富士通クライアントコンピューティング(以下、FCCL)の「FMV Zero LIFEBOOK WU4/F3」は、13.3型ディスプレイを搭載したクラムシェルスタイルのノートPCだ。
“Zero”という名称から「もしかして“あの”ZeroのFMV版?」なんてことを真っ先に考えてしまったりするかもしれないが、それとは全く関係なく、FMVラインナップ最軽量のLIFEBOOK UH-X……、ではなくて、見た目は同じだが長時間バッテリー駆動時間を訴求する(のでちょっとだけ重い)「LIFEBOOK UH90/F3」をベースとしたWeb販売限定のモデルとして企画されている。
13.3型で865g。薄くて軽くて長時間動くノートPC
FMVシリーズの最軽量モデルではないもの、最軽量状態における本体の重さは公式値で865gと13.3型ディスプレイモデルとしては十分に軽い。本体のサイズはW307×D197×H15.5mmとこのサイズのモデルとしては平均的だ。
モバイル志向のノートPCとして、ディスプレイは大きく見やすく、キーボードのピッチが確保されてレイアウトに無理がなく、それでいてバックに収めやすく軽い。作業性と携帯性のバランスがよく取れている、ある意味モバイルノートPCの“黄金比”を順当に踏まえているといえる。
Web販売限定モデルということでシステム構成はカスタマイズ可能だ。富士通パソコン通販サイト「WEB MART」で、LIFEBOOK UHシリーズのカスタムメイドモデルの1つとしてFMV Zeroの項目を用意して構成を選べるようにしている。
構成を選べるのはOSにCPU、システムメモリ容量、ストレージ容量で、OSはWindows 11 Pro 64ビット版、もしくはWindows 11 Home 64ビット版、CPUはCore i7-1165G7、もしくはCore i5-1135G7、システムメモリはLPDDR4X-4266をデュアルチャネル構成で8GB、16GB、32GBから選択できる。ストレージ容量はPCIe接続SSDで256GB、512GB、1TB、2TBから選択する。
ボディは黒に統一、キーボードもアルファベットのみ刻印
システム構成でカスタマイズが可能な一方で、FMVの個人向けPCにおける特徴ともいえる、豊富なソフトウェアの数々がFMV Zeroには付属しない。
以前マイナビニュースに掲載された、山田祥平氏によるFCCL代表取締役社長 大隈健史氏の取材記事にもあるように、FMV Zeroは「シンプルで余計なノイズを入れないハードウェアというコンセプト」を掲げて、付属するソフトウェアをノイズキャンセリングユーティリティとウイルス対策ソフトウェア、サウンドカスタマイズユーティリティなどに絞っている(購入時にOffice Home & Business 2021の導入を選択可能)。
“シンプルで余計なノイズを入れない”という思想はデザインにも影響している。ボディカラーはブラックに統一し、光沢パーツと非光沢素材を使い分けることでデザインにアクセントを設けている。FMVロゴも、天板の一隅に寄せた位置にブラックの光沢パーツでコンパクトに収まっている。
また、キーボードトップではかなを廃してアルファベットのみを大きく刻印することでシンプルかつ見やすいデザインを実現している。なお、キーボードにはバックライトを用意し、無点灯を含めて三段階で輝度を設定できるが、実際に使ってみると視認性を確保するために常時点灯しておくのが望ましいと感じた。
Core i7-1165G7搭載の上位機でベンチマークをチェック
今回評価した試用機はCPUにCore i7-1165G7を載せた上位構成となる。この上位構成の処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、3DMark、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 7.0.0 x64、そしてファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズを実施した。
ただし、評価用試用機ということでシステムメモリの容量が8GBとWEB MARTでCore i7-1165G7搭載状態で選択できる最小構成の16GBより少ない(8GBを選択できるのはCPUにCore i5-1135G7を指定したときのみ)。その他にも評価用試用機はBIOSをはじめとして処理能力チューニング中のため、ベンチマークテストのスコアはあくまでも参考値となる。
なお、比較対象としてCPUにRyzen 5 PRO 4650U(6コア12スレッド、動作クロック2.1GHz/4GHz、L3キャッシュ容量8MB、統合グラフィックスコア Radeon Graphics)を搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット、システムメモリがDDR4-3200 8GB、ストレージがSSD 256GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。
FMV Zeroのベンチマーク結果
ベンチマークテスト | FMV Zero | 比較対象ノートPC |
---|---|---|
PCMark 10 | 4511 | 4542 |
PCMark 10 Essential | 9272 | 8649 |
PCMark 10 Productivity | 5500 | 6712 |
PCMark 10 Digital Content Creation | 4885 | 4383 |
CINEBENCH R23 CPU | 4594 | 6086 |
CINEBENCH R23 CPU(single) | 1321 | 1158 |
CrystalDiskMark 7.0.0 x64 Seq1M Q8T1 Read | 2980.34 | 3590.85 |
CrystalDiskMark 7.0.0 x64 Seq1M Q8T1 Write | 2787.57 | 2347.96 |
3DMark Night Raid | 20663 | 10635 |
FFXIV:漆黒のヴィランズ(最高品質) | 4054「快適」 | 2348「普通」 |
PCMark10において、ともにCPU処理能力のウェイトが高いEssentialとProductivityのスコアでは、EssentialでFMV Zeroが優勢ながらProductivityで下回り、グラフィックス処理のウェイトが高いDigital Content CreationのスコアではIris Xe Graphicsを組み込んだFMV Zeroが、Radeon Graphicsを統合したRyzen 5 PRO 4650U搭載モデルを上回った。
CINEBENCH R23では、12スレッド対応のRyzen 5 PRO 4650U搭載モデルが上回るものの、シングルスレッド測定では動作クロックで優れるCore i7-1165G7を搭載するFMV Zeroが高い値を示した。
また、ゲームベンチマークテストの3DMark、ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズのスコアはいずれもFMV Zeroが大きく上回った。同様にストレージの転送速度を評価するCrystalDiskMark 7.0.0 x64では、シーケンシャルリードでRyzen搭載ノートPCが、シーケンシャルライトでFMV Zeroが優勢だった。
本体の熱さやファン音はどのくらい?
