ミラーレスで苦戦が続いていたニコンにとって待望のヒットとなった、デザイン重視のAPS-Cミラーレス「Z fc」。ボディをかつてのフィルム一眼レフ似に仕上げてきただけでなく、往年のMFレンズ風の装いに仕上げた特別デザインの単焦点レンズを用意した点が話題になりました。そこで今回は、Z fcとマッチングのよい交換レンズは何かを考えるとともに、「Z fcのヒットを受けた次の一手」は何なのかを、落合カメラマンに分析してもらいました。

  • ニコンが2021年7月に発売したAPS-Cミラーレス「Z fc」。一時の極端な品薄もほぼ解消した。実売価格は、ボディ単体モデルが13万円前後、16-50 VR SLレンズキットが15万円前後、特別デザインの単焦点レンズが付属する28mm f/2.8 Special Edition キットが16万円前後。装着しているレンズは、高倍率ズームレンズ「NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VR」(実売価格は77,000円前後)

特別デザインのZ 28mm F2.8に欠けているもの

さてさて、そんなこんなのZ fcには、キットを組む28mmレンズがあり、多くの人はそのレンズとの組み合わせを最も尊いものであると受け止めているのではないだろうか。たしかに、コスプレの度合いはZ fcと同等。ベースであるNIKKOR Z 28mm F2.8よりも一足早くコスプレイヤーの方が世に送り出されてしまうという、オリジナルの面目丸つぶれの逆転現象には目がシパシパしてしまったのだが、それだけ気合いの入り方もハンパではないということなのだろう。

まぁ、正直「都合よく存在した発売予定製品をちょこっとアレンジして…」みたいなノリを感じないコトもナイ。でも、限られたリソースの有効活用であると思えばネガティブな印象は8割減だ。少々安っぽくも見えるオリジナルの「筒」な感じが見事に払拭されている外装は、さすがの仕上がりだと断言できる。

  • 特別なデザインをまとったNIKKOR Z 28mm F2.8 Special Edition。Z fcのキットモデルとしてだけでなく、レンズ単品の販売も開始した

  • NIKKOR Z 28mm F2.8 Special Edition(左)とノーマルのNIKKOR Z 28mm F2.8(右)。Special Editionは前玉周辺の造形も異なるなど、細部までアレンジされている。レンズ単体モデルの実売価格は、NIKKOR Z 28mm F2.8 Special Editionが38,500円前後

とはいえ、昔を知る(Fマウントのマニュアルフォーカスレンズを使い倒していた経験のある)ジジイには、NIKKOR Z 28mm F2.8 Special Editionに漂うそこはかとないノッペラボー感が気に入らなかったりする。非常にソレっぽい外装を与えていながら、絞りリングが存在せず、また前ダマがあまりにも小さいことで「明らかに何かが足りない」見てくれになってしまっているのだ。

だからこそ、追って登場することになるのであろう「NIKKOR Z DX 17.5mm F2 VR」(すいません、これは完全なる妄想です。間違ってもホンキにしないでください)に絞りリングの装備は必須。あえて「VR」(レンズ内手ブレ補正機構あり)にしているのは、NIKKOR Z 28mm F2.8 Special Editionでお気楽にホイホイ撮っているとき、微細な手ブレにヤラれることが思いのほか多かったことを学習しての提案だ。この手の「ブレているのかどうかハッキリ分からない程度のごくごくわずかな手ブレ」は、仕上がり画質の印象を不当に貶めることがある厄介者なので注意が必要であり、手ブレ補正機構で効果的にブロックしていただきたいポイントなのである。

Z DX 18-140mmとの組み合わせにゾッコン

今回は、Specialな28mmのみならず、新たに登場した「NIKKOR Z DX 18-140mm F3.5-6.3 VR」も使っている。いや、むしろコチラの方を積極的に使ってみた。装着写真をご覧の通り、Z fcとの見た目の装着バランスは悪くなく、実際に使ってみても、Z fcの小型軽量な特質を毀損するようなことは一切ない、とても軽量な高倍率ズームレンズだ。

  • ニコンのAPS-C専用レンズではおなじみの18-140mmのレンジをカバーする高倍率ズームレンズ「NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VR」

35mm判換算の画角は27-210mm相当。軽さとの引き換えにマウントは樹脂製であり、全体の質感も、まぁまぁそれなりではある。しかし、写りの方はFマウントの同種レンズよりも磨かれている印象だ。個人的には、日常「Z 50+NIKKOR Z 24-200mm F4-6.3 VR」という少々イレギュラーなコンビ(フルサイズ用のレンズをAPS-Cセンサーのボディで使うカタチ。画角は35mm判換算36-300mm相当になる)を愛用しており、同レンズとの比較では終始コントラストが若干低めな仕上がりになるとの手応えではあったものの、単体で見ている限り仕上がり画質に物足りなさを覚えることは皆無。NIKKOR Z 28mm F2.8 Special Editionの次に買うべきは、NIKKOR Z DX 18-140mm F3.5-6.3 VRでキマリだ。なお、後編となる本記事に掲載の作例は、28mmで撮影したものが中心の展開であるところ、前編に掲載の作例はすべて18-140mmで撮影したものになっているので、改めて前編の作例もチェックしていただければ幸いである。

