宇宙飛行士しか見ることができない映像の撮影に成功

リコー 吉田氏:撮影した中でそれぞれ印象深い画像・映像などはありますか?

JAXA 神田氏:「こうのとり」がISSから切り離されて地球に向かい、機影が小さくなっていく映像は感動しました。これが一番のお気に入りです。放射線の影響などで宇宙仕様THETAの撮影データを地上で確認することが一部制限されましたが、電流値モニタなどを使ってデータはすべて蓄積できたので、THETAの運用自体は問題なかったと考えています。

リコー 傳田氏:360°カメラだからこそSOLISSの観察だけでなく、地球上で起こっていることも同時に観察することができると思うのですが、 地上に送られてきた画像・映像の中には、日本列島に迫る台風も映っていて、インパクトがありました。これを見ると、防災や気象予測などにも活用できる可能性があるのではないかと思います。

JAXA 澤田氏:ISSが地球一周しながら夜明けを迎えるところですね。映画などで真っ暗な地球の反対側から太陽が昇って地球の輪郭が青く輝くシーンがありますが、それと同じ映像をVRで見られたことは印象に残っています。

リコー 傳田氏:ISSは地球を日に何度も廻るので、早いスピードで昼夜が入れ替わる特殊な映像でしたね。

JAXA 布施氏:ISSから切り離されるシーンの話がJAXAの関係者内では非常に注目を集めましたが、それは切り離しの一連の流れ(シーケンス)を実際に見ることが出来たからです。机上検討と地上管制から論理的にはわかっていることなのですが、第三者的な目線で動いているのを実際に見ることは宇宙飛行士以外にほぼありません。それを目の当たりにするのはすごいことです。

--撮影した画像・映像類はどう活用していく予定でしょうか。

JAXA 神田氏:JAXAでは筑波宇宙センターや相模原キャンパスなどにおいて年に数回、特別公開を行っています。画像はいくつかすでに公開していますが、今回は宇宙から戻ってきたカメラといっしょに展示し、ISSから「こうのとり」が分離する映像のコンテンツなどを含めて、多くの人に見ていただきたいと考えています。

リコー 傳田氏:公式サイト「RICOH THETA Lab.」にコンテンツを公開し随時アップデートしています。THETAのコンテンツは読者の反応が良いため、今後も積極的に活用していきたいと思います。

  • RICOH THETA Lab.で公開されているコンテンツの一例。マウスを動かして、宇宙の360°画像を楽しむことができる(出典: RICOH THETA Lab.)

    RICOH THETA Lab.で公開されているコンテンツの一例。マウスを動かして、宇宙の360°画像を楽しむことができる(出典: RICOH THETA Lab.)

RICOH THETA Lab.で公開されている宇宙仕様THETAで撮影した360°画像

https://ricoh-jaxa.theta360.biz/t/f6af0900-ea5c-11e9-8107-068d14261298-1?click2play=false

民間企業とタッグを組むことでJAXAのミッションの可能性が広がる

--今回の実績を踏まえて、今後の宇宙での活動の中で、THETAをどのように活用できると思いますか?また、JAXAと民間企業の関わりの今後についてもお聞かせください。

JAXA 澤田氏:民生の技術を使って短期間で成功したのは、JAXAの中でも画期的な成果のひとつです。今回の結果は、民生の技術を使って宇宙で多く活動していくための、いいモデルケースになったと思います。

JAXA 布施氏:小型で軽いTHETAの搭載実績により、余剰重量などが発生し、画像を撮るミッションを追加したい場合に、実行可能な選択肢を得たと考えています。現在、JAXAでは全固体リチウムイオン電池を宇宙で実用化するための実証実験を計画中です。電池の実験は単に充放電の繰り返しにならざるを得ないのですが、電池の負荷としてTHETAを搭載することに決めました。素早く決断できたのは、今回の成功があったおかげです。

JAXA 澤田氏:THETAを探査分野で使っていきたい。人が月へ行き、その後火星へ……という時代がくると思いますが、各ミッションではTHETAのような全天球カメラを搭載し、地上でVRを使った擬似体験ができるよう活用していければいいですね。 宇宙が身近に感じられる場所になってきたので、民間企業の若い方々には宇宙への興味を持ってチャレンジしていただければと思います。JAXAが思いつかないこと、JAXAができないこと、これらをぜひ実現していただきたい。

JAXA 神田氏:映像はインパクトが大きいと感じます。特にVRを使うと自分が宇宙へ行ったような感じになれるのは、THETAのような全天球カメラが得意とするところです。ぜひ、火星へ小惑星へと持っていき、皆さまに体験してもらって宇宙を身近なものにしていきたいと思います。

ISSで撮影された360°動画(提供: リコー)

JAXA 布施氏:感動を与えるコンテンツとして映像はポテンシャルが高いと感じています。VRコンテンツは、その場に行ったような感覚を持つことができて楽しいと思います。例えば、バーチャル月旅行のようなエンターテーメントが実現できるといいですね。コンテンツの提供や感動を与える役割を民間企業でリードしていただきたいです。宇宙関連の活動がさらに広がりを見せることを期待しています。

リコー 吉田氏:ミッションが終わったあともJAXAの方とディスカッションを重ねてきました。THETAにはまだまだ、違う使い方もあるのではないかと考えています。

リコー 傳田氏:今回の実績で、国内外を問わずさまざまな宇宙スタートアップからお声がけいただくようになりました。THETAは宇宙向けのミッションに合致しているとの期待を感じています。宇宙空間で鍛えられた技術は、地上の厳しい環境下でも求められること。JAXA探査ハブの目的でもある、宇宙利用のみならず宇宙で実証した技術を地上にも応用していくという点を私たちも評価しています。この知見を地上で応用していくのは民間企業の役割です。今後も貢献していきたいと思っています。