ここ数年来携帯電話業界に甚大な影響を与えた菅義偉前首相が退任し、行政からの料金引き下げ圧力は弱まるであろう2022年。
ですが5Gのエリア整備、そして周波数免許割り当てを巡って行政の動向が大きく注目されることとなりそうです。2022年の携帯電話業界がどうなっていくか、動向を予想してみましょう。
「デジタル田園都市国家構想」で5G整備はどう進む?
官房長官時代を含む2018年から2021年まで、携帯電話業界に甚大な影響を与えてきた菅義偉氏が2021年9月に首相を退任。岸田文雄氏に交代し業界への影響力が大幅に弱まったことから、2022年は携帯電話業界と行政を巡る動きが大きく変化するものと考えられます。
具体的に言いますと、ここ数年来大きな話題となってきた携帯電話料金の引き下げを巡る動向はいち段落するでしょう。
既に低価格の料金プランは多数存在することから、総務省としては料金の直接的な引き下げよりむしろ、2019年の電気通信事業法改正以前に提供されている料金プラン契約者を、それ以降に提供された“縛り”のないプランへ移行させ、安価なサービスへの乗り換えを促すことに力を注ぐものと思われます。
では岸田政権下で政治的影響がなくなるのかといえばそうではなく、影響を受けそうなのが5Gです。
より具体的に言えば5Gのエリア整備と周波数帯の割り当てが大きな影響を受けるものと考えられます。
というのも岸田政権では「デジタル田園都市国家構想」を掲げ、都市部とのインフラ格差を縮めるため地方でのデジタルインフラ整備に重点を置く姿勢を示しています。5Gのネットワークもその例外ではなく、岸田政権下では携帯4社に対して、地方での5Gエリア整備を急ぐよう迫る可能性が高いといえるでしょう。
実際2022年に5G向けとして割り当てが予定されている2.3GHz帯の免許割り当て審査の指針案を見ると、デジタル田園都市国家構想を受ける形で、比較審査項目の1つに離島や山村など条件不利地域、そして5Gの整備が遅れている地域での整備進展度合いを重視しようとしている様子が伺えます。
一方で携帯電話会社からすると、政府要請による料金引き下げで収益を悪化させているのに加え、人口が少ない地方でのエリア整備は採算性の問題が出てくることとなります。それだけに政府にも、インフラシェアリングの加速に向けた取り組みや、地方でのエリア整備に関する何らかの優遇措置などが求められることでしょう。
そうしたことを受けてか、政府与党である自由民主党と公明党が2021年12月10日に取りまとめた「令和4年度税制改正大綱」を確認しますと、2020年から2年間に限定して実施されている5G導入の税制支援措置を3年伸ばすとともに、過疎地や条件不利地域の控除を優遇する方針を打ち出しているようです。
キャリアの評価が二分、「周波数オークション」行く末は
通信行政を巡ってもう1つ、2022年に大きな注目を集めそうなのが周波数オークションです。これは周波数帯の免許を、より高いお金を支払った企業が獲得できるオークション方式で割り当てるというもので、既に多くの国で導入されている仕組みです。
周波数オークションは、ある意味お金で免許の割り当てが決まることから審査の透明性が非常に高く、しかも落札に費やされたお金は国の財源になることから、行政側にとってメリットが非常に多い仕組み。
一方で携帯電話会社にとっては、落札額の高騰によって支出が大幅に増え、ネットワーク投資やその後の経営に影響を与える可能性があるほか、ある意味お金がモノを言う仕組みでもあるため中小規模の事業者に不利に働きやすいなど、デメリットが多いのです。
そうしたことから日本では一度導入寸前にまで至ったものの、政権交代などの影響もあって結局導入されなかったという経緯があります。
ですが社会におけるモバイル通信の重要性が高まるとともに、電波の経済価値が大幅に高まったことから、2021年10月より総務省で「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」という有識者会議を設け、再び導入に向けた議論が進められているのです。
そしてこの周波数オークションを巡っては、携帯電話会社の間で見解が大きく分かれているようです。
最大手のNTTドコモが導入に前向きな姿勢を示す一方、新規参入の楽天モバイルは純粋な周波数オークションの導入には反対するとしており、KDDI、ソフトバンクも導入を積極的に支持する姿勢は見せていません。
