パナソニック エレクトリックワークス社は、プロ野球の球団・西武ライオンズがホーム球場とするメットライフドーム(埼玉県所沢市)に、新しい照明設備や演出を2021年3月に納入しています。球場のボールパーク化に大きく貢献しているLED照明やメインビジョンを取材しました。
生まれ変わったメットライフドームは演出制御のカタマリだった
メットライフドームの改修に当たって、西武ライオンズのビジネス開発部が掲げたコンセプトは「ボールパーク化」。昨今のアメリカでは球場を周辺の施設と合わせてエンターテイメント性の高い商業施設とし、スタジアムと呼ばずボールパークと呼んで、新しい観客の獲得やリピート率の向上につなげています。
新生メットライフドームが目指すのも、野球観戦を中心としながらも、あらゆる世代が楽しめる多様なエンタメ性を持った施設。このコンセプトのもと、2017年12月から2021年3月まで総工費約180億円を投じ、大規模な改修工事を実施しました。
改修工事は試合のあるシーズンを避け、オフシーズンのみ実施。ドーム内の観客席やラウンジ、コントロールルーム、スコアボードなどを映し出すビジョン、音響・照明、サイネージ、球場内外の商業施設、遊具にいたるまで見直しを図り、約3年で最新の設備に入れ替わりました。
この大規模改修でパナソニックが手がけたのは、照明・音響・ビジョンの総合演出とそれらの管理。特に大型映像装置であるメインビジョンのサイズアップ、およびサブビジョンの設置を行い、コントロールルームから照明・音響・サイネージの各設備を総合的に制御可能にしています。
巨大化したメインビジョンを中心に感情の起伏を増幅する演出
従来のメインビジョンは横に長過ぎて迫力を出しにくく、音響も左右6台のスピーカーで運用しており、場所によっては音圧が低くなって聞きにくくなっていました。今回の大改修によって、メインビジョンは従来比で約2倍という面積に大型化。また、外野席から見やすい位置にサブビジョンも設置しました。
西武ライオンズ側との間に立って企画を推進したのは、パナソニック エレクトリックワークス社の稲垣信也氏。試合前・試合中・試合後の演出を変更するにあたり、最大3万人の観客の一体感をいかに早く作り出し、どう盛り上げていくか頭を悩ませたそうです。
「メインビジョンは以前もパナソニックが納品したものですが、照明や音響などのハードウェアはパナソニック製のみではありません。決められたシステムがあるわけではない中、当社の製品と他社既製品とを組み合わせ、来場者や選手の皆さんに満足してもらえるベストな演出に向けてシステムを作り上げていくところに苦労しました」(稲垣氏)
試合と観客を盛り上げるさまざまな仕かけ
たとえば、試合中にホームランが出たときや、試合前のスタメン発表では観客が盛り上がります。その盛り上がりをより大きなものにするため、ビジョンのアニメーションで演出するほか、グラウンド周辺の売店や子ども向け遊具の場所でも、サイネージをジャック。映像や演出を敷地内全体で(100%ではありませんが)共通化して一体感を生み出し、買い物やトイレなどでスタンドから離れているの観客にも、「今」何が起きたのかを知らせます。
パナソニックが構築したLED照明システムは、フィールド照明×508台、空間照明×40台、ビクトリーロード用×4台の合計552台に及びます。4K8K放送に対応した色味を持ち、次世代のエンターテイメント照明空間演出であるDMX制御演出に対応しています。
各照明は、照射角度や照明ごとの間隔を1台ずつ調整して、最適な演出効果とともに、光だまりの解消やまぶしさの抑制に努めたそうです。光だまりとは、照明の光が重なって「塊」のようになることを指し、明るさにムラが出たりまぶしさにつながります。照明設計の段階から選手のパフォーマンスを最大化するため、VRシミュレーションを用いてまぶしく感じにくいよう工夫を凝らす徹底ぶりです。
ドームの外にも照明を設置
ドームの中だけでなく、外の照明も工夫しています。たとえば、入場口の横に設けられたトレインパークには、本物の西武線車両(先頭車両)を設置。客席はもちろん、運転席にも入れるため、子どもだけでなく大人にも人気のスポットだとか。
トレインパークにも新たに6台の照明を準備し、夜になるとライトアップして雰囲気を出しています。この照明もDMX制御演出に対応し、コントロールルームから制御可能です。
最適な照明設計は省エネにも貢献し、改修後は照明1台当たり従来比で15%の電力を削減。ランニングコストはさらに優れ、年間電力消費量は約60%もの削減に成功したそうです。
選手にスポットを当てる演出も
西武ライオンズからは、ヒーローインタビューやビクトリーロードの照明演出についての要望も出ました。ヒーローインタビューは試合後、周囲が暗くなる時間にインタビューを受ける選手の周囲に照明を集中させ、浮かび上がらせる演出です。
一方のビクトリーロードは、バックネット裏からまっすぐ上る階段で、試合に勝利したときに選手が通ります。ここもベースとなる照明の明るさを抑えて、選手に光を集中することで球場全体を盛り上げるのです。さらに観客が退場する選手達とハイタッチできるようになっています(現在は新型コロナ感染症対策で未実施)。
観客目線や選手目線(監督目線!?)で照明や演出を体験!
今回の取材では、ラウンジやコントロールルームのほか、バックネット裏から内外野の客席を見て回り、グラウンドがどのように見えるのかも確認。さらに、ダグアウトやバッターボックスに入って選手の視点でも体験できました。
さまざまな観戦スタイルで楽しめるよう、客席のシートタイプは従来の14種から28種に倍増しています。バックネット裏のプレミアムエリアを拡大したほか、内野席はシートの幅を平均25mm拡大。球場全体でもグループ席や企画席を増やし、外野席は古くからの人工芝を個席に変更しました(人工芝の外野席は名物的なものでもあったので、よく足を運んだファンの中には残念に感じた人がいるかもしれませんね)。公式収容人数は31,552人です。
バッターボックスに立ってバッティングも経験した林編集長によれば、「照明はまぶしくなく、ボールも見やすかった」そうです。ちなみに林編集長はかつて野球少年。今回の打席でも快音を響かせていました(林:ボールが前に飛んでよかったです……)。
メインやサブのビジョン、照明、音響、サイネージまでが連動して、ファンの気分を高める新生メットライフドーム。球春までもう少し! 2022年シーズンは家族連れや友人同士でぜひ観戦に行ってみてはいかがでしょうか。