「どうしようもなく気持ちがざわつく」「もうつらくて心が折れそう」…ストレスからそんなメンタル状態になったことがある人は少なくないと思います。こういう時に心強い味方となるのが「コーピング」。
コーピングとはどういうものなのか、一体どんなことをすればいいのか。『セルフケアの道具箱』『コーピングのやさしい教科書』などセルフケアに関する著書も多数ある臨床心理士・伊藤絵美さんに話をうかがいました。
■「自分を助けるため」と意識して行えば、いつもの行為もコーピングに
「しんどくてたまらない」「もう心が折れそう」など、精神的に追い詰められた時のためにも覚えておいてほしいのが「コーピング」です。ストレッサー(ストレスの原因)やストレス反応が原因で苦しい状態にある自分を落ち着かせるために意図的に行う行動で、たとえば図1のようなものがあります。
ただし、気分が沈んでいる時に笑える映画で浮上できる人もいれば、泣ける映画の方がスッキリする人もいるように、どういう行動がコーピングとして効果があるかは人によって違います。図1の方法も、必ずしも万人に効果があるとは言い切れません。
普段、落ち込んだ時に何気なくしている行動を思い出し、自分のためのコーピングレパートリーを作りましょう。思いついたコーピングは紙やスマホのメモに書き出して持ち歩きます。ストレスを感じたら、実行して効果を検証。「このストレスにはこのコーピングが効く」ということがわかればスムーズにセルフケアできますし、何より「心のお守り」になります。
■コーピングは質より量! ローコストで健康的な方法を多数揃える
どのコーピングが効くかは、試してみるまでわかりません。できるだけたくさん用意して、いざという時「こっちがダメならあっち」と、どんどん試せるようにしておきましょう。「そんなに思いつかない」という人は、内容をより細かくしていくのもひとつの手です。
たとえば、「音楽を聴く」なら、アーティスト名、曲名まで細分化する。「ラーメンを食べる」なら、どの店のどのラーメンをどういうトッピングで食べるかまで落とし込む。あっという間に数を増やせると思います
実は、マインドフルネスのワークも一般的にコーピングになります。散歩、入浴、カラオケ、買い物、外食など、今まで気晴らしに行ってきた行為も、空を眺めたり、風を感じたり、動物に触れたり、自分が好きだと感じる行為も、「自分を助けるため」と意識して行えばコーピング。そもそも、コーピングを探すこと自体がコーピングです。
コーピングを増やす際に気を付けたいのが、時間やコスト、デメリットです。多くの人が思いつく「旅行」は、時間的にもコスト的にも頻繁に試みるのは難しいです。食事や飲酒も、過度になると心身にマイナスの影響を与えかねません。ローコストで時間がかからず健康的なコーピングをたくさん揃えるようにしていきましょう。
■自分を大切にするのが苦手な人は、自分の分身に愛情を注ぐ練習から
セルフケアに取り組む時に大切なのは、「自分を大事にすること」に尽きると思います。でも、中には自分を大切にすべき存在だと思えなかったり、「自分さえ我慢すればいい」と自己犠牲に走ってしまったりする人がいます。
親からの虐待や学校でのいじめなど、幼少期から思春期までの人間関係や環境により、それが思考の土台(スキーマ)になってしまっている人たちです(図2参照)。
スキーマは自分のせいではないですし、ましてや真実の姿でもありません。「自分は大切にするに値しない人間だ」「自分さえ我慢すればいい」といった自動思考は、「単なる思い込み」だと気付くことができれば、自己否定や自己犠牲の気持ちも客観視でき、徐々に変わっていけるはずです。
こうした気持ちや行動に気づいた時には、「もしかして、スキーマでは?」と、まずは立ち止まるようにしてください。
また、自分で自分を大切にする練習として、分身みたいな存在を作り、それを大事にするという方法があります。愛情を注げるのであれば、対象はペットでも、ぬいぐるみでも、観葉植物でも構いません。「大切にする」がどういうことかわかり、自分にも向けられるようになっていくと思います。