ビザ・ワールドワイド・ジャパン(Visa)は12月14日、三井住友カード、横浜市交通局を迎えて、メディア向けにオンラインブリーフィングを開催。公共交通機関における「Visaのタッチ決済」の導入事例から、その効果と広がりについて解説した。
「Visaのタッチ決済」の普及状況は?
ビザ・ワールドワイド・ジャパン デジタル・ソリューションディレクターの今田和成氏によると、コロナ禍により非接触決済であるVisaのタッチ決済の利用も増加しているという。現在Visaのタッチ決済は世界の約700の公共交通プロジェクトに参加し、450以上の公共交通機関で導入されている。
具体的な例では、ロンドンでは2012年のロンドン五輪を機にいち早く地下鉄やバスにVisaのタッチ決済を導入しており、その利用は現在も伸び続けている。ロンドンでの成功を受けて、英国全体でも導入を拡大する計画も出ている。
またニューヨークでは、2019年から地下鉄やバスに非接触リーダーが設置され始め、1万5,000ものタッチポイントを導入。2023年の磁気メトロカード廃止も発表されている。このほかにも、スウェーデン、香港、カナダ、カリフォルニアなど、さまざまな国や地域での導入事例も示された。
日本国内においては、茨城交通、横浜市交通局などのバスをはじめ、13プロジェクト、14道府県での導入事例がある。福岡市や南海電鉄などで実証実験を実施中。
「普及が進めば、国境を越えてもVisaが同じ利便性を提供できるようになる。交通網においてVisaのタッチ決済を導入することで、現金の取り扱いが無くなることによるコスト削減や、利便性の向上が見込める。それぞれの事業者ごとのさまざまな料金体系にも柔軟に対応することも可能となる。今後Visaは、世界中いつでもどこでも、誰からも選ばれ、受け入れられる決済手段となることを目指していく」と今田氏。
三井住友カードのクラウドシステム型交通乗車システムとは?
三井住友カードでは、クレジットカードの非接触決済や2次元コードを認証媒体としたクラウドシステム型の交通乗車システム「stera transit」を推進。公共交通機関向けのソリューションのため、さまざまな国際カードのブランドに対応し、スムーズに公共交通機関に乗車できるものとなっている。
2021年時点で、茨城交通、南海電鉄、福岡市営地下鉄、京急とみおかーとなど、国内14事業者に導入。利用者からは「合理的・革新的な感じがする」「キャッシュバックがあっていい」「スマホひとつで乗車も買い物もできれば便利」など好評の声が挙がっている。事業者側にも「運用開始までがスピーディー」「割引などの施策も柔軟に対応できる」「乗降データに加え、属性や消費データなども得られ、広告や施策の判断材料になる」などのメリットがあるという。
三井住友カードのアクワイアリング統括部グループ長の石塚雅敏氏は、「インバウンド旅客が戻り始めると見込まれる2023年までにVisa以外のカードブランドも含めてフルローンチを目指し、同じ時期に国内都市交通向けの相互直通運賃の対応をしていきたい」と話した。
今後は決済手段としてだけではなく、各種クーポンやデジタルサイネージなどの集客・プロモーション、免税対応など業務効率化に関するものなど、隣接するさまざまな業務アプリケーションも搭載が可能になる。三井住友カードの保有するキャッシュレスデータ分析サービス「Custella」による移動と消費の複合分析で、地域のデータを見える化できるとのこと。
横浜市交通局での実証実験の状況は?
横浜市交通局で行われたVisaのタッチ決済導入の実証実験について、横浜市交通局自動車本部部長の原田浩一郎氏が解説。
横浜市交通局の自動車事業は、1921年に設立され、現在は市内10営業所で運航しており、141の路線がある。そのうち、実証実験は、通勤路線である109系統特急では2021年10月1日から2022年9月30日(予定)まで、観光路線であるBAYSIDE BLUE、あかいくつ、ピアライン、ぶらり三渓園BUSでは2021年12月1日から2022年5月31日(予定)で実施されている。
通勤路線においては、完全キャッシュレスとなっており、現金支払いはもちろん社内チャージも取り扱っていないという。観光路線においては、2021年12月1日から5日までの5日間と、実証実験中の毎月10日・20日・30日に50%キャッシュバックを実施していくという。
バス事業はもともと厳しい経営状況にあり、少子高齢化かつ人口減少化していく社会の中でどのようにバスネットワークを維持していくのかが大きな課題となっている。コロナ禍の影響も大きく、収益性の改善やコスト構造の見直しは急務だそうだ。
「今回の実証実験においては、短期的には非接触決済の導入によって乗務員と乗客との接触機会が減り、感染予防につながることが見込める。そして中長期的には、現金管理コストが減り業務効率の向上や、自動運転バスの導入促進などにより生産性の向上などにも期待していきたい」と原田氏。
Visaのタッチ決済の本格導入に向けては、「初期投資としての設備投資コストや決済手数料、保守運用、システム利用料などのランニングコストなどの必要経費が現状の現金管理コストを上回らないことが必須。そして、バス業界全体でコスト抑制やシステムの共通化を図っていくことが重要」(原田氏)とした。