コロナ禍以降、とくに若い世代に「孤独感」を覚える人が増えているという研究結果があります。それこそなかには、「この世からいなくなってしまいたい…」という極論に達することも。
親しい人にも自由に会いづらくなったいま、多くの人が孤独を感じていることは想像に難くありませんが、この現象を専門家はどう見ているのでしょうか。自己肯定感研究の第一人者としても知られ、ベストセラーも多い心理カウンセラーの中島輝さんに、孤独感から自分を解放する方法と併せて解説してもらいました。
■恐怖の感じ方には個人差があるため、思いを共有しづらい
——いま、孤独を訴えている人が増えているといわれています。なかでもとくに若い世代に顕著だという調査結果もありますが、なぜ若い世代ほど孤独を感じているのでしょうか。
中島 コロナ禍において若い世代が覚えている孤独感というのは、年長の世代が思っている以上のものではないでしょうか。同じように人命にかかわる大きな出来事というと東日本大震災がありました。もちろん震災は恐ろしいもので多くの人々が犠牲になったことはあまりに残念なことでしたし、いまもそのトラウマから立ち直れていない人がたくさんいると思います。
しかし見方を変えると、「自然」という目に見える事象でもありました。そのため、その厳しい試練に直面しながらも、「絆」とか「人とのつながり」というものをキーワードに、復興という希望に向かって世代を問わず多くの人々が歩むことができたのだと思います。
ところが、今回のコロナ禍の場合、ウイルスという「見えない脅威」が相手です。いわば、遊園地のお化け屋敷のなかを「いつ幽霊が出てくるのか…」とおびえながら進んでいるようなものかもしれません。もちろん、これまでにわたしたちが経験したことのない試練です。
しかも、恐怖の感じ方というものは個人差がとても大きいものです。「幽霊なんて怖くないよ」とどんどん前に進んでいける人もいれば、逆にとにかく幽霊が苦手という人もいます。
そのため、「絆」というキーワードをもとに結束できた東日本大震災のケースとは異なり、それぞれの「思い」をわかち合うことが非常に難しくなります。それこそ親しい人と交流する機会すら減ってしまったのですから、思いを誰かと共有することができず、孤独や絶望というものを深めてしまったのだと思います。
——ただ、それは年長の世代にとっても共通することではないでしょうか。
中島 たしかにそうかもしれません。ただ、大人は「逃げる」ことができます。コロナの恐怖を感じるなかでも、「子どもを養わなければならない」「なんとか生活を営まなければならない」と、目の前の仕事や生活に集中しようとするでしょう。それはある意味で、恐怖から目をそらす、逃げることができているということです。
もちろん若い世代でも、すでに社会人になっているならそうすることができるかもしれませんが、学生などまだ親に養われている世代の場合はそうできません。さらに、本来なら若いうちに多くの人と交流をしたり様々な経験を積んだりするなかで、「これがわたしの生きがいだ!」といえるものに出会えるはずなのに、行動制限によってその機会も奪われてしまいました。
そうして人生に希望を見出だせなくなった若い人たちが、孤独や絶望を深めているのだと思われます。
■低迷する経済状況により、ネガティブ思考になりがちな若者
——ここまで、コロナ禍と関連づけて若者が孤独を感じているというお話をしていただきました。そもそもの話になりますが、コロナ禍を抜きにしても若い世代は年長の世代より孤独を感じやすいものなのでしょうか。
中島 とくにいまの日本の場合はそうだと考えられます。なぜなら、わたしたちのメンタリティーと経済状況は大きく関連しているからです。どんどん収入や生活レベルが上がっていた高度経済成長期なら、多くの人が前向きに生きることができました。
しかし、いまの若い世代の場合、物心がついたときには日本の経済状況はとっくに低迷していたわけです。ネガティブな情報ばかりが入ってくるなかで育ち、なにかにチャレンジするまえから「どうせ無理でしょ」というふうに思い込んだり、孤独や絶望といったネガティブな感情を持ったりしがちになってしまったのです。
——そのように孤独を感じるあまりに、なかには「いなくなってしまいたい」なんて思う人もいるかと思います。そう感じる人は、どういう心理状態にあるのでしょうか。
