外国人旅行者の方が、思わず「ん?」と首を傾げたくなるような漢字の書かれたTシャツをさっそうと着こなしている姿は微笑ましいものだが、海外の人が抱く誤った日本のイメージを、あえて落とし込んだカスタムカーというのは初めて見た。なぜこういうクルマができたのか、作った人に聞いてみた。
目指したのは仮装JDM
北海道・札幌市に店舗を構えるダイレクトイグニッション(Did)。「ホットロッドカスタムショー」には、かれこれ20年以上前から参加しているカスタムショップだ。今回は、「夜桜魅力」(ヨザクラサクシー)、「侍魅力」(サムーンライサクシー)、「忍者箱」(ニンジャボックス)の3台を展示していた。和テイストのカスタムが印象的だ。
これら3台のカスタムカーは、どんなコンセプトで作ったのだろうか。ダイレクトイグニッションの岡崎孝道プロデューサーに聞くと、「アメリカ人が日本の文化を間違って認識したまま作っちゃったクルマ」とのことだ。
カスタムの世界には、クルマを北米仕様に改造する「仮想USDM」というジャンルがあるが、要はそれの日本版。いわゆる「仮想JDM」を目指したそうだが、日本人から見れば「その解釈は違うんじゃ?」というような部分をあえて落とし込んでいるのがポイントだ。
例えば「夜桜魅力」。花魁と富士山が描かれた車体右側をよく見ると、富士山の山頂に歌舞伎の隈取が入っていたり、寿司が大海を泳いでいたりと、日本人の感覚としては疑問を感じる部分も多い。しかし、そこが狙いであり、岡崎氏は「気持ち悪いといわれるのが正解」と話す。日本人であれば作らないようなものを、あえて真剣に考えたそうだ。
車名のつけ方もユニークだ。ベース車のトヨタ自動車「サクシード」と「セクシー」をかけて「サクシー」という造語を作り、「魅力」という漢字を当てた。この「魅力」と車両コンセプトである「夜桜」を組み合わせた車名が「夜桜魅力」だ。
こうしたクルマを作る目的のひとつとして、岡崎氏が言及したのが昨今のクルマ離れだ。
「やっぱり今はクルマも高いので、なかなか若い人がクルマを買えません。でも、今回のベース車は30~40万円くらいからあるので、こういった安いクルマを使って個性で乗ってもらいたいですね。私たちの思いとしても、ナンバー1のクルマではなく、オンリー1のクルマを作りたいというのがあります。自分の好きなクルマをカスタムしてちょっとカッコよく乗っているんだ。そういう楽しみ方でいいと思います」(岡崎氏)
「ホットロッドカスタムショー」は通常であれば、海外からゲストが多く訪れるイベントだ。しかし、今年はコロナの影響もあり、海外から客を呼べない状況での開催となった。「今回の3台も、本当は海外のゲスト向けに製作したものです。なので、海外の方に見てもらえないのはちょっと悲しい」と岡崎氏も本音を漏らしていた。次回は多くの海外ゲストに囲まれるカスタムカーをぜひ見たいものだ。