AMDは米国時間の2022年1月4日に開催されたCES 2022の基調講演において、Ryzen 6000 MobileとRadeon RX 6500 XTをそれぞれ発表したほか、Zen 4ベースRyzenに関する説明も行われた。

Ryzen 6000 Mobile

まずRyzen 6000 Mobileについて。こちらはIntel Tiger Lakeや、その後継として投入されると目されるAlder LakeのMobile版への対抗製品となる。CPUコアはZen 3+という改良版で、RDNA 2を搭載、更にプロセスをTSMC N6に変更した(Photo01)。この結果、Ryzen 5000 Mobileシリーズと比較してCPU性能で1.3倍、GPU性能が2倍になったとする(Photo02)。

まずZen 3+であるが、こちらは現時点で公開されているのは主に消費電力改善周りの追加であって、CPUパイプラインそのものの変更などは最小限と思われる(Photo03)。ただおそらくは動作周波数向上なども相まって、CPU処理性能はRyzen 5000 Mobile比で1.1~1.3倍(Photo04)となり、その一方で消費電力は15~40%の削減が実現したとしている(Photo05)。

  • AMD、CES 2022でRyzen 6000 MobileとRadeon RX 6500 XTなど発表 - Zen 4の予告も

    Photo01: 色々変わるため、プラットフォームは新しいものに。

  • Photo02: とはいえ、CPUの方は動作周波数を引き上げて1.3倍にしただけではないか? という疑問も。まぁ同一構成でも、プロセスの変更(N7→N6)により同じ消費電力でより動作周波数が上がる様になった、ということかもしれないが。

  • Photo03: N6への最適化はともかく、新しい省電力機構が50個というのは凄い。新しいDeep Sleep Statesは、以前ここで示された「立ち上がりが遅い」問題への解決策だろうか?

  • Photo04: CineBenchの1Tだと1.1倍、というあたりは動作周波数そのものは1割(Ryzen 7 5800UがBoost 4.4GHzだから、Ryzen 7 6800UのBoostはPeak 5GHz/Sustained 4.8GHzあたりだろうか?)

  • Photo05: TeamsとChromeだけだとちょっとなんとも言い難い部分はあるのだが。

ついでGPU側だが、12CUのRDNA2が搭載された(Photo06)。従来が8CUのVegaコアだから、CU数だけで比較しても1.5倍、VegaとRDNA2の効率を考えると、実質2倍の性能向上というのは大げさではないだろう。そのGPUまわりだが、Gaming Performance比較がこちら(Photo07)。単に統合GPUだけでなく、GeForce MX450と比較しても遜色ないとする。まぁこの後IntelはAlder Lakeベースの製品を投入してくるから一概には言いにくいが、ここでも示されている様にAlder LakeのGPUも最大96EUなので、既に96EUのCore i7-1165G7から大きく性能が向上しているとは考えにくく、その意味ではGPUに関しては確実にアドバンテージがありそうだ。これは前世代、つまりVegaで8CUのRyzen 7 5800Uと比較しても性能差は明確としている(Photo08)。またFSRを併用すればFar Cry 6でも59fpsが維持できる(Photo09)としており、他のアプリケーションでも、結構統合GPUだけでプレイできるとしている(Photo10)。

  • Photo06: 後述するが、メモリがDDR5/LPDDR5ベースとなったことでGPU性能を引き上げてもそれに見合うメモリ帯域が利用できるようになったことも大きいと思われる。

  • Photo07: とりあえず統合GPUとしては文句なく最高速。数字はTiger LakeベースのCore i7-1165G7とのフレームレート比であるが、GeForce MX450と比較しても有利とする。

  • Photo08: とはいえ統合GPUなので、そうそう高い性能を期待するのは無理ではあるが、描画品質を落とせばそこそこいけそうな感じ(絶対フレームレートが出ていないので断言しにくいが)。

