新時代の手と1分将棋のアヤ
渡辺明王将へ藤井聡太竜王が挑戦する第71期ALSOK杯王将戦七番勝負(主催、毎日新聞社・スポーツニッポン新聞社)の第1局が、1月9、10日に静岡県掛川市の「掛川城 二の丸茶室」で行われました。結果は139手で藤井竜王が勝利し、七番勝負の成績を1勝0敗としました。
■新時代の手
本局は藤井竜王の先手番で相掛かりに進みました。まずは中盤の入り口で藤井竜王が自ら8筋の歩を突いたのが大きな注目を集めました。8筋は後手の飛車が直通していて通常ならば堅く閉ざしておくべき地点。そこを自ら防衛ラインを押し上げるような手で、以前の感覚だとないとしたものです。副立会人の神谷広志八段は「この手がいい手だというなら、私が習ってきたことは、すべて間違いだったことになる」と驚きの声をあげていました。渡辺王将は終局直後に自ら更新したブログで「新時代の手という感じで1日目の昼から大長考を余儀なくされました」と振り返っています。しかも大長考で予想した展開とは全く異なる様相に局面が進みました。
■端攻めのタイミングが勝負を分ける
とは言えさすがは渡辺王将。藤井竜王の新感覚にも的確に応じ、形勢は互角のまま終盤へ進みます。両者の持ち時間も段々と減っていき、一進一退という展開になりました。明暗を分けたのは、両者ともに8時間の持ち時間をすべて使い切り1分将棋となった後でした。渡辺王将は自玉の安全を図るために玉を引いた手を後悔しました。対して藤井竜王が自陣の銀を活用し、優位に立ちます。この直後に渡辺王将は端攻めを敢行しますが、玉を引く前にこの手を指していれば渡辺王将が有望な終盤戦でした。この端攻めの厳しさに、渡辺王将は玉を引いた後に気づいたそうです。これも1分将棋のアヤでしょうか。
最後は打ち歩詰めの順も生じそうな最長19手詰めの即詰みを、藤井竜王は1分将棋で詰ましきり、七番勝負の開幕戦を飾りました。五冠奪取へ向けてまずは好スタートです。対して渡辺王将、本局は惜敗でしたが、次局の先手番で巻き返せるか。1月22、23日に行われる第2局にも要注目です。
相崎修司(将棋情報局)