中島 本来、若いときというのは、専門的には「レゾンデートル」という自分の存在理由を探していく時期です。自我が芽生え、自分自身はいったい何者なのかということを探求する。その探求の結果、「大学に行って留学したい」「このスポーツに打ち込みたい」「こういう仕事をしてみたい」といったそれぞれの希望を持ち、生存の意味を見出します。
しかし、その希望というものを持てず、生存の意味を見出だせなかったとしたらどうでしょうか? それこそ、「自分には生きている意味などない…」「この世からいなくなってしまいたい…」というふうに考えてしまうのです。
——ある調査によると、自殺念慮、自殺未遂ともに15歳〜20代のリスクが他の世代より高いことがわかったそうです。
中島 いまの若い世代を見ていると、自殺念慮に関しては二極化しているのではないでしょうか。コロナ禍のなかで孤独を感じるなかでもなんとかつながりを持とうと、SNSにショートムービーを投稿するといった自己表現を通じてその孤独を解消している人も少なくないようです。
一方、そういうことができない人や興味を持たない人の場合は先にお伝えしたような理由で孤独を深めているでしょう。
■自分の存在・生存理由を見つけるために、視野を広げる
——では、「いなくなってしまいたい…」と考えてしまう人が、その願望から自分を解放して前向きに人生を歩んでいくにはどうすればいいでしょうか。
中島 これはわたしのところに訪れるクライアントや講座の受講生にも伝えていることですが、まず、「新しい視野」を持つことをすすめています。自分の生存理由を見出せない人は、これまでに自分がつくり上げたひとつの凝り固まった視野でものごとを見ています。そうであるなら、意図的に新しい視野を手に入れればいいという考え方です。
そのためには、とにかくどんなにつらくても、なにかに打ち込むなどいまを懸命に生きてほしいと思います。すると、過去の見方も変わってきます。懸命に努力をしてなんらかの成果が見えてくると、ずっと自分にとってネガティブな経験だと思っていたことも、「あの経験がいまに役に立っているんだ」と思えるようになるからです。
そうなれば、過去も現在も未来も含めた人生全体を、ポジティブにとらえられるようになります。ただし、ひとつ問題があります。
——どういう問題でしょう?
中島 「いまを懸命に生きる」という言葉が、いまの若い世代にはなかなか響かないのです。本当なら、苦しくてもつらくてもある一定程度のところまで自分を追い込んではじめて「自分には生きる価値があるんだ!」と心から思うことができ、その思いが自分を前進させる強いエネルギーになります。
ところが、いまは自分を追い込んだり懸命に努力したりすることがすぐに「昭和的」だとか「根性論」だというふうに敬遠されてしまって、その先にあるメリットを享受するところまでたどり着くことが難しくなっているのです。
——なるほど。その場合は、どうすべきでしょうか。
中島 ちがう方法で視野を広げることがいいかもしれません。いろいろなことが考えられますが、たとえば読書を習慣にすることでもいいでしょう。ジャンルは問いませんが、漫画ではなく活字にしてください。
——漫画ではなく、活字にする理由は?
中島 そのほうが想像力を高められるからです。そうして視野を広げて想像力を高めたら、その想像力でもって自分のやりたいことをイメージしましょう。多くの人がやらなければならないことに追われる毎日を送っているとは思いますが、ときには自分がワクワクすること、やりたいことだけを考える時間を持つことはとても意義のあることです。
そうすることで、心のなかの孤独感は少しずつ払拭され、前向きなエネルギーが出てくると思います。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/川しまゆうこ
「自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口」
■いのちの電話
0570・783・556(10時~22時)、
0120・783・556(フリーダイヤル、16時~同21時、毎月10日は8時~翌日8時)
■こころの健康相談統一ダイヤル
0570・064・556(相談対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
■よりそいホットライン
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岩手、宮城、福島各県からは
0120・279・226(24時間対応)