プロeスポーツ選手といえど、eスポーツ活動のみで生計を立てている専業プレイヤーは多くありません。兼業プレイヤーとして活動せざるを得ないタイトルもあるでしょう。
『ぷよぷよeスポーツ』も、そのひとつ。しかし、そんな中、『ぷよぷよ』関連の仕事だけで生計を立てることを宣言し、専業プロ選手としての活動を決めた選手がいます。
それが、ぴぽにあ選手です。元はシステムエンジニア(SE)として働き、兼業で『ぷよぷよeスポーツ』のプロ選手として活動していましたが、2020年にぷよぷよ関連の仕事のみに専念すると宣言。専業プレイヤーとして活動するための活動計画や覚悟、そのためにしなくてはならないことは何なのか、ぴぽにあ選手に聞いてきました。
専業になって得たのは、「時間」と「質の高い練習」
――まずは自己紹介をお願いします。
ぴぽにあ選手(以下、ぴぽにあ):「ぴぽにあ」という名前でeスポーツプロ選手として活動しています。プレイタイトルは『ぷよぷよeスポーツ』。2018年からJeSU公認のプロライセンスを取得し、大会やイベントなどに参加しています。また、最近では、「ぷよぷよプログラミング」の講師を務めることもあります。
――専業プレイヤーになることを決めた理由を教えてください。
ぴぽにあ:プロに専念することにしたきっかけは、兼業では選手として活動しにくいと感じたからです。SEとして働きながらプロ選手をしていたときは、仕事を終えてから練習をして、休みの日に大会に出ていたので、時間が足りませんでした。
そのうえ、『ぷよぷよeスポーツ』でもっとおもしろいことをしたいと考えるようになったのですが、そうするとさらに時間が必要です。兼業だと難しいこともあり、プロ活動一本でやってみようと決めました。
――専業への不安はありましたか?
ぴぽにあ:正直、自信はありませんでした。勝算があったわけではなく、ある種のチャレンジ。専業の話は、在職中に職場の人にも相談して、「やってみたら? もしもだめだったら戻っておいで」と、背中を押してもらえたことが、励みになりましたね。
――前の職場に戻っていないということは、うまくいっていると言えるのでしょうか。
ぴぽにあ:そうですね。ありがたいことに、収入面ではやっていけています。もちろん、今後はどうかわからないという不安はまだありますが、自分自身がやりたい活動はできているんじゃないでしょうか。
――大会の賞金が主な収入源でしょうか?
ぴぽにあ:大会の賞金だけだと正直難しいので、イベントの出演料や、プログラミング教室の講師料などを含めて収入を安定させようとしているところです。
あとは、動画配信の収入もありますが、お小遣い程度ですね。ただ、収入だけでなく、ファンを増やすことにもつながるので、個人の配信をもっと磨いていきたいと思っています。
――プロ宣言の前には「いばらき国体」文化プログラムの「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」があり、そこでの準優勝がターニングポイントになったようにも感じましたが、どうでしょうか。
ぴぽにあ:全国都道府県対抗eスポーツ選手権は、社会人になって一番勝ちたいと思った大会。「優勝を狙えるのでは?」と思っていましたけど、決勝の対戦相手が強すぎました。
ただ、自分としては「万全の状態」のつもりだったのですが、それはそのときの環境においてだったんですよね。時間があれば、もう少しやれたかもしれない。平日に仕事をしながら練習して、土日はいろんなところに行って大会やイベントに参加するとなると、やはり時間が必要で、両立が大変だと気づいたんです。自分自身の熱意を改めて実感できましたし、競技としての『ぷよぷよeスポーツ』をもっと多くの人に知ってもらいたい気持ちがより一層強くなりました。
――専業になって変わった点はどんなところでしょうか。
ぴぽにあ:何よりも今まで以上に勝ちに執着するようになりましたね。専業では、賞金を稼がないといけませんから。そのため、勝たなきゃいけないというプレッシャーはありますが、その状況をポジティブに楽しめていると思います。
また、練習の効率も上がりました。兼業時代は仕事後に練習していましたが、どうしても脳に疲労が溜まった状態で練習に臨むことになります。その点、専業では脳が元気な状態で練習できるので、効率が上がっていることを実感しています。
