岐阜県多治見市で新しいマルチモビリティサービスがスタートしました。2021年10月には14カ所(90ラック)でのシェアサイクル、そして2021年12月からは、JR多治見駅の北口・南口の2カ所(4台)でシェアEV(電気自動車)のトライアルサービスを開始。2022年1月11日からの本格サービスを予定しています。地域電力「たじみ電力」を運営するエネファントが中心となって手がける、脱炭素・地域循環の取り組みです。
太陽光発電でEVと自転車をチャージ
このシェアリングサービスのために開発されたのが、再生エネルギーを活用した次世代型の充電インフラ「E-Cube」です。長さ12フィートのコンテナの屋根に、ソーラーパネルを12枚配置(発電出力は3.84kW)。太陽光発電で生み出した再生可能エネルギーによって、EVカーやシェアサイクルを充電する仕組みです。
E-Cubeはコンテナ型であり、さらに電源に接続しない仕様なので、トラックなどに乗せて運べるのもポイント。低価格、短時間で設置でき、たとえばイベントの会場で一時的に設営することもできます。
多治見市のマルチモビリティサービスには複数の企業が関わっており、エネルギー端末の供給はパナソニック、シェアリングシステムはSBテクノロジーが担当。各社のノウハウを持ち寄ることで、脱炭素と地域循環に取り組みます。
シェアリングサービスで利用するEVカーには、トヨタ自動車の2人乗り超小型EV「C+pod」を採用。シェアの運用にはOpen Streetの提供する「HELLO CYCLING」アプリを利用し、アプリ上のバーチャルキーで利用予約や解錠を行います。アプリだけで完結するので、人と接しない非対面で利用可能です。Open Streetアプリは、シェアサイクルで4,100カ所、60以上の自治体との協業実績を持っています。
EVカーの利用料金は15分220円で、3時間2,200円といったパックも用意する予定。E-Cubeは約6時間で満充電にでき、70~80kmの走行に対応。高速道路は走れませんが、多治見市内の移動なら問題ないとしています。
エネファントの代表取締役 磯崎顕三氏は「車社会の多治見市をより便利に暮らせる街にしたい。将来的には多治見でお酒を飲んだあと、自動で帰れるようなことを目指してモビリティサービスを展開していきたい」と語ります。
ガソリン車をEVカーにコンバージョン
多治見市の脱炭素・地域循環への取り組みでは、シェアリングサービス以外にも面白い施策があります。AZAPAが主導するEVコンバージョンカーの開発と導入です。
地域社会では物流や業務のために、軽トラや軽バンといった自動車が欠かせませんが、そういった商用車はコスト面でなかなかEV化が進んでいないのが現状。そこで、名古屋市の企業、AZAPAが設計開発を行い、多治見市の自動車整備工場である米田モータースがEVコンバージョンカーの製造やメンテナンスを行うという、経済循環を構築していく予定です。
また、EVカーの値段が下がらない大きな要因のひとつがバッテリー。そこでAZAPAでは、過去にEVカーが搭載していたバッテリーを再利用してEVコンバージョンカーへ搭載することによって、低価格化と環境負荷の低減を実現します。
現段階では、ベース車両代を含めて約350万円というEVコンバージョンカーの価格ですが、うち改修コストの170万円をいずれ100万円ほどまで下げられると想定。AZAPA代表取締役社長の近藤康弘氏は「製造台数が1,000台を超えてきたとき、最終的に1台150万円くらいになれば」と試算しているそうです。
また、電動自転車やシニアカー、キックボードなどでマルチに使える可搬式バッテリーステーションも提案。さまざまなモビリティでインタフェースを共有することで、EVカーで使われてきたバッテリーの再利用価値が高められると見込んでいます。
パナソニック エレクトリックワークス 主任技師の西川弘記氏は、多治見市での取り組みに関して「国の助成金を使わずに地元企業のエネファントが主導して、それに多くの企業が賛同して動いている。多治見市の取り組みは他地域からの注目度も高く、パナソニックも単なる実証実験ではなく、事業としての手応えを感じている」と話します。
エネファントが運営するたじみ電力では、若者のクルマの維持費を大幅に低減できる「働こCAR」といった取り組みもスタートしている。これは地元企業にクルマを貸し出し、それを会社が社員に貸与するという流れ。ここでも日産のEVカー「リーフ」などを採用し、パナソニックの太陽光パネルでチャージするソーラーガレージなども提案しています。シェアリングEVカーとEVコンバージョンカー、それらを実現する仕組みづくり。脱炭素への取り組みは地域のプレイヤーから始まっています。