近年、ニュースなどで耳にする機会が増えた言葉「搾取」。本記事では、搾取の意味や使い方、英語表現などをわかりやすく説明します。また、問題となっている「やりがい搾取」についても解説します。
「搾取」とは?
ニュースなどで目にすることがある搾取という言葉。明確な意味を知っているでしょうか。ここでは搾取の読み方や意味を紹介します。
「搾取」の読み方
「搾取」の読み方は「さくしゅ」です。
「搾取」の意味
「搾取」の意味は簡単にいうと、文字の通り「搾り取る」ということです。
搾取とは「搾る」と「取る」の文字から成り立つ言葉です。搾るとは「強く押して締めつける。そのものに含まれた水分や液体を取り出す」といった意味があり、それに「取る」が加わり、搾取は「乳などをしぼりとる」という意味を持つ言葉になります。
また搾取には「階級社会において生産手段を持つ者が、持たない者を必要以上に労働させ、発生した余剰労働の成果を無償で取得すること」といった意味もあります。日常で使われる場合は、後者の意味をさすことが多いのではないでしょうか。
「搾取」の使い方と例文
ここでは搾取という言葉をどのようなシチュエーションで使用するのか、使い方を解説します。
「搾取」の使い方
ビジネスシーンなどで搾取という言葉が使われる場合、「労働者が本来得られるべき利益を得られずに、雇用主や権力者から利益を不当に搾り取られる」という状況で使用されます。
雇用主と労働者の関係だけではなく、親に子どもが精神的に搾取される搾取子、宗主国が植民地から搾取するなどのシチュエーションでも使用できるでしょう。どれも支配者、権力者が不当に金銭や人員、資源などを搾り取ることを意味しています。
「搾取」を使用した例文
- A社は労働者から不当な搾取を行っていたため、罰せられた
- B社の仕事を紹介したC社が賃金の大半を中間搾取していた
- あの会社は従業員のやる気を利用して、不当に長時間労働をさせる「やりがい搾取」をしている
「搾取」の類義語・言い換え表現
搾取に近い意味を持つ言葉には、以下があります。
- 取り上げる(相手の持っているものを無理に奪う)
- 吸い取る(他人の得た利益をとりあげる・しぼり取る)
- 取り立てる(強制的に取る)
- 巻き上げる(だましたり、おどしたりして奪う)
- 詐取(さしゅ)(金品をだまし取る)
- ピンハネ(人に渡すべき金品の一部を取って、自分のものにしてしまう)
「搾取」の対義語
搾取には明確に対義語だと言い切れる言葉はありません。しかし、ニュアンス的に搾取と反対の意味に近くなる言葉はいくつかあります。
- 供与(相手が求める物品や利益を与えること)
- 供給(必要に応じて、物などを与えること)
- 提供(金品や技能などを相手のために差し出すこと)
これらは使い方によっては対義語になるでしょう。
「搾取」の英語表現
搾取を英語で表現すると「exploitation」などが適しています。「搾取する」という動詞は「exploit」になります。
- This company is exploiting workers (この会社は労働者を搾取している)
「やりがい搾取」とは?
最近、「やりがい搾取」が社会問題となっています。知らぬ間に自分がやりがい搾取されているケースもあるでしょう。ここではやりがい搾取について解説していきます。
やりがい搾取とはどういう意味?
ビジネスにおいて「やりがい」とは、自分の職業や業務に対して、充実感や達成感、楽しいと思える気持ちなどを感じることです。
「やりがい搾取」とは、雇用主が労働者のやりがいを利用して不当に安い賃金や長時間労働をさせ、利益を搾取することをさします。
やりがい搾取が起きる理由
・企業側の理由
現代の日本経済は不透明で、経済成長率も停滞している状況とです。そのため企業はどのように利益を上げるかさまざまな方策を考えます。なかには「自分の夢をかなえたい」「才能や能力を活かしたい」と考える若年労働者を、安い労働力として利用する企業もあります。若年労働者に長時間労働や低賃金を強いて、人件費を浮かせようと考える悪質な企業も存在するのです。
また、需要が減少している伝統工芸の世界では、どんなに優れた技術を持った職人でも経済事情が苦しい場合があります。そういった場合、弟子に十分な報酬を与えられない状況となってしまい、弟子の伝統工芸を学びたいという気持ちを利用して、結果的にやりがい搾取を行っていることもあります。
・労働者側の理由
労働者側の仕事に対する真摯な姿勢を雇用主につけ込まれてしまう場合もあります。社長や上司の語る言葉を「一人前の大人が発する言葉」とあこがれを抱いて「自分もこんなふうになりたい」と思う若い社員もいるもの。
また、洗脳まがいの研修や、毎日考える余地もないくらいに働かせるなどして正常な判断能力を奪う場合もあります。
このような状況も「やりがい搾取」に陥る理由となるでしょう。
また、安く雇える若い社員や新人に店長、部長などの管理職につかせて、やりがい搾取する手法もあります。役職を与えられたり、幹部候補生とされたりすることで「自分は能力がある」「自分は会社の利益を生んでいる」と自己肯定感を持たせて会社に尽くさせるのです。
やりがい搾取が起きやすい業種・業界
やりがい搾取が起きやすいのは、以下のような業種・業界です。
- 飲食業(店長・管理職など)
- 福祉・介護業界
- モデル・タレント
- 保育士や塾講師など教育関係
- クリエイティブ業界
- ゲーム・アニメ・アート業界(夢やあこがれの実現につながりやすい業界)
趣味性が高く若者が夢を見て集まりやすい業界や、奉仕性が高く「私がいなければ店がまわらない」「お客さんに迷惑がかかる」と思わせるような長時間労働のサービス業もやりがい搾取が多い業界と言えます。また、成果主義で社員同士の成績を競わせるようなゲーム性の高い業種や、創業者や上司に心酔させ常識から外れた行動をとらせるような、サークル性・カルト性の高い環境でもやりがい搾取は行われます。
やりがい搾取に陥りやすい人
また、下記のような人はやりがい搾取に陥りやすい状況にあります。
・自己犠牲の精神が強い若者
「休みや収入よりも、好きなこと、やりたいことを重視する」
「誰かの役に立てる喜びを仕事に求める」
「夢を実現に強いこだわりがある」
本来であれば報われるべき人材ですが、やりがい搾取の犠牲になりがちです。
・未経験の職種に転職した人
あこがれていた業界に転職できた人は、職場や仕事に早く慣れようと頑張りすぎてしまう傾向があります。そのやる気を利用して長時間労働や処理しきれない仕事量を押し付けられるケースがあるので注意が必要です。
・育児が一段落して再就職した人
育児などが落ち着いてくると、「また社会と関わりたい」と再就職するケースは少なくありません。再就職すると「上司や同僚に頼られる」「お客さんに感謝される」など喜びから職場に対する奉仕の気持ちが強くなりすぎるケースもあるもの。
その結果、長時間労働、サービス残業などを強いられる事例もあります。
搾取されていないか振り返ってみるのも大切
搾取とは「乳牛の乳をしぼり取る」などの意味がありますが、それが転じて「権力者が労働者に対して、十分な対価を支払わない」という意味で使われるケースが多いです。近年は労働者の「やりがい」を利用して不当な低賃金で長時間労働をさせる「やりがい搾取」も問題となっています。
今回の記事で搾取について興味が出てきた方もいるかもしれません。自分が「搾取されていないか」を振り返ってみるのも大切でしょう。