周りを海に囲まれた日本では、物資のやり取りに税関手続きは必ず必要になります。そこで活躍しているのが通関士です。
それでは通関士とは具体的にどのような業務を担うのでしょうか。また年収や通関士試験の難易度はどの程度なのでしょうか。本記事で紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
通関士とは
「通関士」とは、国会試験の合格が義務付けられた専門家です。具体的にどのような仕事をするのか、仕事内容や年収などをみてみます。
そもそも「通関」とは
そもそも「通関」とはどのような意味なのでしょうか。通関とは、「関税法に従って、税関から貨物の輸出入の許可を得ること」「許可を得て税関を通過すること」という意味です。
税関とは貨物の輸出入の許否を判断したり、関税などの取り締まりを行ったりする官庁のこと。港や空港近くでこれらの業務を行います。
通関士の仕事内容とは
通関士は、上記のような通関に関わる業務を貨物の依頼主に代わって行います。通関に関する業務の一切を担うため専門性が高く、貿易関連では唯一、財務省が認定する国家資格です。
具体的には、輸出入の申請書類の作成、届出、関税の計算、納付、貨物検査の立ち合い、税関への不服申し立てなどです。これらの業務を依頼主と税関の間に立って行うことで、両者のやり取りをスムーズにします。
通関士の年収とは
通関士の年収は、だいたい500万円前後だとされています。ただし、通関士は通関業者に所属するケースが一般的のため、就職する通関業者の規模や、国内企業か外資企業かなどによって年収はバラつきがでます。また、勤続年数によっても変化します。
30代女性の場合、通関士の平均年収は300万円とのデータもありますが、これは子育てなどで時短勤務を希望している場合も含めた金額です。基本的に男女の年収差はありません。
また、外資系企業に就職して海外勤務をすると、平均年収は上がり600~800万円程度になるともいわれています。
通関士の代表的な1日
通関士の1日のタイムスケジュールをみてみましょう。一般的に、通関士の業務は税関の開庁時間に合わせて進行します。以下は、平均的な業務の流れです。
時間 | 内容 |
8:00 | 税関の開庁時間が8:30のため、30分前を目安に出勤します。通関士の仕事を開庁時間に合わせて進行させるため、早めにメールや申告書を確認します。 |
8:30 | 税関の開庁時間。前日に審査した案件を申告します。 |
9:00 | 税関担当者や営業担当者が出勤したら、書類の内容確認や検査の段取りを打ち合わせします。その後、優先順位の高い案件から仕事を進めます。 |
12:00 | 昼休み。税関は11:45~14:00まで受付休止中のため、通関士もこのタイミングで休憩します。 |
13:00 | 税関へ行き、書類の提出や検査の立会いを行います。翌日の案件の処理も同時に行います。 |
17:30 | 税関の閉庁時間に合わせて、1日の業務が終了します。案件の処理が残っている場合は残業をすることもあります。 |
18:00 | 退勤時間 |
通関、通関士などを英語でいうと
通関、通関士、通関業者などの英語表現を紹介します。
- 関税、税関: custom
- 通関: customs clearance
- 通関する: go through the customs
- 通関士: a registered customs specialist
※registeredは「登録された」などの意味
- 通関業者: a customs broker
通関士のメリット・デメリット
通関士の資格をとることで見込めるメリットとデメリットをご紹介します。
メリット
通関士試験を合格して得られるメリットは、以下のようなものが考えられます。
■専門性が高く一定の求人がある
海に囲まれた日本では、貿易関連の業務はどの業界も深く関連しています。その貿易において、税関手続きは避けて通れない作業です。とくに関税の計算などは通関士にだけ認められた業務で、通関業者は各事業所に1名、通関士を在籍させる義務があります。つまり、通関士には一定の求人があります。
■就職や転職に有利
海外と貨物のやりとりをすることが多い現代、社内に通関業法や関税法の知識をもつ社員をおきたいと考える企業は多くあります。通関士資格は就職や転職活動においてアピールすることができます。
■年収アップが見込める
