12月24日に販売を開始する高性能フルサイズミラーレス「Z 9」が話題を集めているニコンですが、2021年はデザイン重視のAPS-Cミラーレス「Z fc」が大ヒットしたのを忘れてはなりません。カメラ女子好みの装いになったZ fcですが、ベースとなった「Z 50」を愛用している落合カメラマンの目にはどう映ったのでしょうか。

  • ニコンが2021年7月に発売したAPS-Cミラーレス「Z fc」。一時の極端な品薄もほぼ解消した。実売価格は、ボディ単体モデルが13万円前後、16-50 VR SLレンズキットが15万円前後、特別デザインの単焦点レンズが付属する28mm f/2.8 Special Edition キットが16万円前後。装着しているレンズは、高倍率ズームレンズ「NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VR」(実売価格は77,000円前後)

ニコンがZ fcを投入できた奇跡的な背景

うむ。まぁ、言ってみりゃあ「よくできたコスプレ」だぁな。発売と同時に「プレミアムエクステリア張替キャンペーン」(全6色を用意する人工皮革の張り替えカスタマイズサービス。期間限定で無料サービスを実施もキャンペーン終了後は4,950円の有料対応に)を実施したことからも、それに似た発想があったことはうかがえる。初っぱなからブッ飛ばしていたわけだ。

って、ニコン「Z fc」をディスろうってハナシじゃありません。今や1億円プレーヤーが存在する「コスプレ」の世界。ハマればオリジナルよりも立場や好感度は上、なんてコトになりかねない時代である。安易に見下してはならぬジャンルであり、存在なのだ。

しかも、Z fcはさまざまな要素が絶妙に絡み合い生み出された奇跡のコスプレイヤーでもある。ニコンが「Z」を有していたこと、「Z」にDXフォーマットを参戦させていたこと、その初号機として身分不相応なほどによくできた「Z 50」がすでに存在していたこと。さらに、名機と呼ばれるフィルム一眼レフを数多く生み出した輝かしき過去と、それを真っ直ぐに振り返ったデジタル一眼レフ「Df」を世に送り出した経験も、もちろん活かされているはずだ。

  • Z 50(左)とZ fc(右)のツーショット。装着レンズは、それぞれNIKKOR Z 24-200mm F4-6.3 VRとNIKKOR Z DX 18-140mm F3.5-6.3 VRで、個人所有のZ 50は日常このコンビで使用している。見た目にはレンズがデカすぎのバランスも、実際に使ってみると握りの深いグリップのおかげもあり、これが結構イイ感じの重量配分に感じられところがナイス。Z fcの方は、見た目はもちろん手に取ったときの印象も「こじんまり」とまとまるコンビ。小型軽量さを一切スポイルしない組み合わせなので安心してチョイスできる

  • フィルム時代、F3Pをメイン機として使っていた頃は、FM2&New FM2が有能なサブ機のポジションを担っていた。これは、その時代を一緒に駆け抜けてきた1台。「電池がなくても写る(使える)」ことを理由に、私は最盛期にはFMを1台、New FM2を2台、そしてNew FM2/T(チタン)の「犬」を1台所有し、モータードライブ「MD-12」とともにバリバリに使っていた。いやー、懐かしいなぁ。今の悪知恵を携えてあの頃に戻りたい(笑)

そして、トドメのイッパツは「ミラーレス市場で後れをとっている」との苦い自覚と湧き上がる焦燥がエイヤッと注入されたことによる爆発的な化学反応であったと想像する。崖っぷちで下された決断による勇猛果敢な攻め込みがZ fcの爆誕につながったのだ。タイミングを外していたら、おそらくは実現不可能だったであろう偉業である。

だからこそ、無遠慮にイジワルな目線を投げるならば、Z fcは「時間稼ぎの一兵卒」だったように見えなくもない。ニコン自身が「ウチにしかできない(とりあえずやれる)ことは何だ?」と考えたとき、自動的にスルッと導かれるもっともシンプルな回答であったのであろうことにも容易に想像は及ぶというものだ。しかし、ミラーレス機の特徴のひとつであるショートフランジバックの効能が「フィルム一眼レフっぽいサイズ感の再現」という意外な要件において最大限の効果を発揮していることは、先に触れているとおりの奇跡のひとつ。Dfが宿命的に飲まされていた苦汁を見事、中和しているようにも見える“奇跡の展開”なのである。

とまぁ、以上はすべてワタクシお得意の無責任な妄想に過ぎないのだけど、Z fcを生み出し送り出すことが、今のニコンにしかできない離れワザであったことは間違いない。モチーフとなったフィルム一眼レフの存在、およびその知名度を含め、他メーカーがどう転んでもマネのできないことなのである。まさしく、火事場の馬鹿力をバカにすんなよ~って感じぃ? 

