ネットニュースやSNSを見ていると、「権化」という言葉をみかけることがあります。「けんか」や「けんげ」などと読んでいる人もいるかもしれませんが、これらは間違った読み方です。
本記事では権化の正しい読み方や意味、語源・類語をくわしく解説していきます。さらに、権化を使った例文や英語表現なども紹介。正しく覚えて、権化という言葉を使ってみましょう。
「権化」の意味とは?
権化は「ごんげ」と読みます。「けんか」や「けんけ」「けんげ」などと読んでしまいそうになりますが、これらは誤りなので注意してください。
権化には2つの意味があります。
仏・菩薩(ぼさつ)・神といった存在が、人々を救済するためこの世に仮の姿となって現れること。また、その仮の姿。
ある抽象的な観念、思想、思いなどが、具体的な形となって現れたかのように思える人、物。
2つ目は、1つ目の「仮の姿となって現れる」という部分が転じて生まれたものです。
「権化」の語源
権化の語源となっているのは「権現」という言葉。読み方は「ごんげん」です。権現も権化と同じように「仏・菩薩・神といった存在が、人々を救済するためこの世に仮の姿となって現れること」という意味を持ちます。
「権」には「仮」や「かりそめ」といった意味があるため、権現は「仮(権)の姿となって現れる」といった意味をもつ言葉になるのです。
また、権現は神に対する称号である「神号(しんごう)」の一つでもあります。
仏教用語が語源
「仏や菩薩、神が人々を救済するためにこの世に仮の姿となって現れる」という意味からもわかるとおり、権化という言葉は、もともと仏教用語です。
上記の意味が転じて「抽象的な観念などが人、物となって現れた姿」といった意味で使うようになりました。
仏教について話している場合は別ですが、日常会話などで出てくる権化は2つ目の意味であることがほとんどでしょう。
「権化」の使い方と例文
先述のとおり日常で権化を使う場合、抽象的な特質や特徴が人や物の姿となって現れる、という意味の方であることがほとんどです。
もともと権化という言葉は、仏、菩薩、神が人々の救済のために現れることを指すため、いい意味の言葉であって悪い意味は含みません。しかし、使われ方によっては悪い意味の言葉になってしまうことがあります。
ここでは、良い意味と悪い意味どちらの使い方も紹介します。
【例文】
・あまりに酷いおこないをした彼は悪の権化だ。
この場合は、「悪そのもの」や「悪の象徴」といった意味になります。悪い意味での使われ方には、ほかに「恐怖の権化」「物欲の権化」などがあります。
【例文】
・彼女はまるで「美の権化」だ。
日々、美の追究を怠らないような人を「美の権化」ということがあります。「美そのもののよう」「美を象徴する」といった意味です。
ほかに、子犬や子猫のような多くの人がかわいいと思う存在を「かわいいの権化」ということも。「愛の権化」「幸せの権化」なども良い意味の言葉です。
また、あらゆることに興味を持つ人を「好奇心の権化」といったり、食べることが何よりも好きな人を「食欲の権化」といったりします。
このように、権化は何かを「象徴している」「典型的な姿」といった意味合いで使用されています。組み合わせる言葉によって良い意味にも悪い意味にもなるので、状況にあわせて適したものを使いましょう。
「権化」の類語・言い換え表現
権化には似た意味をもつ言葉がいくつかあります。ここでは権化の類語を紹介するので、権化とあわせて覚えてみてください。
化身
化身は「けしん」と読みます。化身も権化と同じくもともとは仏教用語です。下記のような意味を持ちます。
- 人間を救うために人の姿となって姿を現した仏。仏の三身のひとつ。
- 神仏が人の姿で現れたもの。
- 観念など抽象的なものが形をとって現れたもの。
- 歌舞伎における化け物、妖怪変化のこと。
1と2は仏教用語になり、権化とよく似た意味の言葉です。日常的に使う場合も「美の化身」といった言い方をするので、権化と同じような使い方ができます。4のような権化にはない意味を持っている点が違いになるでしょう。
変化
一般的には「へんか」と読むことが多いですが、権化の類語として使う場合は「へんげ」と読みます。下記のような意味を持つ言葉です。
- 神仏、天人などが人の姿になって現れること。そのもの。
- 動物などが姿を変えて現れること。そのもの。
- 人がその姿を次々に変えること。
権化と似ていますが、日常的に使う場合は意味合いが異なります。
化現
読み方は「けげん」で、仏教用語です。仏教用語としての権化と似ていて、「神仏が人々を救うためこの世に現れること」といった意味があります。また、「ものが形となって現れたもの」という意味もあります。
「権化」の対義語
権化をより深く理解するなら、対義語もチェックしておきましょう。
実化
権化の対義語は「実化」です。「じっけ」と読みます。
実化は仏教用語で、「神仏が人々を教化(きょうけ:人々を教え導いて仏道に入らせること)するために本来の姿を現すこと」という意味を持つ言葉です。
権化は「仮の姿」であるのに対し、実化は「本来の姿を現す」という点が反対の意味になります。
「権化」の英語表現
権化の英語表現にはいくつかの単語があげられます。
・incarnation
「肉体を与えること、人間化、権化、化身」といった意味があります。キリスト教では「受肉(じゅにく)」「托身(たくしん)」などと訳され、「キリストが人類の救済のためイエスという人の肉体をまとって出現したこと」を指す言葉です。
・embodiment
「具体化、体現、化身、権化」などの意味があります。権化といった意味もあり、「形を与える」といった意味も含む言葉です。
「権化」を覚えて日常会話で使ってみよう
権化は、「神仏が仮の姿で現れる」という意味と、「抽象的なものが形となって現れたもの」という2つの意味を持つ言葉です。「けんか」や「けんげ」と読みたくなりますが、正しい読み方は「ごんげ」なので、間違って覚えないように注意してください。
仏教用語として使う機会はあまりないかもしれませんが、人や動物の特徴を表す意味で使うことはあるでしょう。例えば、猫のことを「かわいいの権化」と言ったり、美意識が高い人のことを「美の権化」と言ったり、日常会話でも使うことができます。ぜひこの機会に意味や使い方を覚えてみてはいかがでしょうか。