駒柱もできた相穴熊の大熱戦

渡辺明棋王への挑戦権を争う将棋の第47期棋王戦(主催・共同通信社)の挑戦者決定トーナメント、敗者組決勝の佐藤康光九段―郷田真隆九段戦が行われました。結果は197手で郷田九段が勝利し、挑戦者決定戦に進出しました。

■強烈な攻めで郷田九段がリード

本局は後手番の佐藤九段が2手目△3二飛の三間飛車を作戦に選びました。佐藤九段はさらに飛車を2筋へ振り直します。そして双方が穴熊の堅陣を築きました。中盤、後手が△4五飛と銀取りに浮いた手に対して、構わず▲2二飛成と成り込み、△6二金に▲5一角と打ち込んだのが強烈です。6二からの殺到と、桂馬を取る▲3三角成という2つの狙いが生じました。佐藤九段は△2五飛と竜にぶつけて飛車交換を狙いますが、そこでズバリ▲6二竜とさらなる強手を放ちます。△同金▲同角成は後手陣が明らかに薄くなり、対して先手玉にはアヤがありませんからこの進行は先手よしとなります。佐藤九段は▲6二竜に対して△2九飛成と攻め合いに出ますが、▲7五歩△8五銀▲8四歩が継続の攻めで、やはり先手が優位に立ちました。

■壮絶なねじり合いに

以下、先手の穴熊が金銀四枚の鉄壁なのに対し、後手の穴熊は銀が一枚だけ。さらに玉の横を守る桂もはがされて、後手玉は風前の灯火のようですが、△6三角と角銀交換を辞さずに先手の攻め駒を消し、▲同馬に△8二竜と垂れ歩も払う順で、後手陣も一息つきます。攻め駒として強力な竜は、守り駒としても強力なのです。こうなるとあとは百戦錬磨の両者によるねじり合いで、熱戦のあかしとも言える駒柱も113手目の局面で登場しました。

■郷田九段が挑戦者決定戦に進出

佐藤九段の猛烈な攻めをしのぎ切って、郷田九段が177手目に打った▲5四角が決め手でしょう。攻めては後手玉の腹を狙い、受けては後手の攻め駒に当たっている、一石二鳥の攻防手です。最後は郷田九段が佐藤玉を即詰みに打ち取って、大熱戦を制しました。

郷田九段は自身初の棋王獲得となった第37期以来、10年ぶりの棋王戦挑戦者決定戦進出です。永瀬拓矢王座との挑戦者決定戦第1局は12月21日に行われます。棋王戦の挑戦者決定戦は変則二番勝負で、勝者組を勝ち上がってきた永瀬王座が勝った場合は即、渡辺棋王への挑戦が決まり、第1局を郷田九段が勝った場合のみ28日に第2局が行われ、その勝者が挑戦権を獲得します。永瀬王座は第43期で渡辺棋王へ挑戦していますが、2勝3敗で惜しくも奪取はなりませんでした。また郷田九段は第38期で渡辺棋王にタイトルを奪われています。リベンジの舞台へ立つのは果たしてどちらでしょうか。

相崎修司(将棋情報局)

10年ぶりの挑戦者決定戦に駒を進めた郷田九段
10年ぶりの挑戦者決定戦に駒を進めた郷田九段