「年だから」と容認してしまいがちなぽっこりお腹。しかし、メタボリックシンドロームは健康を損なう危険信号でもあるのです。お腹まわりをスッキリさせるために自転車がどのように有効なのか? 忙しくて運動習慣のない人こそ要チェックです!
●教えていただく先生
立命館大学 スポーツ健康科学部
医学博士 家光素行 教授
筑波大学大学院医学研究科博士課程で博士(医学)を取得。「生活習慣病およびサルコペニアに対する運動効果と機序の解明」が主なテーマ。運動効果のメカニズムをDNA、遺伝子、細胞、組織、個体までを統合的に解析し、科学的根拠に基づいたトレーニング方法の開発を目指している。
――先生、まずはメタボリックシンドロームとはどのようなものなのかお教えいただけますか?
通称メタボと言われていますが、正しくは内臓脂肪症候群です。日本では、ウエストサイズ(おへそ周りの周囲長)が男性で85cm以上、女性で90cmが基準となり、それに加えて空腹時血糖値110mg/dL以上、中性脂肪150mg/dL以上、HDL(善玉)コレステロール40mg/dL未満、収縮期(最高)血圧130mmHg以上、拡張期(最低)血圧85mmHg以上の項目がいずれか2つ以上あてはまる場合にメタボと診断されます。
――メタボになる理由は、やはり生活習慣が大きく影響しているのでしょうか。
そうです。食べ過ぎなどの食生活の乱れや運動不足だけでなく、ストレスや喫煙、飲酒も関わっているといわれています。現在、40〜70代の日本人の男性の2人に1人、女性の5人に1人がメタボと言われ、予備群を含めると約2,000万人と推計されています。特に男性に肥満傾向が高く、これは欧米食化が進んだことや、仕事が忙しく身体をケアする余裕がないこと、自動車の利用が増えていることなどが原因だと考えられます。
――しかし先生、太っていることを自覚していてもあまり危機感を感じないように思うのですが……。
そこが問題なんです。メタボと診断されても、入院するほどの状況でもなく、血液がドロドロになっていることも実感がないので、そのままにしてしまう人が多いのです。しかし、メタボによって引き起こされる病気の発症の危険性は、危険因子の数と大きくかかわっており、危険因子の数が多くなるほど危険度は高まります。例えば心臓病の場合、危険因子を1つもっている場合は5.1倍、2つの場合は5.8倍、3~4個の場合では危険度は急激に上昇し、なんと35.8倍にもなります。
――そんなにリスクが高まることに、気づかないままの人が多いと思います。
日本人の死亡理由の1位はがんですが、2位は心疾患、4位が脳血管疾患で、2つを合わせるとがんと同じ程度になります。メタボだと診断されて「今は大丈夫」と思っていても、それは心筋梗塞や脳梗塞に向かってひそかに進んでいる状況です。また、このような疾患を引き起こして助かったとしても寝たきりや介護が必要な状態になるかもしれません。そう考えるとメタボというグレーな状況のうちにできるだけ早くリスクを解消しておくことがとても重要なのです。
――なるほど。重篤な疾患になりやすいことを理解すれば、早めに対策しようと思えますね。
健康診断を受けたら、そのときの結果だけで判断せずに過去5年間でどのように数値が変わっているかを遡って見てほしいですね。注意して見てもらいたいのは「HDLコレステロール」「中性脂肪」「血糖値」「収縮期(最高)血圧、拡張期(最低)血圧」「ウエストサイズ」です。これらが基準値を上回るとメタボである可能性が高いため、年々どのように推移しているかを理解した上で生活習慣を改めるきっかけにしてもらいたいです。
――生活習慣を改めるポイントはやはり食生活と運動なのでしょうか?
そうです。厚生労働省のガイドラインでは、1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にクスリとされています。そのため、運動不足の解消は欠かせません。人は加齢によって体力が落ちるため、年齢が上がるごとに運動しづらくなっていきます。60代の体力は20代の約半分と言われているほど。しかし多くのビジネスマンは忙しくて運動する時間が取れないのが実状です。最近は仕事中に身体活動量を上げて健康づくりに活かす試みも出てきていますが、できるだけエレベーターやエスカレーターを使わずに階段を利用する、近い距離でのクルマ移動はしないなどの日々の積み重ねが重要になってきます。
――なかなか習慣化できない運動を、どうすればできるようになるのか。そして自転車がメタボ対策にどのような効果をもたらすのかを次回でお伝えします。
※この記事は「Cyclingood(サイクリングッド)」掲載「多忙な人こそ、自転車でスマートに脱メタボ!(1)」より転載しています。