わせて、ゴージャスで超強力な攻撃を楽しめます。
アトレウスを強化すると目に見えて頼もしくなるので、戦闘中によく感動してしまいました。最初はちょろちょろと父の周りを走っていたのに、気がついたらクレイトスの背中からジャンプショットをかっこよくキメています。完璧な連携プレイができた瞬間は最高。親子としてだけではなく、頼りになるバディとしての絆も感じられました。
本作では、ステータスを調整して、自分のプレイスタイルに合った育成をすることもできます。ステータスは筋力・ルーン・防御力・生命力・運・クールダウンの6種類。筆者は通常攻撃の威力を上げる筋力と、ルーンアタックのチャージ時間を短縮するクールダウンを中心に伸ばしました。脳筋な筆者好みの、とにかく派手な戦い方向きのステータスです。ステータスは武器や防具で調整できます。
連携や多彩なスキル技、ステータスによって、何通りもの戦い方ができるようになった本作。過去作よりパリィや回避が重要視される、神経を研ぎ澄ます一面のあるアクションに仕上がっています。ただ、どこを切り取っても絵になる大技を、連続でぶちかます快感は健在。クレイトスの圧倒的な力に酔いしれる感覚も、リヴァイアサンの重厚な使用感や、相変わらずの残虐描写によって引き継がれています。
残虐描写と言えば、シリーズおなじみのCSアタックにも変化がありました。CSアタックとは、画面に表示される複数のボタンを、指示通りに押すと発動するフィニッシュムーブです(いわゆるQTE)。簡単操作で残虐な大技が出せるのですが、一度でも押すボタンを間違えると最初からやり直しになる点が、筆者は苦手でした。
本作では、フィニッシュムーブがほぼ1つのボタンだけで済むようになっています。押し間違いを恐れず、勢いのまま技を出せるので好感触でした。
プレイヤーがカメラを自由に動かせるようになったことも、注目すべき変更点です。今までは見下ろし視点で固定されていたのですが、本作からはクレイトスの肩ごしの視点に変わっています。より戦場を近くに感じる、臨場感あるアクションが味わえました。死角は増えたものの、アトレウスが敵の方向などを教えてくれるので心配はいりません。
厳しく美しい北欧神話の世界を堪能
『ゴッド・オブ・ウォー』は、北欧神話の世界を忠実に再現しています。冒険の舞台は、世界樹ユグドラシルを中心に存在する9つもの世界です。人間が住むミズガルズ、エルフが戦争を続けるアルフヘイムなど、雰囲気の異なる世界を巡ることができます。神話にふさわしい、ファンタジックで雄大な景色の数々は必見です。
ストーリーの大枠も北欧神話の物語に則っていて、敵や味方キャラクターは神話と同じ名前で登場します。実際の北欧神話と照らし合わせて楽しめる、考察しがいのあるストーリーです。クセが強いけど人情味にあふれる仲間たちは、きっと多くのプレイヤーに気に入られるはず。絶交中のドワーフの兄弟や、おしゃべり好きな知の巨人ミーミルと進むにぎやかな旅路は魅力的でした。
9つの世界には、さまざまなサブクエストが用意されています。特に北欧神話の世界の住人と関わり、人助けをするサブクエストが多い印象です。そのいくつかはクレイトスがアトレウスに教訓を授けたり、お互いの考えを知る対話の機会になっています。単なるおつかいではなく、父と子の成長譚である本作らしい、血の通ったサブクエストです。ただ、サブクエストの戦闘はメインクエストに比べてハードなので、しっかり準備してから取り掛かるといいでしょう。
道中にはパズル的な仕掛けもあり、それを解いて未知の場所へ進めるようになっています。少し難しいものがありますが、詰んでしまうほどではありません。適度な難易度で、ひらめきを得る快感を味わえます。
また、物語をより豊かに描くため、細かい部分まで丁寧に作りこまれていることに驚きました。
たとえば、小舟で移動する際のちょっとした待ち時間。冒険には舟が欠かせないのですが、ゲームでは乗り物を操作する時間を暇に感じてしまうこともあると思います。しかし本作では、その間にキャラクターたちの会話をたっぷり聞けるのです。クレイトスがアトレウスに昔話をせがまれたり、ミーミルが北欧神話について教えてくれたり……。持て余しがちな時間を活かして、キャラクターや世界について深く知ることができます。
もう1つ紹介したい要素が「動物寓意譚」です。アトレウスが敵モンスターの生態を記したノートで、弱点や攻略法を把握できます。けれどただ書いてあるだけではなく、アトレウス自身の口調で、モンスターに対する彼の私的な見解や、本編では知ることのできない両親への思いを絡めて書かれています。こういったログには無機質なものが多いですが、まるで交換日記を読んだような暖かい気持ちになれました。
推奨スペック以下でも期待以上のパフォーマンス
PC版『ゴッド・オブ・ウォー』は、NVIDIA DLSSとAMD FidelityFX Super Resolutionに対応しています。どちらも高いフレームレートと高画質を両立させる超解像技術ですが、DLSSはGeForce RTXシリーズのみで、FidelityFX Super ResolutionはAMDとNIVIDIAのGPU両方で使用できます。
筆者のPCでは、DLSSとFidelityFX Super Resolutionのどちらも使えるので、実際に試してみました。
・筆者使用PCスペック
CPU:Intel Core i7-10700K
GPU:GeForce RTX 2060 SUPER(8GB)
メモリ:16GB
まずは解像度1440p、プリセットは高、VSyncオン(60Hz)という設定。この設定で60fpsを出すには、筆者PCのGPUであるRTX 2060 SUPERより少しグレードの高い、RTX 2070が必要です。しかし、DLSSをオンにすると、ほぼ60fpsで安定してプレイできました。FidelityFX Super Resolutionをオンにしても、同じような結果です。ただ、DLSSのほうがシャープなグラフィックになりました。
より高いスペックが必要な4Kに設定しても(プリセットはオリジナル、VSyncオン)、DLSSをオンにすれば安定して50~60fpsを出せます。複数の敵が登場してもパフォーマンスはあまり変わりません。まれに40fpsほどまで落ちますが、スペックを考えると予想以上の結果です(4K/60fpsを出すにはRTX 3080クラスに近いGPUが必要)。ぬるぬる動くのに、リヴァイアサンから放たれる氷まで綺麗に表現された、大満足の戦闘を体験できます。DLSSをオフにすると30~40fpsまで落ち、明らかに滑らかさがなくなりました。
なおPC版はほかにも、低遅延技術のNVIDIA Reflex、ウルトラワイドモニター、マウスキーボードの操作割り当て、各種コントローラーに対応しています。
おすすめしない理由がないPC移植版
エモーショナルな父子の成長譚と、爽快かつ戦略的なアクションを楽しめる『ゴッド・オブ・ウォー』。あるときは細部まで丁寧に描かれた訳アリ親子の感情に、またあるときは暴力的ながら息子との絆を感じる戦闘に、とても心を動かされました。
PCへの移植品質も良く、おすすめしない理由がありません。2022年には続編の『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』(PS4/PS5)が発売予定なので、ぜひシリーズ未経験の方もプレイしてみてください。