十分な睡眠がとれるようにもなりましたね。以前は寝る時間を削ってプレイしていましたが、専業になってからは、大会前の体調管理にも気を配れるようになりました。やるべきポイントを絞って集中して練習したら、あとは脳を休めています。実際に、結果も出せているので、いいパフォーマンスができているのではないでしょうか。
SEの経験を生かしてぷよぷよプログラミングの講師も
――プログラミング講座の講師をするきっかけはなんだったのでしょうか。
ぴぽにあ:セガが『ぷよぷよ』をプログラミング教材にした「ぷよぷよプログラミング」を展開しており、「ぷよぷよプログラミング講座」を開いています。そこでSEの経験を生かして、講師を務めさせていただいています。きっかけは、セガから声をかけていただいたことですね。
――プログラミング講座ではどのようなことを教えているのでしょうか。
ぴぽにあ:ぷよぷよプログラミング講座は、教材にあるコードを一部書き写すことが基本になっています。最初は「それっておもしろいの?」と思ったんですが、いざ、やってみると、受講している子どもたちは、みんな楽しんでやってくれるんですよね。プログラムなので、書き写したあと、実際に動かしてみるんですけど、そこでちゃんと動くとうれしいんですよ。プログラム言語などを学ぶわけではありませんが、それよりもやはり成功体験が重要なんだと実感しました。
高校生くらいになると、1行まるまる打ってもらうんですけど、これがけっこう間違えるんですよね。1文字でも間違えたらコンピューターはうまく動かないことを経験できるわけです。どこを間違えたか分からないときは、周りの友だちと話しながら考えていくので、コミュニケーションも取ってくれます。1人でじっとやっているだけだったら、さすがに辛くなりますし、グループでやるほうが解決したときの達成感も大きくなるんですよ。
――教材に『ぷよぷよ』が使われることにはどう感じましたか。
ぴぽにあ:『ぷよぷよ』はルールがシンプルで、完成形を想像しやすく、わかりやすい。コードを打ち込んで終わりではなく、ゲームという“ものづくり”の体験を味わえるのもいいところです。講義の後半ではプログラムの改造もするんですが、フィールドの大きさを変えたり、ぷよの消える個数を変えたり、落下速度を変えたり、変化が実際に目で見えるので、教材としても適していると思いますね。
『ぷよぷよ』自体を広げることもできますし、何よりゲームを通じてプログラミングに触れるきっかけになる「ぷよぷよプログラミング」に魅力を感じたため、積極的に協力させていただいています。
――選手としての今後の活動についてはいかがでしょうか。
ぴぽにあ:私が『ぷよぷよeスポーツ』を始めたのは、「RedBull 5G」というイベントを観てから。ゲームを極めている人を観て、どんなジャンルでも極めている人はカッコいいと思ったんです。
専業でプロ活動をするのは、単純に強くなりたい、大会で勝ちたいという理由だけではなく、『ぷよぷよ』の可能性を広げるためでもあります。かつて「RedBull 5G」で私が感動したように、今度は私が選手としてファンや視聴者に感動を与えて、いろんな人に『ぷよぷよ』を知ってもらいたいんです。
また、選手個人の目標としては、“本質的な強さ”を持った選手を目指していきたいですね。専業になってから、大会で何度か優勝できるようになってきてはいますが、運が良かったという部分も否めません。運の要素に頼らない本質的な強さを持った選手もいますので、そういう人たちを追い抜きたいと思っています。
あとは『ぷよぷよeスポーツ』が競技として一般的になってほしいですね。『ぷよぷよ』の競技シーンは、選手が選手としてやっていくにはまだまだ。『ぷよぷよ』自体の認知度は高いので、次はeスポーツとしての『ぷよぷよ』を知ってもらいたいと思います。
小学生プレイヤーが参加できる大会が増えており、参加プレイヤーの実力が高いのは、将来有望でうれしい限り。今後は、コーチングなども確立し、後進をより育てられる環境が整うと、さらに競技としての『ぷよぷよ』が確立されていくのではないでしょうか。
――ありがとうございました。