守秘義務とは、機密情報などを漏らさないために、会社員や特定の職業に課せられる義務です。厳格な守秘義務がある公務員や医師、弁護士のほか、一般企業の会社員にも適用されるケースがあるため、理解を深めておくことが大切です。
この記事では守秘義務の概要や適用範囲などを解説します。
守秘義務とは
守秘義務とは、業務上で知り得た秘密を漏えいしないために会社員や特定の職種に対して課される義務や決まりのことです。守秘義務に違反した場合は、処罰や損害賠償請求の対象になる場合があります。
守秘義務の範囲がどこまでなのか理解するには、それぞれの職種や企業の規則を確認する必要があります。
守るべき秘密とは
業務を遂行する上で知り得た個人情報や機密情報などを、必要のない場面で漏らさないことが守秘義務です。
職種によっては顧客のプライベートな情報を取り扱うケースもあります。守秘義務を守るのは顧客に被害を与えないのはもちろん、安心して自社のサービスや商品を利用してもらうためでもあります。違反してしまえば顧客だけでなく、社会的信頼を失う恐れもあるでしょう。
「業務上知り得る秘密」の定義は、公務員ならば公務員法、一般企業に勤める会社員ならば就業規則に定められており、立場によって異なります。
公務員や医師は法律の対象
重大な個人情報や秘密を扱うような職種には重い守秘義務が課せられており、職種によっては刑法で定められています。
たとえば、医師や薬剤師、医薬品販売業者、助産師などの医療関係者、弁護士、弁護人、公証人などの職種で働く人や過去に就いたことのある人、宗教や祈祷、祭祀に関わる職種の人は刑法の対象です。「刑法第134条」に明記されており、正当な理由なく業務上で知り得た人の秘密を漏らした場合、6ヶ月以下の懲役または10万円以下の罰金となります。
上記の刑法には含まれていませんが、重い個人情報を扱う公務員や税理士などは、それぞれ特別法にて同様の規定が定められています。
秘密保持義務との違い
守秘義務と混同されやすい規定に「秘密保持義務」があります。守秘義務と同じように、職務上で知り得た秘密を守る義務のことです。
異なる部分は法定と契約です。守秘義務は法定や規則による義務ですが、秘密保持義務は秘密保持契約などの契約を結んだことで発生する義務を指します。
守秘義務はどこまで適用されるのか
守秘義務がどこまで適用されるのかは、職種や刑法、知り得た情報によって異なります。ここでは職種別に守秘義務の適用範囲を解説します。
会社員
刑法や特別法に記載のない職種の会社員も、扱う情報によっては守秘義務が発生します。刑法で定められていないからといって、知り得る情報を開示してしまうと責任を問われる可能性があります。
企業の場合、就業規則のなかに守秘義務をはじめさまざまな義務が明記されているのが一般的です。そのほか秘密保持契約書を結んでいる契約に関することなども機密情報となり、取り扱いには充分な注意が必要です。
公務員・教員
公務員のケースでは、国家公務員には「国家公務員法100条1項、109条12号」、教員を含む地方公務員には「地方公務員法34条、60条2号」にてそれぞれ守秘義務が定められています。
この場合の秘密とは、公に知られていない事実や保護に値すると認められるものを指します。
医療・介護関係者
医師や薬剤師、医薬品販売業者、助産師などの医療関係者は刑法、介護士は介護福祉士法で守秘義務が定められています。
医療や介護の分野は、患者やその家族の細かな個人情報やプライバシーを知り得る職種です。特に医療関係者は患者の診断記録はもちろん、生年月日や家族構成といった基本情報など幅広い情報が対象となります。たとえ患者が亡くなっても守秘義務が消えることはありません。
弁護士
弁護士は刑法で守秘義務が定められています。依頼者が安心して裁判を進めるためにも、弁護士が秘密を漏らさないよう強い守秘義務が課せられているのです。
適用範囲は広く、自身が担当している案件だけでなく、弁護士として相談を受けた際に知り得た秘密なども対象となります。しかし、職務を離れているプライベートな場面では適用されません。
会社員に課される守秘義務
前述のとおり、守秘義務は公務員や医療関係者、弁護士などの刑法で定められている職種以外の一般企業に勤める会社員にも課せられるケースがあります。会社員に課せられる守秘義務の具体例をみていきましょう。
個人情報
個人情報とは氏名や生年月日などの特定の個人を識別できる情報です。企業が収集した顧客の個人情報を社外に漏らしてしまうと、個人情報の漏えいとなります。
営業秘密
営業秘密とは世間に開示していない企業内だけで共有されている秘密です。同じく社外から正式に許可を得て知った情報も営業秘密となります。企業にとっては貴重な情報が外部に漏れることで不利益を被る可能性があります。
インサイダー情報
インサイダー情報とは重要事実とされる非公開の内部情報です。関係者がインサイダー情報を社外の人物に漏えいし、情報が公表される前に株券などの取引を行うことをインサイダー取引と呼びます。インサイダー取引は金融商品取引法によって規制されているため、違反すれば刑事罰の対象となります。
守秘義務に違反するとどうなる?
守秘義務に違反すると、刑事罰や懲戒解雇、損害賠償責任などさまざまなペナルティが課せられる恐れがあります。ここでは、具体的にどのようなペナルティなのかを紹介します。
会社員
会社員が守秘義務違反を行うと、規定によっては懲戒解雇や刑事告訴される可能性があります。個人情報保護法に違反した場合は、まず是正勧告などを受け、それでも改善されなければ6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に科せられる可能性があります。なお、2022年の4月に施行される個人情報保護法改正では、1年以下の懲役または100万円以下の罰金へと厳罰化される予定です。
営業秘密漏えいには「不正競争防止法」が適用され、10年以下の懲役または2,000万円以下の罰金が科せられる可能性があります。インサイダー情報漏えいは金融商品取引法の対象になり、違反すると5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
公務員・教員
国家公務員法では守秘義務違反をした場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金と定められています。地方公務員法も同様に、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が定められています。
医療・介護関係者
医療関係者の守秘義務違反は刑法の秘密漏示罪にあたるため、6カ月以下の懲役または10万以下の罰金に科せられます。介護関係者は介護福祉士法が適用され、1年以下の懲役または30万円以下の罰金と、刑法よりも重い罪に問われる可能性があります。
弁護士
弁護士の守秘義務違反の場合、「弁護士法」では罰則の規定はありません。しかし、刑法の秘密漏示罪が適用され、6カ月以下の懲役または10万以下の罰金が科せられます。ほかにも損害賠償請求や弁護士会からの懲戒処分、社会的信頼が下がるなども考えられるでしょう。
守秘義務がどこまで適用されるか知っておこう
守秘義務は、業務上知り得た秘密を漏らさないために会社員や特定の職業に課せられる義務のことです。特に公務員、医療・介護関係者、弁護士など、個人のデリケートな情報を扱う職種は厳しい守秘義務が定められています。
守秘義務がどこまで適用されるのかは職種によって異なります。医師や弁護士などは、違反することで刑法の秘密漏示罪となり処罰される可能性が。一方、会社員でも個人情報や営業機密、インサイダー情報などを漏らすと、就業規則違反だけでなく法律違反として刑罰が科せられる可能性があります。
知らないうちに守秘義務違反を起こして取り返しのつかない事態になってしまわないためにも、日頃からルールを意識しておきましょう。