Z 50をベースモデルにできた“幸運”

現状、その強みは存分に発揮されているようだ。先日、友人から「高校生の姪っ子がカメラを欲しがっているのだけど…」という相談を受け、ふむふむ、どんなものをご所望なのかな?と聞いてみたら、彼女からのメールには「富士フイルムかソニーかニコンのZ fcがいいです」と書いてあったとか。富士フイルムとソニーは十把一絡げ扱いなのに、Z fcだけはビシッとご指名(笑)。ニコンには、似たようなカメラが他にはないからなのかもしれないけれど。

口うるさいことが前提のマニアック目線であるならば、「富士フイルムの良さ」や「ソニーの凄さ」を語ることはさほど難しくない。しかし、いくら飛沫ビシバシ語ったところで、現代女子高校生の無垢な想いに適う道理はないだろう。Z fcに備わっている魅力とは、まさにそういう類のもの。理屈じゃあないんだな。

そして、それに加え、フィルム時代を一眼レフで過ごしてきた連中(私を含む)の懐古趣味をも満足させ得るのだから、まさしく一網打尽である。フィルム一眼レフ「FM2」を思わせるスーツを纏う決断は大正解だったというワケだ。スーツアクター(中の人)にZ 50を選んだのも、(それしか選択肢がなかったにせよ)結果としては正解だったと思う。画質や各種機能が見せるバランスの良さは、全面的にZ 50譲りなのだ。

  • 被写体認識AFは、Z 50と変わらぬ少々緩めの動作を見せることが多いが、顔認識が絡むAFのモード切替がショートカットメニューというべき「iメニュー」内でダイレクトにできるようになっているなど、操作利便性の面ではZ 50超えの仕上がりを身につけているZ fcである(NIKKOR Z DX 18-140mm F3.5-6.3 VR使用、ISO8000、1/500秒、F3.5、+0.7補正、27mm相当)

  • 顔認識(瞳認識)AFは「人間」と「動物」を任意に切り替えての使用となる。室内でハイスピードシャッター優先の設定で撮影を行ったことから、ISO感度(オート設定)はISO22800にドンと上昇。高感度ノイズリダクション「標準」設定での仕上がりはこんな感じだ(NIKKOR Z DX 18-140mm F3.5-6.3 VR使用、ISO22800、1/500秒、F5.3、+0.7補正、105mm相当)

  • ちなみに、ISO25600はこんな感じ。「葉」の描写再現など細部の処理を含め、個人的には十分常用できる超高感度画質であると判断している。というわけで、愛用するZ 50の感度自動制御の上限はデフォルト1段落ちのISO25600設定なのが自分流(Z fcのデフォルト上限設定もISO51200)(NIKKOR Z DX 18-140mm F3.5-6.3 VR使用、ISO25600、1/10秒、F5.6、-0.3補正、27mm相当)

  • ISO51200ではこんな感じ。エッジやハーフトーン部分の崩れが大きくなる印象も、APS-Cセンサーの画であることを考えるとかなり優秀な仕上がり。D500の流れを汲むのではないかと思われるこのセンサーの素性は相当に良さそうだ(NIKKOR Z DX 18-140mm F3.5-6.3 VR使用、ISO51200、1/20秒、F5.6、-0.3補正、27mm相当)

  • さりげなく優秀な描写に、イメージセンサーと新生ズームレンズ両方の高い実力を感じる1枚。ただし、f11を超える絞り値だと、回折補正の力を借りても解像の低下が目に付くようになってくる(NIKKOR Z DX 18-140mm F3.5-6.3 VR使用、ISO100、1/80秒、F11、-0.7補正、52mm相当)

  • 仮に「Z 9」が極めて順調に「Z 6」「Z 7」と同時デビューを飾っていたら(そしてZ 6、Z 7の性能にあともう少し性能の底上げがあったとしたならば)、そもそも「DXフォーマットのZ」の登場は、もっと後回しになっていたのでは? だとしたら、Z fcの登場はなかったのかも…?(NIKKOR Z DX 18-140mm F3.5-6.3 VR使用、ISO4000、1/4000秒、F11、-1.3補正、165mm相当)

  • Z fcを使っているときに最も気になったのが、右手指の落ち着き先がないころ。Z 50に慣れているせいもあるが、やっぱりグリップ(に類するもの)が欲しいのだ。フィルム時代は気にならなかったのにどうして…? と考えつつ久々にNewFM2を構えてみたら、理由が分かった。あの頃、ボディ単体の片手携帯時は中指、薬指あたりをセルフタイマーレバーに、親指を引き出したフィルム巻き上げレバーにかけていた(そういう持ち方ができた)のだ。というワケで、Z fcを手に入れることになったら、個人的にはエクステンショングリップ「Z fc-GR1」は購入必至。本当は、Z fcにもセルフタイマーレバーみたいな指かけが付いている方がウレシイのだけど(NIKKOR Z DX 18-140mm F3.5-6.3 VR使用、ISO100、1/200秒、F4.0、-1.3補正、27mm相当)

  • NIKKOR Z 24-200mm F4-6.3 VRを使用し、150mm付近で撮影。1/6秒の手持ち撮影なので、微細な手ブレが生じている可能性は排除できずも、前景として配している樹木の枝葉が暗闇に沈み込むことなく丁寧に再現されていることが分かる。ISOオートで導かれた感度はISO6400。この感度であれば、高感度ノイズの存在が目に付くことも皆無だ。なお、露出補正ダイヤルではプラスマイナス3段限りとなる補正幅は、コマンドダイヤルでの設定に切り替えることでプラスマイナス5段までの露出補正が可能になる。このカットは、そのようにして撮影したもの(NIKKOR Z 24-200mm F4-6.3 VR使用、ISO6400、1/6秒、F8.0、-3.7補正、225mm相当)

  • ZマウントのミラーレスにはAPS-Cセンサー搭載のZ 50が存在したこと、Z 5などのフルサイズセンサー搭載モデルではなくZ 50をベースにしたことが、Z fcの成功の要因だと語る落合カメラマン。Z fcと組み合わせて使いたい交換レンズについては、ひとこと言いたいことがあるようで…