勝負所で見られた渡辺棋王の強さ
2021年のタイトル戦名勝負総決算、第二弾は第46期棋王戦、渡辺明棋王に糸谷哲郎八段が挑戦したシリーズです。第1局は相居飛車の力戦形で、序盤で渡辺棋王がリードを奪います。しかしそこから中央に金銀の浮遊城を作って、玉を潜り込ませたのがいかにも糸谷ワールドでした。定跡形とは異なる見慣れない局面となれば糸谷八段の戦場です。逆転で第1局を挑戦者が制しました。
しかし、開幕局が糸谷ワールド全開の一局ならば、続く第2局は渡辺棋王の真骨頂でしょう。序盤早々に突き越された端から渡辺棋王が逆襲するという驚きの仕掛けが見られましたが、渡辺棋王はこの仕掛けが成立することを知っていました。入念な準備で想定局面に進めてからはよどみなく勝ち切るというのが渡辺棋王の勝ちパターンです。
■運命の第3局 勝負は混戦に
お互いが持ち味を発揮して、1勝1敗で迎えた第3局が本シリーズの分水嶺でしょう。渡辺棋王の先手番から横歩取りになりましたが、序盤早々に糸谷八段にミスが生じ、先手優勢となります。ところが手堅く勝ちに行くという方針が裏目に出たようで、形勢が混沌としていきます。戦型こそ異なりますが、これは第1局に類似した状況と言えそうです。
■歩の合駒請求が決め手に
ですが、今度は渡辺棋王に勝負の女神が微笑みました。終盤の▲5三飛が決め手です。△6三歩と合駒に打たせたことで後手は攻めに歩を使えなくなり、先手玉の安全度が格段に増しました。▲5三飛では▲9五桂から詰ましに行く順も考えられるところですが、これはきわどく詰みません。「後手玉の詰み筋を探すなら自玉が詰まない筋を読むのが早い」とは渡辺棋王の言葉です。
勝負所で踏みとどまった渡辺棋王、続く第4局は完勝で棋王防衛を果たしました。棋王戦はこれで9連覇、竜王戦で達成した9連覇と並ぶ、自身のタイトル戦最多連覇記録です。「自分の過去の記録に並ぶことは意識していたので、達成できてよかった」と語りました。またこの防衛で通算獲得タイトルを28期とし、通算タイトル獲得期数が単独4位となりました。
年明けの2月から始まる第47期棋王戦で渡辺棋王に挑戦するのは永瀬拓矢王座です。両者のタイトル戦は今年の1~3月に行われた王将戦七番勝負以来となります。これまでタイトル戦の二桁連覇記録を達成したのは大山康晴十五世名人(名人戦13連覇など)と羽生善治九段(王座戦19連覇など)の2人しかいませんが、渡辺棋王が3人目となるかどうか、注目です。
相崎修司(将棋情報局)