これまでにない強烈な品薄ぶりが話題になっているニコンのフルサイズミラーレス「Z 9」。レンズ交換式カメラのフラッグシップ機で重要となる操作性やファインダー、さらにメカシャッターを搭載せず電子シャッターでの撮影となるZ 9で気になるローリングシャッターゆがみの程度など、気になる部分を落合カメラマンにさらに深掘りしてもらいました。

  • ニコンが2021年12月下旬に販売を開始した「Z 9」。カメラ量販店での実売価格は70万円前後だが、強い品薄で入手困難な状況となっている。装着しているレンズは大三元の望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」(実売価格は32万円前後)で、こちらも2021年8月の販売開始以来入荷待ちの状況が続く

スペックだけでは分からないEVFの巧みな仕上がり

メカシャターを搭載しないという、このクラスのミラーレス機としてはチャレンジングな作りを採用していながら、一方ではその使い心地に「古き良きフラッグシップ一眼レフ」に似たテイストを確かに感じるという、不思議なバランスがニコン「Z 9」には備わっている。何がそうさせているのか? デカくて重いから? う、うーん、それもないとはいわないけれど…。

まず、各種動作と操作感に備わる機械モノとしての精密感が現行のミラーレス機としては随一だ。デバイスの塊と化しているデジカメには希有な「そうそう、カメラって機械(だったはず)なんだよね」と思い起こさせる作りがZ 9には備わっている。これは、ボディの骨格、および重量バランスからくる手応えがそう感じさせているのかも? とにかく、体幹がしっかりしている。

もうひとつは、ファインダーのデキの良さ。「EVFとして良くできている」の領域をはるかに超え、まさか「写真機のファインダーとして良くできている」と言わしめるほどの仕上がりを見せてくるとは思わなかった。しかし、よくよく考えてみれば予兆はあったともいえる。「せっかくお目見えしたけれど、他社との比較ではまだまだだねぇ…」なんてことをいわれてしまったZの初代、つまり「Z 6」や「Z 7」も、搭載しているEVFが見せることになった出色のクオリティには誰もが賛辞を贈ることになっていたのだ。「こりゃスゲー。サイコーのEVFだ」と。

ぶっちゃけ、それはパナソニック「S1」シリーズの登場であっけなく力を失うことになってしまった“ひとしきりの魅力”ではあったのだが、単体で見ればその実力、未だ第一線級。そして、Zシリーズ初のフラッグシップ機を標榜するZ 9にとっては、Z 6やZ 7以上のクオリティをEVFに与えることは基本のキ、大前提であったことは想像に難くない。

光学ファインダーと見まがうほどの“見え”の良さは、明るいところをキッチリ明るく見せることにこだわった(のであろう)作り込みの恩恵だろうか。夜間など暗所における大きなマイナス補正にもちゃんと追随する明るさ(暗さ)再現でも群を抜く印象だ。不思議なのは、従来とは次元が違うようにさえ思えるEVFなのに、EVFとしての表だったスペックがZ 6、Z 7と変わらないこと。最もシンプルな指標となるドット数はZ 6、Z 7と同じ約369万ドットなのである(パネルのサイズも0.5型で同一)。

参考までに、これまた驚異の“見え”を有するソニー「α7S III」のEVFは、934万7184ドットの超ハイスペックを誇る。しかし、「リアルな見え方」を重視するならば、何故かZ 9の方が印象が良かったりするからこれまた不思議。α7S IIIのEVFは、高精細な画像データを8Kのモニターで見ている時のような、とことんシャープな、でもどこかヌルッとしている感じの描画であるのに対し、Z 9のファインダー像には“化学調味料的な味付け”を感じさせないリアルさがある。Z 9最大の魅力と強み、ここに極まれり。「写真機」に対するニコンの矜持と底力が言葉少なに滲み出ているのは、まさにここだろう。

他社のカメラとは違った高感度画質の味付け

Z 9を使い始めて最初に意外な思いを抱いたのは、ISOオートで制御される上限感度の初期設定(ISO25600)だった。これは、ニコン自身がさりげなく推奨している常用感度の上限がISO25600であることの表れだ。個人的には、何の疑いもなくISO51200レベルであろうと思い込んでいたのでちょっとビックリ。そりゃ、まぁ、有効画素数45MPの高画素機ではあるので、高感度番長ではないところに文句はないのだが…。