通関士資格を持っていると手当が支給されることが多くあります。また、管理職になる条件として通関士資格が必要なケースもあります。貿易関連の業界においてスキルアップが見込めます。
デメリット
通関士という職業では、一般的に以下のような厳しさがあるとされています。
■労働時間が長くなるケースも
税関手続きが遅れると依頼主に損害を与えてしまうケースがあるため、確実に期限内に業務を進める必要があります。案件や審査が多い場合、書類作成や審査に立ち会う時間が長くなり、お昼休みが減ったり残業が増えたりする場合があります。
■税関に監視される立場
作成した書類の不備は、通関士のマイナス点となります。これが続くと業務停止命令や営業許可の取り消しなど、通関業者に重い処分が科せられることがあります。
■通関士個人にも罰則がある
通関士が通関業法や関税法に違反すると、口頭注意のほか、資格停止命令や資格の剥奪などの処分が科せられます。
通関士へのプロセスや試験の難易度
次に、通関士になるまでのプロセスや試験の難易度をご紹介します。
「通関士試験」合格が必要
通関士になるには、1年に1回行われる国家試験に合格しなければなりません。試験は法律に関わる知識や、関税の計算など実務に関わるものなどから出題され、年齢・学歴・経歴・国籍問わず受験することができます。合格率は10~15%程度とされ、難易度が高い傾向にあります。
試験はすべてマークシートですが、選択肢に答えがないパターンや複数選択するパターンなどがあり、しっかりした知識がないと答えられない仕組みになっています。
なお、通関に関わる実務が一定年以上あれば、試験科目が一部免除される制度もあります。
資格取得後は通関業者に就職する
通関士試験を合格しただけでは「通関士」を名乗ることはできません。税関手続きなどを専門的に行う通関業者に就職して、財務大臣からの確認を受けて初めて、通関士として業務にあたることができるようになります。なお、通関士の届け出を行うことができるのは、管轄税関長の許可を得ている通関業者だけです。
海運、倉庫、物流会社など一般企業でも活かせる
通関士の資格は、海運、倉庫、物流会社など一般企業においても、通関部門などで活かすことができます。ただし財務大根の確認を受けていない場合は、通関士を名乗ることができません。
通関士は独学で合格できる?
通関士試験は独学で合格できるのか、気になる人も多いでしょう。ここでは、独学が可能かについて解説します。
知識があれば独学は可能
通関士試験は、法律について知識があり、貿易関連の実務業務を行ったことがある人なら独学でも対応が可能です。また、前述したように以前に通関業務に従事していた経験があると免除される科目があるため、合格する確率は高まります。
貿易関連の実務経験がないという人は、大学や専門学校、資格スクールの講座などで学ぶのがおすすめです。
独学なら準備は早めに
通関士試験は毎年、10月ごろに実施されます。合格に必要な得点は60%以上とされているので、すべて理解する必要はありません。それでも一般的に、6カ月程度の勉強時間は必要だとされています。
10月の試験本番に向けて、少なくとも4月ごろにはスタートして、8~9月に行われる模試までに勉強を一通り終えていることが理想とされます。
通関士試験の日程
ここでは、通関士試験の日程をみてみましょう。令和3年(2021年)に実施された日程を例にしてご紹介します。
受験申込受付の開始 | 令和3年7月26日 |
受験申込受付の締め切り | 令和3年8月10日 |
試験実施 | 令和3年10月3日 |
合格発表 | 令和3年11月26日 |
なお、令和2年(2020年)の試験実施日は令和2年(2020年)10月4日でした。毎年同じような時期で実施されるため、10月の早い時期に試験が行われる傾向です。
通関士は需要が高く安定した職業
通関士は財務省が認定する国家資格です。貨物の輸出入に関わる通関業務の一切を担う、専門性の高い仕事を行います。年収は500万円程度とされますが、在籍する通関業者などによってもバラつきがあります。
通関士として働くには通関業者に在籍のうえ、財務省の確認が必要となります。しかし海外との物資のやりとりが活発に行われる現在、一般企業においても通関に関する知識をもつ社員は歓迎されるため、通関士の資格が活かせるシーンは多くあるでしょう。
通関士試験は合格率10~15%と難易度が比較的高い国家試験だといえます。通関業務の実務経験があれば免除される科目もあるので、事前に確認しましょう。