12月24日に販売を開始する高性能フルサイズミラーレス「Z 9」が話題を集めているニコンですが、2021年はデザイン重視のAPS-Cミラーレス「Z fc」が大ヒットしたのを忘れてはなりません。カメラ女子好みの装いになったZ fcですが、ベースとなった「Z 50」を愛用している落合カメラマンの目にはどう映ったのでしょうか。
ニコンがZ fcを投入できた奇跡的な背景
うむ。まぁ、言ってみりゃあ「よくできたコスプレ」だぁな。発売と同時に「プレミアムエクステリア張替キャンペーン」(全6色を用意する人工皮革の張り替えカスタマイズサービス。期間限定で無料サービスを実施もキャンペーン終了後は4,950円の有料対応に)を実施したことからも、それに似た発想があったことはうかがえる。初っぱなからブッ飛ばしていたわけだ。
って、ニコン「Z fc」をディスろうってハナシじゃありません。今や1億円プレーヤーが存在する「コスプレ」の世界。ハマればオリジナルよりも立場や好感度は上、なんてコトになりかねない時代である。安易に見下してはならぬジャンルであり、存在なのだ。
しかも、Z fcはさまざまな要素が絶妙に絡み合い生み出された奇跡のコスプレイヤーでもある。ニコンが「Z」を有していたこと、「Z」にDXフォーマットを参戦させていたこと、その初号機として身分不相応なほどによくできた「Z 50」がすでに存在していたこと。さらに、名機と呼ばれるフィルム一眼レフを数多く生み出した輝かしき過去と、それを真っ直ぐに振り返ったデジタル一眼レフ「Df」を世に送り出した経験も、もちろん活かされているはずだ。
そして、トドメのイッパツは「ミラーレス市場で後れをとっている」との苦い自覚と湧き上がる焦燥がエイヤッと注入されたことによる爆発的な化学反応であったと想像する。崖っぷちで下された決断による勇猛果敢な攻め込みがZ fcの爆誕につながったのだ。タイミングを外していたら、おそらくは実現不可能だったであろう偉業である。
だからこそ、無遠慮にイジワルな目線を投げるならば、Z fcは「時間稼ぎの一兵卒」だったように見えなくもない。ニコン自身が「ウチにしかできない(とりあえずやれる)ことは何だ?」と考えたとき、自動的にスルッと導かれるもっともシンプルな回答であったのであろうことにも容易に想像は及ぶというものだ。しかし、ミラーレス機の特徴のひとつであるショートフランジバックの効能が「フィルム一眼レフっぽいサイズ感の再現」という意外な要件において最大限の効果を発揮していることは、先に触れているとおりの奇跡のひとつ。Dfが宿命的に飲まされていた苦汁を見事、中和しているようにも見える“奇跡の展開”なのである。
とまぁ、以上はすべてワタクシお得意の無責任な妄想に過ぎないのだけど、Z fcを生み出し送り出すことが、今のニコンにしかできない離れワザであったことは間違いない。モチーフとなったフィルム一眼レフの存在、およびその知名度を含め、他メーカーがどう転んでもマネのできないことなのである。まさしく、火事場の馬鹿力をバカにすんなよ~って感じぃ?
Z 50をベースモデルにできた“幸運”
現状、その強みは存分に発揮されているようだ。先日、友人から「高校生の姪っ子がカメラを欲しがっているのだけど…」という相談を受け、ふむふむ、どんなものをご所望なのかな?と聞いてみたら、彼女からのメールには「富士フイルムかソニーかニコンのZ fcがいいです」と書いてあったとか。富士フイルムとソニーは十把一絡げ扱いなのに、Z fcだけはビシッとご指名(笑)。ニコンには、似たようなカメラが他にはないからなのかもしれないけれど。
口うるさいことが前提のマニアック目線であるならば、「富士フイルムの良さ」や「ソニーの凄さ」を語ることはさほど難しくない。しかし、いくら飛沫ビシバシ語ったところで、現代女子高校生の無垢な想いに適う道理はないだろう。Z fcに備わっている魅力とは、まさにそういう類のもの。理屈じゃあないんだな。
そして、それに加え、フィルム時代を一眼レフで過ごしてきた連中(私を含む)の懐古趣味をも満足させ得るのだから、まさしく一網打尽である。フィルム一眼レフ「FM2」を思わせるスーツを纏う決断は大正解だったというワケだ。スーツアクター(中の人)にZ 50を選んだのも、(それしか選択肢がなかったにせよ)結果としては正解だったと思う。画質や各種機能が見せるバランスの良さは、全面的にZ 50譲りなのだ。