2006年に主演舞台『田園に死す』にて俳優デビューした中村蒼も、今年で30歳の節目を迎えた。近年はNHK連続テレビ小説『エール』(20)でののちに作詞家となる村野鉄男役も記憶に新しい中村だが、素顔はとてもシャイな性格のよう。そんな中村が、平手友梨奈主演のNHK土曜ドラマ『風の向こうへ駆け抜けろ』(12月18日・25日 各日21:00~)で、これまでになかったワイルドでやさぐれた男役に扮し、新境地を開拓。華麗な乗馬シーンにもトライした中村に、平手との共演秘話をはじめ、今後の展望についても話を聞いた。

  • 中村蒼

『風の向こうへ駆け抜けろ』の原作は、古内一絵氏の同名小説。「藻屑の漂流先」と言われていた地方の弱小厩舎を舞台に、鳴かず飛ばずの新人女性騎手・芦原瑞穂(平手友梨奈)が、どこか冷めている調教師の緑川光司(中村蒼)や、個性派の厩務員たちと交流し、成長していく。やがて瑞穂は、虐待されていた良血の競走馬・フィッシュアイズと共に、中央競馬のG1レース・桜花賞に挑む。

脚本を読んだ中村は「馬がたくさん出てくるし、スケールの大きな話」という第一印象を持った。「自分の演じる緑川は、前半では人生を諦めているような人間ですが、後半にいくにつれて徐々にリーダーシップを発揮し、厩舎のメンバーを引っ張っていく人間になっていきます。僕はあまりやったことのないような役だったので、チャレンジしたいと思いました」

緑川役の風貌については「監督やプロデューサーの方々のリクエストで、より年上に見えるような外見にというリクエストが入りました」とのこと。中村の登場シーンでは、ひげをたくわえた男臭さとよどんだ瞳から、大人の色気のようなものが醸し出されていてドキッとさせられる。

ヒロインの瑞穂役を演じる平手とは初共演となった。「平手さんは人気グループのセンターの人という印象が強くて、周りからもすごい人だという声を聞いていました。また、僕も人に言えたものじゃないのですが、人見知りなのかなと思っていたんです。でも実際にクランクインしたら、平手さんは僕よりも、他の方たちと上手にコミュニケーションをとっていたし、すごく楽しく撮影が進んでいきました」

緑川も元騎手という役柄上、平手同様に乗馬シーンの撮影があり、共通の話題を持てたことも功を奏したようだ。「平手さんは僕よりも早くクランクインされていたので、馬についての練習内容を聞いたり、初日からいろんな情報交換をしました。また、平手さんは瑞穂同様にたくましい感じや力強い目線が印象的でしたが、カメラが回っていない時は、普通の20歳の女の子という感じでとても可愛らしく、ギャップがあって素敵な女性だなとも思いました」と語る。

中村は今年の夏頃から本格的に乗馬の練習を始めた。「乗馬の練習をして、終わった後にはお馬さんの体を洗ったり拭いたりお手伝いもさせてもらったりして、馬に触る機会を多く作ってもらいました。10代の頃、写真撮影のために馬に乗ったことがありましたが、その時に馬がカメラのフラッシュを嫌がって暴れてしまい、落ちてしまいました。落ちたと言っても、大したことないはなかったのですが、その直後は馬が怖いと思ってしまって。そしたら牧場の方から『すぐ馬に乗って恐怖心を払拭したほうがいい』と言われ、その後もしばらく乗っていました。その時からずいぶん時間が経ちましたが、1回落ちることを経験していたからか、気持ちは楽でした」

平手は現役の騎手という役柄上、中村よりも乗馬シーンが多いが、中村は平手のガッツに感心したそうだ。「平手さんはすごく根性があります。フィッシュアイズという暴れ馬をなかなか手なずけられないというシーンで、瑞穂は何回も馬に乗ろうとするのに振り落とされてしまうというくだりがあって。地面がドロドロなんですが、平手さんは何度も落ちていました。周りは『大丈夫かな? 怪我をしないかな?』と心配するんですが、平手さんは、全然平気ですといった感じで、何度もトライされていました」

さらに、「教える先生方も、平手さんに任せる度合いが多かった気がします。平手さんは馬に乗って速く走るシーンもそつなくこなされていたからすごいなと思いました。僕は、調教師という役柄上、瑞穂にえらそうなことを言っているんですが、心のなかでは『平手さんは本当にすごい』と感心しながら演じていました」と心から平手を称える。

また、平手の女優としての魅力について尋ねると「対峙した時に、ちゃんと自分の心を動かしてくれる熱量を感じるので、一緒にやっていて楽しいです」と述べ、「平手さんはきっとほかにもいろんな顔を持っている女優さんだと思うので、次に共演した時、また違う顔を見てみたいという気持ちにさせられます。だからまたいつか、別の作品でもご一緒したいです」と語った。