実際にISO25600の画を見ると、なるほどこれが上限であることにはすんなり納得の仕上がりではある。好みによっては、キヤノン「EOS R5」やソニー「α7R III」の方が「超高感度画質はいいんじゃない?」との判断を下すこともありそうだ。つまり、Z 9の超高感度画質に飛び抜けたモノはないということになる。高感度ノイズの処理が、そもそも「等倍検証」を相手にしてないというか、鑑賞サイズにおいて最適な印象を得られるようにコントロールされているようにも感じるところがユニークだ。

一方、カメラ内JPEGとRAWを処理してのJPEGに仕上がり差(ノイズ感の違い)がないところには好印象。ここはソニー陣営が苦手としている(?)ところで、ソニーの場合カメラが生成するJPEGなみの超高感度画質をRAWから得るのがけっこう難しい(個人的な印象です)。結果、どうしてもRAWで撮るのを躊躇することになるのだが、ニコンには以前からそれがなく、その“安心感”はZ 9にもしっかり引き継がれている。

さらに、Z 9で撮ったさまざまな写真を見続けるうち、超高感度画質に対する一種ネガティブな思いがどんどん薄れていったのも「Z 9のナゾ」のひとつ。画像検証の素材ではなく、徹頭徹尾“写真”であり続けることを目指した(ようにも思える)画作りの妙が、知らぬ間に我が儘な我が身にも染み込んでいたのかもしれない。Z 9の画作りには、教わることが多そうな気がする。

  • ハーフトーン部分のノイズが目につくが、電線や金網など細かい人工物を溶かさず丁寧に再現しているところや、手前のピントが外れている部分にある物体の「しなやかにボケている描写」などに、ノイズリダクション(NR)処理の繊細さが感じられる。高感度NR設定は初期設定の「標準」。手持ちの1/4秒撮影だ(NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR使用、ISO25600、1/4秒、F5.6)

  • 超高感度領域は、何も暗いところだけではなく、明るさが稼ぎにくい場面でハイスピードシャッターをきりたいときにも使うことになるので、高感度時の画質は良いに越したことはない。このシチュエーションで得られたISO22800の仕上がり画質をどう評価するかは、あなた次第(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR+FTZ II使用、ISO22800、1/2000秒、F5.6)

  • AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VRをマウントアダプター「FTZ II」を介して装着。小型軽量なところがイロイロ助かる超望遠レンズなのだが、その狭い画角をものともせず、しかも遅くはないスピードで移動している被写体をきっちりギチギチなフレーミングで捉えられているのは、Z 9の"本当のブラックアウトフリー表示”とファインダー表示そのものが高品位であることの恩恵だ。連写中のフレーミング微調整がしやすいことにおいて、Z 9の右に出るミラーレス機は現状、存在しないと感じた次第である(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR+FTZ II使用、ISO5000、1/2000秒、F5.6、-0.7補正)

  • 飛び抜けるカラスをベストな位置にベターな並びで入れ込むために連写を活用。シャッタースピードは1/25秒だったので、通常撮影の最高速約20コマ/秒には大きく及ばぬコマ速ではあったが、"使える"カットがちゃんと撮れていたことに満足。大きめのマイナス補正をかけての撮影だが、ファインダーでこの仕上がりイメージは100%把握できていた(NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR使用、ISO160、1/25秒、F5.6、-1.3補正)

メカシャッターを搭載しないことを知ったとき真っ先に気になったのは、いわゆる「電子シャッターゆがみ」がどこまで抑えられているかだったのだが、実際に使ってみたらここでもビックリ。並みの動体を撮っている限り、当該の「ゆがみ」に悩まされることは皆無だ。これはスゴい。ニコンが自信を持って「メカシャッター非搭載」を決断したことがハッキリ分かる仕上がりだ。

  • けっこうなスピードでカメラを振って撮っているのだが、後ボケ(ビル群)が斜めに描写されるなどの、いわゆる電子シャッターゆがみは感じられない(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR+FTZ II使用、ISO360、1/2000秒、F5.6、+0.7補正)

