マツダのSUV「CX-8」が法務省特別機動警備隊の指揮官車に選ばれた。そもそも、法務省特別機動警備隊とはどういう組織なのか。数あるクルマの中で、なぜ「CX-8」を指揮官車に選んだのか。東京拘置所内でのお披露目会に参加し、関係者に話を聞いてきた。
世界で1台! 特別な「CX-8」が誕生
法務省特別機動警備隊「SeRT」は、法務省が矯正局長直轄の組織として2019年4月に開設した組織(東京拘置所内に常設)。暴動や逃走など、矯正施設における緊急事態に迅速かつ的確に対処することが主な目的だ。
そう聞けば、普通に暮らしている私たちとは別世界の話のように感じられるが、現在のコロナ禍における感染拡大防止や災害支援活動も任務のひとつだ。クラスターが発生した施設内でゾーニングを行ったり、防護服の着脱方法を指導したり、2021年7月に静岡県熱海市で発生した大雨による災害では復旧支援作業を行ったりと、その活動は多岐にわたる。
緊急事態時には隊長が現場にただちに赴き、指揮をとることが非常に重要だという。隊長の迅速な移動をサポートするとともに、指揮系統を明確化し、事態の早期収束を図る目的で導入したのが今回の指揮官車だ。
指揮官車の選定にあたっては、入札価格と環境性能を合わせて評価する総合評価落札方式を採用したコンペを開催。その中で、もっとも評価が高かったのが「CX-8」だった。
ここからは実車を見ながら指揮官車を確認していきたい。架装を手掛けたのはマツダE&Tだ。同社デザイン部リードマネージャーの横谷昌位氏によれば、メーカー系の架装会社としての「業」(わざ)と「こだわり」をふんだんに盛り込んだという。
まず、カラーリングをはじめとするエクステリアデザインに目を引かれる。グラフィックは先行配備車両との一貫性や編成美を意識し、かつ指揮官車としての端正さ、冷静さを表現した。
中でも苦労したのが側面のラインだ。ボディサイドが複雑な曲面で構成されている「CX-8」だけに、どこから見てもまっすぐな直線に見えるよう、時間をかけて作り上げたという。
架装するうえでは安全性能を妨げないよう配慮した。例えば、フロントグリル内に格納した点滅灯だ。車両前方には、歩行者保護のためアクティブボンネットのセンサー類を装着しているため、荷重変化などを考慮せずに点滅灯を取り付けると、センサーの誤作動や精度低下につながってしまう。これをフロントグリル内に格納することで、「CX-8」が持つ安全性能をそのまま維持することができたそうだ。
今回の指揮官車はルーフに散光式警光灯を装着しているが、取り付けにあたってはルーフ補強を追加している。この変更には、「CX-8」のルーフ設計を担当したエンジニアが参画し、高い強度を実現しているとのことだ。
CX-8の指揮官車は確かにカッコいいのだが、ひとつだけ気になったことがある。マツダ車としてのデザインコンセプトと今回のクルマの整合性についてだ。マツダ車は「魂動デザイン」という哲学のもと、無駄を極限まで省き、「わびさび」のある見た目で統一感を持たせているが、こうした架装は同社の考え方に相反するのではないだろうか。
そのあたりについて横谷氏は、「難しいところではありますが、こうしたクルマにはどうしても必要なパーツを追加しています。我々としては吟味を重ね、魂動デザインを阻害しないような架装にしています」と話していた。
今回の指揮官車は緊急時に出番となるクルマであるため、見る機会が少なければそれだけ、世の中が平和だという証でもある。ただ、実際に見てみたいというマツダファンもいるはずだ。今後はイベントなどで公開を検討していくそうなので、そうした機会を逃さず実車をチェックしてほしい。