連続挑戦と連続在籍、それぞれの記録を懸けた戦い
渡辺明名人への挑戦権を争う第80期順位戦、(主催、朝日新聞社・毎日新聞社)は、12月15日にA級6回戦の▲佐藤天彦九段(3勝2敗)―△斎藤慎太郎八段(5勝0敗)戦と、▲羽生善治九段(1勝4敗)―△山崎隆之八段(1勝4敗)戦が行われています。過去の対戦成績は佐藤―斎藤戦が斎藤八段の4勝0敗、羽生―山崎戦が羽生九段の18勝5敗です。
■トップを快走する斎藤八段
前期挑戦者の斎藤八段は現在単独トップ。二番手勢に2勝差をつけているため、かなり有利な状況です。気の早い話ですが、名人戦での連続挑戦が実現すれば第70~72期の間に3期連続挑戦を果たした羽生九段以来となります。他に過去の名人戦における連続挑戦は第12、13期で升田幸三実力制第四代名人が、第17、18期で大山康晴十五世名人が、第37、38期で米長邦雄永世棋聖が実現しています。対する佐藤天九段も3勝2敗と好位置の2番手グループにつけており、この直接対決を制すれば挑戦争いに向けて大きく視界が広がります。
■29期連続A級以上在籍の羽生九段は残留懸けた戦いに臨む
そして裏の大一番とも言える羽生九段―山崎八段戦。羽生九段は第52期順位戦でA級に初参加して以来、一度もA級から落ちたことがありません。今期のA級は佐藤康光九段以外にA級から落ちた経験のある棋士はいませんが、その中で羽生九段の次にA級歴が長いのは第73期に初参加した広瀬章人八段です。広瀬八段のA級キャリアが10年もないことを考えると今期で29期目のA級(名人在籍時を含む)となる羽生九段の凄さがわかります。
その羽生九段が今期は苦境に立たされています。現在5戦を終えて1勝しか上げていないのは羽生九段と山崎八段の2人だけです。本局に敗れた場合はいよいよ残留に向けての剣ヶ峰に立たされます。また仮にこの一戦に勝利しても、A級からの陥落枠は2つあり、順位が下位のため、まだ危険水域にあることは変わらないのです。最長不倒ともいえる大山十五世名人のA級在籍連続44期を更新できるとしたら、その可能性は羽生九段以外に考えられません。同じことは山崎八段にも言えます。こちらは苦節の末につかんだA級という地位を、すぐに失うわけにはいきません。山崎八段はA級昇級を決めた時に「来期のA級で残留できれば強くなれたということです」と語ったことがあります。強くなったという証を自らの手で立てることが出来るかどうか。
12月15日の午前10時に両対局は関西将棋会館で始まりました。佐藤天九段―斎藤八段戦は矢倉に進み、お互いの速攻を警戒しながら慎重な駒組みが続いています。羽生九段―山崎八段戦は対局開始から2時間が経過した昼食休憩の時点でわずか14手しか進んでいないスローペース。本局の重みを感じられるじっくりした展開になっています。
相崎修司(将棋情報局)