  • ヘリコプターのローターも、このように真っ直ぐピタリ。これならば、動体も安心して撮れる。実用性十分な電子シャッターだ(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR+FTZ II使用、ISO450、1/2000秒、F5.6、+1.7補正)

  • 着目すべきはハイライト部のテクスチャ。肉眼で見た以上に余裕を持って再現されている。高速性と高解像度とこの繊細な画作りが生み出す三位一体の魅力こそがZ 9の持ち味だ(NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR使用、ISO100、1/60秒、F8.0)

  • 光と影の複雑なバランスが奥行き感を演出するような場面でも、Z 9の優秀なEVFはジラジラすることのないクリアな表示を見せ、しかも微妙な明暗差や色再現までもを極めて正確に伝えてくれた。オートホワイトバランス「自然光オート」が従来よりもイイ感じの仕事をしてくれている印象も、個人的には抱くことになっている(NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S使用、ISO125、1/200秒、F8.0、-2補正)

  • この距離感では、さすがに被写体を認識してくれることはなかったが、ピントはこの構図のままオートエリアAF(測距点自動選択)にお任せで問題なし。ガッチガチのエッジ再現でも成立しそうなところ、極めて柔和な細部描写を見せてくれるところに画作りの奥深さを感じる(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR+FTZ II使用、ISO720、1/2000秒、F5.6、+1補正)

  • 一眼レフの光学ファインダーのような「見え心地」を有していながら、その実態はEVFなのだから当然のように仕上がりイメージ(露出や色の調整効果)が正確に把握できるという、「夢の光学ファインダー」的なハイブリッドな使い勝手が頼もしいZ 9のEVF。逆光の厳しい場面ながら、AFは瞳をしっかり認識してくれた(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR+FTZ II使用、ISO10000、1/4000秒、F5.6、+2.3補正)

  • 眩しいから適度に雲がかかったところで撮影・・・って、あれ? EVFで西に傾いた太陽を見て眩しく感じたことってあったっけ? この場面では、AFは太陽を「認識」した上でピントを合わせてくれたのだけど、そこにある丸いものが何であると判断したのかはわからない。でも、ピントはバッチリ。黒点も見えている(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR+FTZ II使用、ISO100、1/2500秒、F8.0、-0.3補正)

  • シンプルにシルエットにしてしまっても良かった場面だが、Z 9のEVF表示を頼りに主役の表情や羽毛の見え方を適度に維持しつつ、水面の輝きと色が失われないような"適切な露出補正値"を導いての撮影を実行。AFは「顔」をしっかり認識しての動作だった(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR+FTZ II使用、ISO800、1/2000秒、F5.6、+1補正)

ファンの期待に応えたZ 9、ファンが期待する次の展開

ニコンZの第二章を牽引するにふさわしい完成度の高さをZ 9はちゃんと有していた。よもや、中途半端なモノは出せない状況であることは明白で、だからこそそれは当然の流れではあるものの、「もう、追いついていないなんて言わせない!」…そんな中の人の声が聞こえてきそうな、自信に満ちあふれるカメラになっている点には正直、胸をなで下ろす思いだ。Z 9を必要とする人は、躊躇なくZ 9手に入れて構わないと思う。後悔はしないはずだ。

とか何とかいいながら、個人的には「F5とF100」や「D3とD700」などに倣う、Zならではの“新たなゴールデンコンビ”の誕生、すなわち「もうチョイ小さなデキるヤツ」の登場に対する期待感もチラホラ…いや、ギンギンだ。Z 9のテイストを引き継ぎつつの小型化には、“動力性能”に見合う電源の確保がネックになりそうだが、ゆがまぬ電子シャッターならば秒間コマ速に贅沢は申しません。きっとニコンはやってくれるハズ! いや、でも、とりあえずはムリをしないで立て直しを図って欲しいかな。「ニコンらしいニコンのカメラ」って、やっぱりこの世になくてはならぬものなのだから。

  • 被写体認識をはじめとするAF性能、ファインダー性能、ボディの操作性や質感、高感度画質、電子シャッターゆがみの少なさなど、Z 9の完成度の高さに文句なしの評価を与えた落合カメラマン。Z 9と“Z 9ジュニア”の2台を両肩に提げて撮影に臨む姿が見られる日が来るかもしれない