副業するということは、どこかの企業に勤めながら別のクライアントに仕事をもらわなければなりません。つまりあなたは、「〇〇〇株式会社」のAさんではなく、個人事業主のAさんになる必要があり、クライアントが「一緒に仕事をしたくなる人」にならなければなりません。
勤務先の「会社の看板」が使えないとき、どんなマインドを持ち、どうクライアントに接していけばいいのでしょうか。『副業は、自己PRがすべて。 「稼ぐ人」が実践する成功戦略』(プレジデント社)を上梓したばかりの、戦略的PRコンサルタント・野呂エイシロウさんに教えてもらいます。
■「会社の看板」なしでも信頼される自分になる
みなさんがこれから副業に乗り出すにあたり、ブログやSNSといったWEBを活用した自己PRだけでなく、商談や打ち合わせ、パーティーなどリアルの場での自己PRがビジネスの成否をわけます。
ブログなどのWEBを活用した自己PRがうまくいき仕事の相談をもらっても、実際に顧客に対面したときに、「期待していたけどなんだかパッとしない人だなあ」とガッカリされてしまったらビジネスはそこで終了です。挨拶をしてなんとなくの仕事の話をして、「まだ検討段階でしたので、お願いすることになれば再度ご連絡します」と、お茶を濁されるのがオチでしょう。
直接、会って話したときにこそ、「この人は迫力があるな」「おもしろい人だ」「信頼できそうだ」と感じてもらえる。そんな自己PRが、ビジネスを生み出すのです。
「そんなの会社員でも当然のことだろう」と思うかもしれませんが、個人事業では会社勤め以上にこのリアルでの印象は重要です。なぜなら、「会社の看板」があなたの信用をフォローしてくれないからです。
会社員として得意先や取引先の人と会うとき、あなたの背後には「会社の看板」があります。そのため、あなた自身の仕事の能力や言動、振る舞い、身だしなみが相手の信用を得られるようなものでなかったとしても、「会社の看板」—つまり、会社の実績やブランドがあなたの信用を担保してくれています。
たとえ、あなたが仕事でミスをして顧客を激怒させても、上司と謝罪をすれば取り引きを継続できるでしょう。これの意味するところは、顧客はあなたではなく、あなたの会社と取り引きをしているということです。
また、あなた自身が顧客にきちんと信頼されているとしても、やはりその信頼は「会社の看板」を前提としたものです。これを履き違えて、「自分が信用されて仕事が成立してきた」と思っていると、フリーランスや副業では大失敗します。個人事業では、あなた自身が信頼も期待も得られなかったらそれまでです。
ですから、会社員の自分とは意識を切り替え、謙虚に自分の言動や態度、振る舞い、身だしなみを見直し、「会社の看板がなくても信頼される自分になる」ことが大切なのです。実際に、脱サラで個人事業を立ち上げた多くの人が、この意識改革ができずに路頭に迷います。
例えば、顧客も気を遣うような大企業に所属していたり、社内で一定の地位にあったり、兄貴分・姉貴分のような存在であったがために、そのプライドを個人事業に持ち込んでしまうのはよくある話です。はじめて会った顧客からすれば、「なんでこの人、こんなに偉そうなんだ?」と困惑してしまいます。
あるいは、フランクな企業文化や業界の文化をそのまま個人事業に持ち込み、顧客を辟易とさせてしまうのです。ですから、会社員としての自分を一度リセットすることがなにより重要です。
■自分に自信のない人ほど「自撮り」習慣を身につける
では、勤務先の「会社の看板」を使えなくなったとき、どんな工夫をすることでクライアントが「一緒に仕事をしたい」と思ってくれるのでしょう。いくつかのポイントを挙げてみたいと思います。
まずは、「自分の見た目に自信を持つ」というところからはじめます。いまの若い世代の人たちは、スマホで写真をしょっちゅう撮るのでそんなことはないと思いますが、それこそ40代以上にもなってくると、「自分の写った写真をしばらく見ていない」という人は多いかもしれません。
毎日、鏡で見ている自分と、写真などの「他者の視点」で見える自分はかなり印象が違うことが多いと思います。最近では、オンライン会議をやってみたらパソコンに映っている自分の表情の悪さに愕然としたという声もよく聞かれます。
実際は、自分が思うほど変でもないし、悪くもないはずですが、見慣れないから自分の想定を下回ってしまい、コンプレックスを感じたり自信をなくしたりしてしまうのです。
自分に自信を持つには、まず「他人から見えている自分」と自分の認識のギャップを埋めていくことが大切です。顔が大きいとか、太っているとか、しわが増えてきたとか…なんらかのコンプレックスがあるにせよ、それも含めて「自分の見られている姿」を正しく認識しましょう。
そのためにやってほしいのは「自撮り」の習慣です。SNSをはじめとしたWEBに公開する、しないは自由ですが、自分を毎日、写真に撮って見てみましょう。
自分の姿を日々チェックすることで、コンプレックスになっている部分も見慣れていき、それを受け入れることができるかもしれません。それに、他人からすれば、あなたが持っているコンプレックスよりも、表情や清潔感、ファッション、年相応の振る舞いなどのほうが印象や評価に大きく影響します。自撮りによって「人から見える自分」をチェックして、コンプレックス以外の要素に目を向けるのです。
コロナ禍以前にたくさんいた訪日外国人観光客は、実によく自撮りをしていました。これはあくまで僕の印象ですが、彼ら彼女らは、体型も顔も肌の色もそばかすも、自分の個性として肯定している人が多いように感じます。一方で、笑顔や身だしなみにはしっかりと気を遣っています。国民性もあって一概にはいえませんが、エチケットを守り、他人に見える自分自身を大切にしているから、堂々と自分を写真に収め、SNSにアップするのです。