  • NIKKOR Z 28mm F2.8は、35mm判換算42mm相当の画角になるとはいえ、実焦点距離は28mm。大きなボケを得るには、近接撮影に重点を置くなど一定程度の工夫が必要となる。Z fcのバリアングル液晶モニターは、こういったカットを撮影するときに装備されていることのありがたさを実感(NIKKOR Z 28mm F2.8 Special Edition使用、ISO100、1/250秒、F2.8、+0.7補正、42mm相当)

  • NIKKOR Z 28mm F2.8で選択する中距離以遠の開放F値は、あくまでも個人的には周辺光量を落とすためのセレクトに終始。よって、このレンズを装着しているときは、ヴィネットコントロール設定は常時「しない」だった。そういう味付けが好きってだけのお話でありますが…(NIKKOR Z 28mm F2.8 Special Edition使用、ISO100、1/640秒、F3.2、-0.7補正、42mm相当)

  • NIKKOR Z 28mm F2.8はFX(フルサイズ)用のレンズなので、APS-Cサイズのセンサーを搭載するZ fcでは「イメージサークルの周辺は使っていない」(中央部のオイシイところをクロップして使っている)状態になるので、描写についての心配は完全無用。ただ、同じハンドリングのまま(できるなら同系統の外観で)もう少しワイドな画角のレンズが欲しいところではある(NIKKOR Z 28mm F2.8 Special Edition使用、ISO1400、1/50秒、F8.0、-1補正、42mm相当)

  • Z fcの露出補正ダイヤルは、親指を軽く押しつければ指一本で操作することを可能にしながらも、携帯中などに不用意に回ることを排除すべく、ボディエッジとのクリアランスには絶妙な塩梅が与えられ、さらには「0」位置のクリックが少し重くなっているという徹底した作り込みが成されている。Z fcは、ただのコスプレイヤーではないのだ(NIKKOR Z 28mm F2.8 Special Edition使用、ISO1400、1/50秒、F5.6、+1.3補正、42mm相当)

  • NIKKOR Z DX 18-140mm F3.5-6.3 VRの手ブレ補正はなかなかに優秀。スペック上の手ブレ補正効果は5.0段で、実際1/8秒なら手持ちでホイホイ撮れた。ボディ内手ぶれ補正を持たないZ fcとZ 50にとって、VRレンズが存在することの意味は極めて大きいのだが、現状NIKKOR ZのVR搭載レンズは極めて少数派。今後の拡充に期待したい(NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VR使用、ISO100、1/8秒、F13、66mm相当)

  • 電源スイッチは軽く操作しやすい反面、バッグへの出し入れ時など撮影以外の場面でカメラに触れているとき、不用意に動いてしまうことが相当に多かった。作例は、NIKKOR Z DX 18-140mm F3.5-6.3 VRのテレ端撮影したもの。あれば嬉しい210mm相当だ(NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VR使用、ISO220、1/250秒、F6.3、+1補正、210mm相当)

  • 感度ダイヤルは無制限には回らず「100」と「H2」の位置でロックがかかり循環選択できないようになっている。ISO100のつもりでH2になるなどの不用意、かつ重大な失敗を防ぐためだろう。きめ細かい配慮だ。作例の撮像感度はISO25600(NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VR使用、ISO25600、1/10秒、F7.1、-2補正、27mm相当)

期待高まる“2匹目のドジョウ”はフルサイズミラーレスにあらず!?

Z 50を2台所有し、その有能ぶりを誰よりも理解していると自負する私は、正直ここであえてZ fcを買い足そうとは思っていない(ブラックボディが出たら話は別ですケドね。ゲッヘッヘ…)。でも、Z fcが欲しいと少しでも思っている人の背中は満身の力を込めて蹴っ飛ばすことにしている。「Z fcが欲しい」と思うのは、すなわちそのスタイルに惹かれていることの表れであり、そうなった時点でZ fcの入手に係る動機は眩しいほどに明確。コトの必然性は、すでにMaxに振り切っている。もはやチマチマ悩む段階ではないってことだ。

そして気になるのは、Z fcの「次」にあり得る展開である。これに関しては、少なくとも現状においては、同一コンセプトのままのフルサイズ化はないと判断している。では、ナニがあるのか? Z fcと同じイメージセンサーを用いてのレンジファインダー機へのオマージュだ(無責任な放言)。っていうか、そうあってほしい。「S」や「SP」をモチーフとした濃厚なプレイこそが、ニコンZの第二章におけるDXフォーマットの存在意義を確固たるものに押し上げると確信しているからである。

逆の見方をすると、そういった言い訳ナシのままでは、ZのDXフォーマットはジリ貧になりかねないとも思っている。より一層のZ DXレンズ拡充のためにも、Z 50の次世代を担う「Z 70」(仮称)と次の強力なコスプレ・アクターは、必ずや登場しなければならないのだ。ニコンにしかできないことをニコンがやらないでどうする!という強い思いに応えうる、Z fcの成功を糧にした次の一撃に期待したい。

  • Z fcの完成度の高さを評価する落合カメラマン。Z fcのヒットを受けた“2匹目のドジョウ”は、大胆にもレンジファインダー風のAPS-Cミラーレスだと予想した