2022年の幕開けに、パーソナルコンピュータのハードウェア技術の動向を占う「PCテクノロジートレンド」をお届けする。本稿はFlash Storage編だ。まずはコンシューマ向けSSDの主力であるNVMe M.2 SSDについてだが、PCIe Gen5への移行が今年最大のトピックであろう。そして、こちらはEnterprise向けで先行している話題だが、CXL Attach Memoryについても触れておきたい。
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2021年中も色々動きがあったこのマーケットだが、2022年はEnterprise向けに色々動きがありそうである。
NVMe M.2 SSD(Photo01)
NVMe M.2 SSDというか、コンシューマ向けSSDと言った方がいいのかもしれないが、流石にそろそろSATA SSDは絶滅に近くなりつつある。一応大容量(1TB~)向けにはまだ多少新製品なども出てくるが、NVMe M.2 SSDを使わない/使えないというシチュエーションが次第にレアになりつつあるのも事実である。という訳で、主にNMVe M.2 SSDをターゲットに説明したい。
2022年の大きなトレンドはPCIe Gen5への移行である。ただしこれが起きるのは、2022年後半になると思われる。最大の理由はプラットフォームの対応の遅れである。IntelはAlder LakeでPCIe Gen5への対応を完了させたが、PCIe Gen5が利用できるのはCPUから出るGPU用のx16スロットのみで、NVMe M.2 SSDに利用できるx4はPCIe Gen4になっている(Photo02)。恐らくこのx4レーン、次のRaptor LakeではPCIe Gen5になると思われるが、現状ではPCIe Gen5対応SSDを装着してもその性能の恩恵には預かれない訳だ。コンシューマ向けの最初のPCIe Gen5 x4を持つプラットフォームはAMDのSocket AM5になると見られている。
コントローラの方は、例えばMarvellはPCIe Gen5 SSDコントローラであるBravera SC5を2021年5月にリリースしている。このリリースにはAMDとIntelのほか、Kioxia/SK Hynix/中国YMTCがメッセージを寄せており、少なくともKioxia/SK Hynix/YMTCのNAND Flashをサポートしているのは間違いない。ただ現状ではそうした製品が一切ないというのは、要するにプラットフォームが無いからという話でもある。それもあって、現状PCIe Gen5 SSDとして一番乗りとなったSamsungのPM1743もEnterprise向けとなっている(Photo03)。Enterprise向けは、既にIntelのSapphire RapidsもAMDのGenoaも顧客の所での評価フェーズに入っており、ここで組み合わせるのが目的と思われる。
PCIe Gen5が進まない1つ目の理由は、Flash Memory側にある。2Dから3Dになり、更にMLC/TCL/QLCと進んでいる(研究室レベルで言えば、Kioxiaが5bit/CellのPLCを2020年に、6bit/CellのHLCを2021年に発表しているが、更に寿命が縮まる事もあって、まだ製品化には至っていない)が、基本的には容量増加の技術開発であってアクセス速度向上の方には向いていない。こうなると、I/F速度が上がった場合、それを使い切るためにはFlash Memory側のInterleave(要するにRAID 0と同じだ)をする必要がある。結果、例えばMarvellで言えばPCIe Gen4対応の88SS1321が4ch Flash構成なのに対し、上で触れたBravera SC5は8ないし16ch Flash構成となる。16chがあるのは、Enterprise向けに総容量を確保したい場合向けで、普及帯なら8chで収まる訳だが、Marverllとしては16ch構成を推奨している(Photo04)。8chだと基板表裏に4つづつFlashを搭載する格好だが、16chだと表4個裏12個の構成である。さすがにE1.SになるとDesktop PC向けには無理であって、M.2ベースの22110という事になるが、それでもFlash Memory8個が最小構成になる。これ未満、例えば4個とかだとPCIe Gen5の帯域を使い切れないためだ。ということは必然的にNVMeの容量は増える事になる。最近だと普及帯は256Gbitから512Gbitに移行しつつあり、最低でも512GB構成ということになる。これ以下の容量、例えば128Gbit品を使えば128GBのNVMe SSDも作れるが、かなり割高になる。コントローラもそれなりに高いから、割高感を感じさせないためには多分コンシューマ向けは512GB品あたりが最低容量で、1TB品が主流ということになる。必然的に、現在の1TB NVMe SSDよりはずっと高価格になるため、市場の立ち上がりはゆっくりになるとみられる。
この話は別にMarvellに留まらない。今年はおそらくコンシューマ向けのPCIe Gen5対応NVMe SSDコントローラが複数出てくるだろうが、Flash Memoryは最低8chになると予想される。結果、同一容量であればPCIe Gen4 SSDと比べて2~3割程高値になるとみられる。まぁ性能の高さでこの差を正当化できればいいのだが。
そんなわけで、本格的にPCIe Gen5対応のコンシューマ向けSSDが出回るのは今年後半、それも第3四半期末~第4四半期に入ってからあたりではないか、とみられる。
ついでに容量についても簡単に説明しておきたい。既にFlash Memoryを生産している各社とも、TCL/QLCと3Dを組み合わせる形で複数の容量の品を提供している。例えば2021年末のMicronの場合で言えば
3D NAND | SLC | 256Gbit |
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MLC | 128Gbit | |
TLC | 256Gbit~8Tbit | |
2D NAND | SLC | 1Gbit~256Gbit |
MLC | 32Gbit~2Tbit | |
TLC | 256Gbit~4Tbit |
といった製品ラインナップになっているが、もうそろそろ大容量品は2Dのままだと厳しい様で、今後は3D NANDが主流になってきている。現状各社とも100層前後(Micronだと96層)が量産されている最大層数であるが、実験室レベルでは200層程度までは製造に成功している。ただ量産工程にこれを持ち込むか?と言われるとちょっと微妙なようで、むしろ最近は2 Stack、つまり200層を一気に作るのではなく100層のチップを2つ積み重ねるような恰好での製造を検討している。
以下ちょっとSamsung Tech Daysでのスライドを引用するが、同社の3D積層FlashであるV-NANDの場合、V6世代までは1 Stackであり、V7から2 Stack以上になるとしている(Photo06)。今年発表されるV7 QLCは最大176層になるが、これは実際には88層のものを2つ積み重ねた形での実装になるという話であった(Photo07)。もう実は100層を超えたあたりから、縦穴のアスペクト比が高層建築物を超えるとか超えたとかいう騒ぎになっており、200層を超えると殆ど製造が困難になる、というのは見えており、そのためStackを積み重ねる方向が有望視されていた。Samsungは少なくとも4層までアナウンスしているが、他のベンダーも当然この方向になると思われる。この方式、容量は増えるのだが、その一方で製造コストは要するにStackの数に比例して上がる訳で、容量あたりの単価は鈍化傾向になることは避けられない。そんな訳で2022年も大容量のSSDが登場する一方、価格の下落はそれほど期待できなそうである。