ポイントを整理します。自撮りで客観的に自分を見る機会を増やすことで、
●自分の認識と「他人から見える自分」のギャップを埋める
●自分の姿を受け入れ、コンプレックスを小さくする
●身だしなみを整え、自分に自信を持つ
この3つのポイントを解決しておきましょう。
見た目のコンプレックスは自分にとっては大問題ですが、他者からすれば「たいして気にしていない」し、もっといえば「どうでもいいこと」です。つまり、あなたのビジネスにたいして影響はありません。
それよりも、前向きに見た目の印象をよくする努力をして、自分に自信を持ち、気持ちのいい笑顔で人に接するようにしましょう。それが、相手の好感につながり、あなたのビジネスをさらに成功へと導きます。
■名刺交換後は、速攻の御礼メールが有効だ
パーティーや懇親会もそうですし、商談や打ち合わせでも同じですが、名刺をもらったら「自分から御礼メールを送る」ことを徹底しましょう。
とにかく、相手よりも先に御礼メールを出すことが鉄則です。「その日のうちに」では、相手もその日のうちに御礼メールをしてくる可能性がありますから、できるだけ速やかに、商談後に現地で喫茶店に入ってその場から送るくらいの速さを追求してもいいと思います。
思い返せば、「御礼メールを送る」という習慣は新人時代には持っていたのに、中堅・ベテランになったらおこたっている人も多いのではないかと推測します。そんなスタンスは、会社の看板にもたれかかって、ただふんぞり返っているようなものです。
副業で個人事業をはじめたら、あなたはまったくの「新人」なのです。相手の印象を高めることに必死に取り組むべき状況で、御礼メール1本で好感や信頼が得られるとすれば、これほど「手軽でおいしい」手段はないでしょう。
僕は50歳を過ぎたいまも、「自分がいちばんのペーペー(下っ端)」だと意識するよう努めています。経営者や立場ある人にもいうべきことは恐れず物申しますが、それはあくまでも仕事であり、自分に課せられた役割だからです。それ以外では、ひたすら謙虚でありたいものです。
自分がもっともペーペーなのだから、御礼メールを真っ先に送るのは当然のこと。特に、僕のような年齢のいった人間は、「目上」として扱われやすいのですから、謙虚の姿勢を行動で伝えられる、またとないチャンスです。
こうした姿勢を示すことで印象もよくなりますし、顧客の担当者から相談をしてもらいやすい雰囲気もつくれます。人間というのは、すぐに調子に乗ってしまう生き物です。自分をいつも謙虚でいさせるためのひとつの習慣として、「速攻の御礼メール」を徹底するのも悪くないと思います。
■「電話にすぐ出る」「メールは即返」でチャンスを逃すな!
近頃では、ビジネスにおける電話やメールに対する考え方が変わってきています。例えば、メールやビジネスチャットが主流になってきたことで「電話をかけてくるなんて非常識だ」という考えの人も増えています。
これは業務効率の観点が大きいのでしょう。電話は突然かかってきて、予定外の時間を奪います。しかも、自分で会話の内容はメモしないといけません。それなら「はじめからメールで文面化すれば連絡手段としては効率的だ」ということです。
また、メール対応も、忙しい人ほど「午前中にすべてのメールを返信し、午後に来たメールは翌朝対応する」というスタイルが効率的だと考え、実践している人がたくさんいます。
では、みなさんも副業で効率的にビジネスをするなら、同じように対応するべきでしょうか? 僕もこの問題は悩ましいのですが、これから副業を発展させていこうとするみなさんは、「電話はすぐ出る」「メールは即返」が最適解だと思います。
みなさんの副業が軌道に乗って、仕事を得るよりも効率性のほうが重要だというのなら、電話対応に消極的で、メールはまとめて対応するのもありかもしれません。でも、現段階ではこれから副業でどんどん仕事を増やして、稼いでいきたい立場ですよね? そうなのであれば、顧客最優先の姿勢を崩さないほうが得です。
仕事の依頼をする相手の立場に立って考えてみましょう。「別に急いでないからゆっくり考えておいて」という状況もあれば、「急いでいるから、すぐOKをもらえる人に依頼したい」という状況もあるわけです。後者のときに連絡がつかなければ、完全に案件受注の機会ロスとなります。
二度、三度、そういうときに連絡してすぐ対応してもらえないのであれば、もう急ぎの用件のときにあなたに連絡することはありません。また、急ぎの用件は、顧客にとってはピンチの状況だと思うべきです。すぐ電話やメールに対応してくれる人は、いわばピンチにおける救世主でもあるわけですから、そこで信用を得ていくことで、今後案件を積極的にふってくれる可能性は高いと思います。
依頼を受けるにせよ、受けないにせよ、「すぐ電話に出てくれる」「すぐメールに返事をくれる」なら、顧客からすればスムーズに次のアクションに移ることができます。スピーディな対応というのは、それだけで価値のあることです。
その価値ある対応を提供してくれる人は評価が高まり、印象がよくなっていくのは必然ではないでしょうか。「電話は出ない」「メールはまとめて返信」というスタンスの人が今後も増えていくのであれば、あなたのスピード感はなおさら差別化になるはずです。
※今コラムは、『副業は、自己PRがすべて。 「稼ぐ人」が実践する成功戦略』(プレジデント社)より抜粋し構成したものです
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 写真/石塚雅人