  • Photo09: Far Cry 6のPreviewでのスコアは以前こちらでご紹介している。

  • Photo10: 逆に言えばFSRを併用しないと、流石に12CUのRNDA2でも厳しい、という話でもあり、FSR対応タイトルの充実が待たれる部分でもある。

話を全体に戻すと、システム性能としてはラフに言えばこんな感じ(Photo11)。またこの世代では最大24時間のバッテリー寿命が実現できる、としている(Photo12)。その他の特徴はこちら(Photo13)。Wi-Fi 6E対応は昨年11月にMediaTekと共同でモジュールを開発しており、これを利用する事と思われる。またMicrosoft Plutonを初めて実装したx86プロセッサともなった(Photo14)。

  • Photo11: 3D RenderginはGPUを使う前提の話なのでで、CPUだけだとここまでは上がらないと思う。

  • Photo12: これはH.264のFull HD Video Playbackでの実績なのだが、肝心のバッテリー容量が脚注に示されていないのがなんとも...

  • Photo13: ついにUSB4もサポート。PCIeはGen4どまりだが、これはノートでは問題にならないだろう。メモリはDDR5/LPDDR5対応に。

  • Photo14: 正確に言えばPlutonの原型はXbox Oneに搭載され、Xbox Series X/SにもPlutonが搭載されているので、「Microsoft以外のx86プロセッサでは」初めてということになる。

製品SKUはこんな形(Photo15)で、6000番台は全面的にZen 3+にRDNA 2となった。そのRyzen 6000 Mobileであるが、ThinkPad Z(Photo16)を始めとして2022年中には200製品以上が出荷予定とされている(Photo17)。ちなみにRyzen 6000 Mobile搭載製品の出荷は2月を予定しているとの事だった(Photo18)。

  • Photo15: Ryzen 5000Uシリーズも3製品ほど追加になったが、こちらは引き続き7nmプロセスでZen 3+Vegaのままである。

  • Photo16: こちらは別途Lenovoのレポートで。

  • Photo17: 随分増えたものである。

  • Photo18: 逆に言えばもうRyzen 6000 Mobileそのものは出荷を開始している模様。

Ryzen 7 5800X3D & Zen 4 Ryzen

次の話はいよいよ3D V-Cache搭載Ryzenではあるが、筆者の予測は外れてなんとRyzen 7 5800Xへの実装であった(Photo19)。登場時期は今年の4月とのことで、既存のAMD 400/500チップセットで利用可能とされる。価格は現時点では未公開である。このRyzen 7 5800X3Dであるが、やはりアプリケーションによって性能向上率は変わる。ただ、Ryzen 9 5900Xより高速(Photo20)、Core i9-12900Kと比較しても同等以上(Photo21)という結果になったのは面白い。

  • Photo19: 予想以上に3D V-Cache搭載CCDがMilan-Xへのニーズが高く、2ダイを使うRyzen 9には間に合わなかったのかもしれない。それはともかく、ここでは"THIS SPRING"とかぼかしてあるのに、Photo25で台無しになってるあたりが流石。

  • Photo21: こちらも同じく。とはいえ大容量キャッシュがアプリケーション性能にどこまで効くかを早く試してみたいところだ。

そしてその次にはいよいよZen 4が控える(Photo22)。登場時期は2022年後半とされているが(Photo23)、新しいAM5の採用となり予想通りLGA1718にパッケージは切り替わった(Photo24)。今年後半にはAM5対応マザーボードと併せて導入される格好になるとみられる(Photo25)。

  • Photo22: TSMC N5ベースのAlder Lakeと、どっちが市場に先に投入されるだろう?

  • Photo23: なかなかユニークなヒートスプレッダとなった。

  • Photo24: AM4のクーラーと機械的に互換性がある。なので、熱容量的に合えばAM4のクーラーがそのまま流用可能となるのはありがたい。

  • Photo25: 2月にRyzen 6000 Mobile、4月にRyzen 7 5800X3Dときて、恐らく6月のCOMPUTEXでもう少し詳細のお披露目があって8月あたりからZen 4 Ryzenの出荷という感じだろうか?

