最強の挑戦者を迎え撃つ、作戦家渡辺王将の対策に注目
将棋界における新年の一大イベントと言えば、なんといっても王将戦七番勝負です。1月9日から始まる第71期ALSOK杯王将戦七番勝負は渡辺明王将に藤井聡太竜王が挑戦するシリーズ、三冠を持つ王将と四冠を持つ挑戦者という組み合わせは、まさに将棋界の頂上決戦と言えるでしょう。
■十分な準備で臨む両対局者
まずは挑戦権を獲得した藤井竜王について。強敵がそろう王将リーグを5勝1敗の好成績で勝ち抜いたのが昨年の11月下旬でした。挑戦を決めてからはそれまでの超ハードスケジュールと異なり、12月はさほど公式戦を戦う機会がありませんでした。とはいえ年末に行われた準公式戦のSUNTORYオールスター東西対抗戦で、西軍の大将格として優勝に貢献したのは記憶に新しいところです。ちょうどいい充電期間を経て、新たに始まる七番勝負へのコンディションをうまく作っているのではないでしょうか。
対する渡辺王将。藤井竜王とのタイトル戦は昨年の棋聖戦以来です。その時はまさかの3連敗を喫しましたが、その数か月後に行われた銀河戦では藤井竜王に快勝しています。そしてクリスマスイブに行われた竜王戦1組での豊島将之九段との死闘に強烈な印象を持たれた方は多いでしょう。必勝の将棋を持将棋に持ち込まれはしましたが、見事なリカバリーで指し直し局を勝ち切ったのはさすがです。何より王将戦及び2月から始まる棋王戦と、真冬のタイトル戦を連戦するのはここ数年のルーティンとも言えるので、当然ながら準備において抜かりはないでしょう。
■2日制タイトル戦で抜群の強さを発揮する渡辺王将
改めて両者のタイトル戦がどうなるか。まず過去のタイトル戦では度戦っており、いずれも藤井竜王が勝っています。その後の直接対決では上記の銀河戦で渡辺王将が勝っていますが、通算では藤井竜王の8勝2敗です。ただ、今回の王将戦がこれまでと異なるのは2日制七番勝負ということ。渡辺王将は特に2日制でその強さを発揮すると言われています。これまでの王将戦七番勝負は5期獲得(1期失冠)で、対局の結果は23勝13敗。持ち時間が王将戦と同一である竜王戦七番勝負では9連覇を含む11期獲得(2期失冠)で、46勝27敗という結果です。勝率5割7分1厘(4勝3敗)あればタイトルを獲得できる七番勝負で、6割3分以上の勝率を残しているのは番勝負巧者ならでは、でしょうか。何といっても2日制の経験値では渡辺王将が圧倒しています。
■藤井竜王は2日制タイトル戦でも圧倒的な戦績
もっとも、藤井竜王の2日制の強さも引けを取りません。王将戦こそ初挑戦ですが、持ち時間が同じ王位戦七番勝負では4勝0敗と4勝1敗、竜王戦では4勝0敗と、本当にタイトル戦七番勝負で残した数字なのかと疑いたくなるような高勝率をあげています。 渡辺王将は昨年の棋聖戦五番勝負で敗れた時に「いままで誰もクリアできなかった僕の勝ちパターンを、藤井さんにあっさり乗り越えられてしまった」と明け透けに語っています。続けて新たな勝ちパターンを探るか、発想を変えて負けパターンを無くすことを目指すか、とも。棋界最高の作戦家とも言われる渡辺王将が、自身が最も得意とする舞台でどのような対策を用意して、最強の挑戦者に臨むか。大注目のシリーズです。
相崎修司(将棋情報局)