繰り返しになるがFMV Zeroは高い処理能力を持ちながら長時間バッテリー駆動時間と軽量ボディによる優れた携行性を重視している。
となると、外に持ち出してカフェや図書館で使う場合における騒音や、電車(特に横座り車両)で膝にのせて使うときのボディ表面温度もチェックしておきたい。
そこで、電源プランをパフォーマンス優先に設定して3DMark NightRaidを実行し、CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パークレスト左側、パームレスト左側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定した表面温度と、騒音計で測定した音圧の値は次のようになった。
表面温度(Fキー) | 40.8度 |
---|---|
表面温度(Jキー) | 35.0度 |
表面温度(パームレスト左側) | 30.2度 |
表面温度(パームレスト右側) | 28.6度 |
表面温度(底面) | 50.9度 |
発生音 | 48.4dBA(暗騒音37.6dBA) |
ホームポジションキートップとパームレストの表面温度では、Fキーが40度まで上がったものの総じて体温より低めで、熱く感じるところはなかった。左手がかかる領域も熱を軽く感じる状況だった。
ただ底面では、最も温度の高いところで50.9度と、低温やけどのリスクがあるとされている45度前後を上回っている(日本創傷外科学会のHPより)。温度が高くなる箇所は、本体奥のやや左寄りに集中している。衣服の上から本体を載せていても、負荷が高い作業を長時間行った場合は低温やけどのリスクが高くなるので注意したい。
ファンが発する音量は測定値としては大きいものの、音域があまり高くないので不快な音ではない。とはいえ、音が鳴っているのははっきりと認識できるので、静かな図書館やカフェなどでは、電源プランをバランスなどに設定してファンの回転数を抑えるのが無難だろう。
薄型でも豊富なインタフェース、AIノイキャン機能も搭載
本体に搭載するインタフェースは、Thunderbolt 4 USB4(Gen3) Type-C(USB Power Delivery対応、DisplayPort Alt Mode対応)が2基にUSB 3.2(Gen1)Type Aが2基、ヘッドホン&マイク端子に加えて、最近の薄型軽量ノートPCでは載せなくなってきたSDカードスロットにHDMI出力(Standard A)、有線LAN用のRJ45まで備える。
無線接続インタフェースでは、IEEE802.11axまでカバーするWi-Fi 6(2.4GHz対応)とBluetooth 5.1を利用できる。
最近需要が増えているビデオチャット用の機能としては、ディスプレイ上側にカメラを内蔵する。720p対応で有効画素数が約92万画素、ステレオマイクも組み込んでいる。
また、先に述べたようにAIエンジンを活用したノイズキャンセリング機能を導入して、テレビの音やキーボードのタイプ音、ペットの鳴き声など周囲の環境雑音を取り除きつつ、周囲にいる人の声を内蔵マイクで抽出するモードと、PCの前にいる人(内蔵マイクに向かって左右30度の範囲)の声だけを抽出するモードに切り替えることが可能だ。
キーボードでは、キーピッチが約19ミリ(キートップサイズは実測で14.5ミリ)、キーストロークが約1.5ミリを、それぞれ確保している。本体に「リフトアップヒンジ」機構を備えているので、ディスプレイを90度以上開くとキーボード側本体の奥が浮き上がって傾斜がかかり、キーボードがタイプしやすくなる。
リフトアップ機構を導入するとディスプレイ開度に制限がかかる場合が多いが、FMV Zeroではディスプレイが180度まで開くので、使う姿勢に合わせてディスプレイの角度を調整できて使う姿勢に無理がかからない。
富士通らしからぬ「シンプル イズ ベスト」な1台
FMV Zeroは、FMVラインアップで高い処理能力とモバイル性能を有するLIFEBOOK UHシリーズの長時間バッテリー駆動モデルに「シンプル イズ ベスト」の思想を反映した、ある意味「富士通らしからぬ」製品だ。
自分で自在にPCを扱えて、かつ、Thunderbolt 4やWi-Fi 6といった最新規格だけでなくHDMIやSDメモリースロットといった、最近の薄型軽量ノートPCでは載せなくなった“枯れた”規格も使いたいユーザーにとって、FMV Zeroは“製品名称”以上の価値があるモデルとなるだろう。