Radeon RX 6000S/6000Mシリーズ

次はRadeonについて。まずはMobile向けだが、既存のRadeon RX 6000Mシリーズに加え、Radeon RX 6000Sシリーズが追加される(Photo26)。細かなSKUなどは現時点で発表されていないが、ローエンドのRadeon RX 6600Sでも80fpsを超える性能とされている(Photo27)。

  • Photo26: "New Perf/Watt Technology"とは書いてあっても6nmとは書いてないあたり、まだTSMC N7を使い、ただしRyzen 6000 Mobile同様の電力管理機構を入れたのかもしれない。35~45WのGaming Noteをターゲットとした構成に見える。

  • Photo27: 脚注を見ても肝心の画面解像度がどこにも書いてないのが問題だが、多分Full HD。描画オプションは最大で複数のゲームでの平均fpsを取ったもの。ちなみに6600Sは65W、6700Sは80W、6800Sは100W(テストに使ったReference Cardの消費電力)とされる。

また、Radeon RX 6000Mシリーズには新たに、TSMC N6を使った35Wのモデルが追加された(Photo28)。全く新しいのはRadeon RX 6500MとRadeon RX 6300Mで、これはGeForce MX 150が仮想的となったエントリモデル向けである(Photo29)。

  • Photo28: これは後述するNavi 24ベースも含まれると思われる。

  • Photo29: RX 6850M XT/RX 6650M XT/6650Mの3つもTSMC N6なのかどうかは確認が取れていない。

これらのモデルの出荷時期などはこれらのモデルの出荷時期などは現時点では不明である。

Radeon RX 6500 XT

続いてがDesktop向けのエントリモデルであるRadeon RX 6500 XT(Photo30)。エントリモデルということで競合はRadeon RX 570とかGeForce GTX 1650となる(Photo31)。FSRを利用すれば1080Pで十分プレイできる性能になる、としている(Photo32)。このRaden RX 6500は1月19日に発売開始とされる(Photo33)。現時点では情報が無いが、Radeon RX 6600シリーズ同様、複数のAIB Partnerからの製品が準備されるものとみられる。

  • Photo30: 16CU、Infinity Cache 16MBは予想通りだった。

  • Photo31: 性能的にはまぁ悪くないし、Radeon RX 570の消費電力の高さを思えば大歓迎な製品ではあるが、問題は価格だろうか?

  • Photo32: Ultra Qualityでもここまで引っ張れるのは流石である。ただ逆に1080Pより解像度を上げると急速に性能が劣化しそうだ。

  • Photo33: ちなみに価格は$199。日本での価格はまだ不明である。

その他の発表について

その他の情報についてもまとめておきたい。まず今年第1四半期中に新しいAMD Software Adrenalin Editionが提供される(Photo34)。またRyzen APU+Radeon Mobileの組み合わせ(というか、恐らくRyzen 6000 Mobileと今回発表のRadeon RX 6000 Mobileの組み合わせ)では、新たSmartShift MAXと呼ばれる機能が利用可能となる。SmartShiftそのものは2020年に発表になった、要するにCPUとGPUの電力バランスを動的に配分する機能であるが、従来に比べて更に性能向上が可能としている(Photo36)。またこれをカスタマイズ可能なSmartShift ECOなる機能も用意された(Photo37)。あと正体不明なSmartAccess Graphicsという機能も搭載されている(Photo38)。これらの最新技術を搭載したGaming Noteも20機種以上が登場予定という話であった(Photo39)。

  • Photo34: FSRの方は単に従来のものか、何か変更があるのか、これだけでは良く判らない。ただIn-Driver Upscalerというのは、つまりGame Engineが未対応でもFSRが利用できるという意味なのかもしれない。

  • Photo35: 同様の機能は、例えばNVIDIAのMax-Qなどでも提供されている。

  • Photo36: ただMAXなしの従来のSmartShiftとの違いが何か、は現時点では不明。

  • Photo37: SmartShiftそのものは全自動であったが、これをカスタマイズできるようになったようだ。

  • Photo38: Smart Memory Accessの派生型技術に見えなくないが、もう少し説明が欲しいところ。

  • Photo39: ただ現時点で明確に決まっているのはAlianware M17 R5とROG Zephyrus G14の2製品、ということらしい。

今回は事前発表資料をベースにご紹介したので色々不明な点が多いが、これは基調講演の中で色々補足されそうに思われる。また、恐らくLisa Su CEOのことであるから講演内でOne More Thingが何かしらありそうな気はするので、このあたりは後追いの形で補足したい。(2022年1月5日追記:Zen 4 Ryzenの追加情報の記事を掲載しました)