東北新幹線で八戸駅にたどり着き、駅の西口に向かうと見えてくるのが、2020年4月にオープンしたスポーツアリーナ「FLAT HACHINOHE(フラット八戸)」です。建物の中にはインドアアイスアリーナ「FLAT ARENA」や、イベントのとき以外には自由に入れるホール空間「FLAT X」があり、外には駅前シンボルロードの延長上に屋外共有スペース「FLAT SPACE」や「FLAT PARK」が広がります。フラット八戸はアイススケートリンクとしての施設だけでなく、休日にはプロバスケットの試合やライブ会場としても使える複合施設です。

  • JR八戸駅に近接するスポーツ施設「FLAT HACHINOHE(フラット八戸)」。デザインは佐藤可士和氏によるもの

フラット八戸を運営するのは、スポーツ用品の小売りで知られているXEBIO(ゼビオ)グループのクロススポーツマーケティング。民間企業がスポーツ施設を運営するにあたり、さまざまな取り組みが行われています。

それは、「行政利用」「日常利用(一般利用)」「非日常利用(興行利用)」の組み合わせ。

まず行政利用は、八戸市との連携です。フラット八戸の土地は八戸市から無料貸与を受けています。その上で、学校体育でのアイススケートの授業やクラブ活動、地元アイスホッケークラブの練習、そして行政イベントなど、八戸市によって年間2,500時間・30年間の有償借り上げが行われています。

2つめの日常利用(一般利用)は、民間のスクールや合宿、代表選手なども含めた個人利用など。そして3つめが、プロアイスホッケーの試合やBリーグ、展示会やコンサートといった非日常利用(興行利用)です。

  • フラット八戸の運営イメージ。「行政利用」「日常利用(一般利用)」「非日常利用(興行利用)」を組み合わせて、稼働率と採算性を確保しています

さらに、キッズ無料デーと設けてアリーナを開放するとともに、ホール空間のFLAT Xでマルシェを開くなど複合的なイベントも開催して、相乗効果を創出。こうして収益を生み出しているわけです。

エンタメスポーツ施設として劇場空間を生み出すパナソニックの照明

このような施設で重要な役割を担うのが照明。一般的なスポーツ施設として考えた場合、競技者の目線で照度といった照明環境が設計されます。しかし、プロスポーツの試合やライブ・コンサートでの利用も想定したフラット八戸では、従来型の照明ではその役割を果たせません。競技者目線は当たり前、さらに観客が見やすく、エンタメ空間として体験価値の向上が求められるのです。

  • 競技者、観客、そして画面越し視聴者、すべてに最適な照明環境を作り出す必要がありました

そこで導入されたのがパナソニックの照明技術。パナソニックが提案したのは、競技者視点に加えて、観客視点と、テレビや配信で見る視聴者視点です。競技者にとっては照明がまぶしくなく、パフォーマンスを最大限に発揮できること。観客にとっては、没入感や臨場感のあるエンターテインメント空間の演出です。

  • 設計を担当した、パナソニック エレクトリックワークス社 ライティング事業部 エンジニアリングセンター 専門市場エンジニアリング部 スポーツ照明課の北本博之氏

利用方法や競技、興行、それぞれに最適な演出を実現するための照明設計を行ったのは、パナソニック エレクトリックワークス社でおもにアリーナやスポーツ施設、グラウンドなどの照明設計を担当しているライティング事業部のエンジニアリングセンターです。フラット八戸に導入したのは、専用設計となる4K8K放送対応LED照明。アリーナの左右に、レンズ方式ルーバー付きのLED投光器×86台、反射板方式×44台、合計130台のLED照明を設置し、設計提案から現場調整までワンストップで対応しています。

  • 2段に設置されたLED照明。競技によって使う数を自在に変えられます

従来のスタジアム、アリーナなどで使われていたHID照明は、点灯するまでに10分~15分の時間がかかるため、本番のだいぶ前から準備しておく必要がありました。しかも、演出のためにオン・オフすることもできません。LED照明ならオン・オフもすばやく、演出に応じて明転や暗転といったDMX(※)演出に対応できるわけです。

※DMX:舞台照明や演出を制御する通信プロトコルの共通規格

照明のコントロールは、タブレットで簡単にできる仕組みにもなっています。競技によって使う照明の数や設定を変えたり、プロスポーツやアイスショーの興行時は選手の入場シーンやゴールシーンなど、状況に応じて最適な照明へと瞬時に切り替えられます。

  • タブレット画面のボタンタッチだけで、アリーナ上で多彩な照明演出をコントロール可能

さらに競技者のまぶしさを低減するために、あえて一つ一つのLEDの照射方向を狭くすることで照明の光が重なってできるグレア源を分散。アリーナから客席や天井を見上げたときにまぶしく感じにくい設計になっている。するために独自のVRソフトを使って仮想空間内でまぶしさの検証をしたそうだ。

  • 競技者が眩しさを感じないために、明るさは確保しながら光の重なりを減らしています

アリーナに降りてみました。普段はアイスリンクですが、興行時は断熱フロアを敷設することでバスケットなどの試合にも対応。このフロアチェンジは一晩で完了するので、興行の翌日にはスケートの授業もできるそうです。アリーナから天井を見上げてもそれほどまぶしくなく、それでいて十分な明るさを感じます。

今回、Bリーグのプロバスケットボールチームの選手紹介演出や、スケートリンクへの各種演出も体験。一瞬で照明が暗転し、アリーナ全体にプロジェクションマッピングが描かれ、天井から吊された大型スクリーンと、アリーナを囲むように配置されたリボンビジョンの演出で、光と音に包まれた――。バスケだけでなくアイスホッケーやフィギュアスケートなど、競技に応じて最適な照明と演出が用意されています。

【動画】アイスホッケークラブ「東北フリーブレイズ」オープニングの照明演出(音声が流れます。ご注意ください)

【動画】アイスホッケークラブ「東北フリーブレイズ」選手紹介の照明演出(音声が流れます。ご注意ください)

【動画】フラット八戸のスケートリンク・プロジェクションマッピング(音声が流れます。ご注意ください)

  • 競技やシーンに応じて多彩な演出を用意

また、フラット八戸で特徴的なのは、客席をアイスリンクギリギリに設置していること。客席の壁を光が反射しないようマットな黒にしたりと、競技をより臨場感豊かに楽しめるような工夫が数多く凝らされています。

民間企業がスポーツアリーナの運営を手がけるために欠かせない、劇場的な体験を実現できるフラット八戸。実際に訪れて見て、最新のLED照明による高度な演出を体験してみてはいかがでしょうか。アイススケートの一般滑走や、アイスホッケークラブ「東北フリーブレイズ」のホームゲームといったスケジュールは、フラット八戸のWebサイトで確認できます。