岡玄樹氏は2021年1月、レッドハットの代表取締役社長に就任した。岡氏は同職に就く前、以前はレッドハットの商売敵でもあった日本マイクロソフトの常務執行役員兼COOとして、日本事業を統括していた。今回、同氏がレッドハットに入社した理由、2021年の総括、2022年の抱負について聞いた。

レッドハットに入社した最大の理由は「オープンな企業文化」

岡氏は、レッドハットに入社した一番大きな理由は「独自の企業文化を持っていること」と語る。「レッドハットはオープンソースのコミュニティに最も近い一般企業であり、ビジネスモデルも独特です。OSS(オープンソースソフト)を製品化しても、それ自体からはフィーを取ることはできません。レッドハットは企業文化にOSSのコミュニティの在り方を取り込もうとしています」と同氏は話す。

岡氏は、具体的に、レッドハットの企業文化において面白いと思った点を2つ教えてくれた。1つは、オープンソースの世界の「You are not your code」という言葉がカルチャーとして根付いていることだ。「You are not your code」は、「あなたとコードは切り離して考えるべき」という意味だ。

これを企業文化にあてはめて考えると、「ある発言をした人が誰かは関係ない、大事なことは何を言ったかということ」(岡氏)になる。レッドハットには、このアイデアを高めようというカルチャーがあるという。

岡氏は、「このカルチャーは経営層からすると、部下がいうことを聞いてくれないなど、厄介なこともあります。しかし、レッドハットではこういうカルチャーを受け容れて、事に臨まないといけません。日本にはなかなか根付かないカルチャーでしょう。だからこそ、こういうカルチャーの下で、伝統的な日本企業をサポートすることにやりがいを感じます」と話す。

もう1つの魅力が「とりあえずやってみるという精神」だ。オープンソースの世界では、いいアイデアがあったらどんどん出し、みんなで話し合っていいものを作り上げていく。岡氏は、米国にはこの「やってみる精神」が浸透しているが、日本にはないと指摘する。

岡氏は米国と日本で就業経験があるが、企画をまとめるよう指示を出した場合、米国ではすぐにフィードバックを求めに来て、やり取りを繰り返すうちに、数週間ですりあわせができているそうだ。対する日本では、期限直前に成果が提出され、その内容は求めていたものからかけ離れているケースもあり、しかも、作業期間中に起きたことが反映されていないこともあるそうだ。

レッドハットにはこうした日本の変えにくい文化に対して、エッジを持っているという印象を持っており、「これは面白い」と感じていたそうだ。

すぐれたエンジニアリングで日本企業を変革していく

岡氏は「もちろん、ビジネス面の魅力も精査しました」と話す。「今、レッドハットは転換期にいます。レッドハットは日本にいる外資系企業では老舗ですが、Linuxベンダーとしてのイメージが大きいです。OSはすべての企業がお客さまとなりうるため、そのままでも成長していくでしょう。しかし、ここにきて面白い技術が出てきました。KubernetesコンテナプラットフォームであるOpenShiftとITインフラの運用を自動化するAnsibleがポートフォリオに加わっています」と岡氏。

なぜ、OpenShiftとAnsibleに可能性を感じるのか。岡氏は、「コンテナや自動化は難しい技術であり、導入には骨が折れるので、すべての企業をお客さまにはできません。どうしたら、マスに向けていたLinuxにフォーカスしたビジネスモデルから、一社に深く入り込んで変革を支援するビジネスモデルに切り替えることができるか。ビジネスにおけるチャレンジとしても面白さを感じました」と話す。

岡氏がレッドハットの社長として、挑戦したいことは2つある。まず、外資系企業の強みを生かし、世界中で起きていることを日本に持ってくることだ。「日本企業は外のベストプラクティスを学ぶことは得意ですが、それを落とし込めていませんし、やり切れていません」と岡氏。

例えば、現在、アジャイルが流行しているが、日本企業はそのための体制を切り替えなくてはいけないと、そのための勉強をするがそれではいけないという。

さらに、コンサルティング部隊が客と膝詰めで ケイパビリティの身に着け方を伝授する術を持っているレッドハットの強みで、日本の企業の課題を解決していきたいという。

「レッドハットのサービス、コンサル、サポート部隊の技術力は卓越しています。マイクロソフトのエンジニアリングを知っている私から見ても段違いです。こうしたエンジニアリングに強い人たちが、お客さまと膝詰めでビジネスを進めていくうちに、お客さまも『変革できるかもしれない』と思うようになるのです。それが創業100年を超えるような日本の伝統的な企業であればあるほど面白さを感じます」

「レッドハットはエンジニアリングが強い。グローバルのエンジニアリング部隊が日々体現しているそのカルチャーを日本の隅々にまで浸透させていくいうことを実現したい。カルチャー変革を先導できる土壌がレッドハットには整っています」と岡氏は話す。