政府としては周波数オークションを何らかの形で導入したい所でしょうが、採算性の低い地方での5Gネットワーク整備を急ぐ姿勢を見せているだけに、導入によって携帯各社が体力を落とし、エリア整備が遅れてしまうようでは本末転倒です。
導入するにしてもデメリットを緩和する制度設計が重要になってくるでしょうし、2022年7月頃を予定している最終的な取りまとめで、どのような結論が出されるのかが注目されるところです。
SA運用への移行で高まる、スマホ以外での5G活用法
その5Gのエリアに関しては、4G周波数帯を転用してエリア拡大を重視するKDDIとソフトバンクが2022年3月末に人口カバー率90%を達成予定としているほか、高速大容量通信を重視し5G向けの周波数のみを用いてエリア整備を進めるNTTドコモも、2022年3月末に人口カバー率55%を達成予定。都市部であれば5Gのアンテナが立ち、高速通信ができる場所がかなり増えるといえそうです。
また5Gを利用するスマートフォンに関しても、2021年の後半には既にミドル、ローエンドに至るまで多くの新機種が5Gに対応していました。それゆえ2022年には5Gスマートフォンが当たり前となり、4Gのみに対応した端末は、特別な用途向けなどごく一部に限られることでしょう。
2022年はそれだけ5Gが広く浸透するフェーズに入ると考えられることから、注目されるのは次のステップ、より具体的に言えば5Gの実力をフルに発揮できるスタンドアローン(SA)運用への移行に向けた動きです。
現在の5Gは4Gの設備をベースにして5Gの一部機能を実現するノンスタンドアローン(NSA)での運用となっています。ですが、2021年の後半から、携帯3社が5GのSA運用への移行を徐々に進めているのです。
NSA運用での5Gで実現できていたのは高速大容量通信のみでしたが、SAに移行することで、低遅延や多数同時接続など、5Gの特徴ある機能をフルで生かせるようになります。
スマートフォンを使っている我々が、SAへの移行で受ける恩恵はかなり限定的ですが、SAへの移行で企業や自治体の5G活用が急速に進むとされており、それに伴って5Gがスマートフォン以外でも活用されるようになると見られているのです。
そうなればドローンやロボット、より身近な所で言えばVRやARのデバイスなどにも5Gが活用され、我々の生活を大きく変えることになるかもしれません。2022年は5G、ひいてはモバイルネットワークのあり方が大きく変わる年になるといえそうです。
半導体に注目、スマートフォンの競争が新たな段階へ
ではスマートフォンの進化は止まってしまうのか? と言いますと、そんなことはありません。2022年はスマートフォンでも、新たな進化が競争を大きく左右することになると考えられます。
その1つは、ここ最近大きな注目を集めている半導体です。
2021年にはグーグルがAI処理を強化した独自チップセット「Tensor」を搭載した「Pixel 6」シリーズを投入、カメラや音声認識に関する高度な機能を搭載して注目を集めました。2022年にはメーカー独自開発の半導体が、スマートフォンの新たな差異化要素となる可能性が考えられます。
実際オッポは、AI処理に力を入れた画像処理チップ「MariSilicon X」を独自開発し、2022年に発表するフラッグシップモデル「Find X」シリーズに搭載することを明らかにしています。
同様の取り組みは世界的な大手メーカーを中心に進むと見られており、半導体がスマートフォンの競争を大きく変えることにもなりそうです。
そしてもう1つは、折り畳みスマートフォンの本格的な拡大です。2021年には日本でもサムスン電子だけでなく、モトローラ・モビリティがディスプレイを折り畳めるスマートフォンを投入していますが、海外ではシャオミも折り畳み型の「Mi Mix Fold」を投入していますし、オッポも「OPPO Find N」で参入を打ち出しています。
そうしたことから2022年には、日本でも折り畳み型スマートフォンを投入するメーカーが増えるでしょうし、新たに参入を表明するメーカーも出てくるかもしれません。
端末数が増え競争が加速すれば価格の低下も進むことから、従来あまりに高額で買うのをためらってしまっていた折り畳みスマートフォンが、手に届きやすい価格帯で提供されることにも期待したいところです。