最後は鮮やかな捨て駒で本年最後の対局を飾る

渡辺明名人への挑戦権を争う第80期順位戦(主催、朝日新聞社・毎日新聞社)は12月2日、B級1組の藤井聡太竜王―近藤誠也七段戦が関西将棋会館で行われました。結果は114手で藤井竜王が勝ち、リーグ成績を8勝1敗としました。

■近藤七段がリードを奪う

本局は近藤七段の先手番から角換わりに進みます。流行のバランス型ではなくお互いに固め合うややクラシックな形から、駒がぶつかったのは夕方過ぎというじっくりとした展開になりました。開戦直後に打たれた▲6四角が好手で、まずは近藤七段が形勢をリードします。藤井竜王が端攻めでアヤを求めた手を逆用して、先手は玉頭の継ぎ歩で厳しく攻め立てます。藤井玉の真上に拠点の歩が突き刺さり、いかにもピンチです。

■好手順で逆転

後手は端攻めが頼みの綱です。飛車の後ろに△9一香と打って二段ロケットを設置、続いて△9六歩とあくまで端をこじ開けにいきます。すでに夜戦に入り時刻は23時を回ろうとする頃、近藤七段は▲7四歩と後手の攻め駒の桂を除去しようとしました。しかしこの手がどうだったか。先手に生じた一瞬のスキを突いて△9七歩成▲同角△7五歩と銀取りに歩を打ったのが好手順でした。対して▲7五同角は△9九飛成と先手陣を突破できますし、▲7五同銀には△9七飛成▲同桂△7五角という二枚換えでリードを奪えます。

実戦は▲7三歩成と桂を取りましたが、取れる銀を取らずにじっと△7三同角と、と金を払うのが気づきづらい手。これは次に△3七角成から先手の攻め駒を一掃する狙いがあります。この手を境に藤井竜王が抜け出しました。

■決め手の妙手

近藤七段は藤井竜王の玉頭へ必死に迫りますが、わずかに届きません。対して藤井竜王はアヤをつけていた9筋を軸に、あっという間に先手玉の寄せ形を築きます。後手玉に詰めろを掛けた▲6二飛に対する△6七桂が目の覚めるような捨て駒です。4枚もの守り駒が利いている地点に打たれた中空の桂。一見広くて堅く見える先手玉がこの一手で一気に退路を封じられ、どの駒で取っても、あるいは逃げたとしても先手玉は即詰みを逃れられません。この局面で近藤七段の投了となりました。

全勝の佐々木勇気七段が屋敷伸之九段に敗れたため、藤井竜王がトップに立ちました。また2敗で追いかけていた千田翔太七段も敗れたので、この後藤井竜王が仮に一戦黒星を喫してもまだ昇級圏内に残れる状況となりました。A級昇級へ向けてかなり優位に立ったと言えます。

2021年における藤井竜王の公式戦は、未放映のテレビ棋戦を除くと本局が最後となります。年明けには渡辺明王将との王将戦七番勝負も始まりますが、新年も若き王者の戦いぶりに期待しましょう。

相崎修司(将棋情報局)

2021年最後の対局を勝利で飾った藤井竜王(提供:日本将棋連盟)
2021年最後の対局を勝利で飾った藤井竜王(提供:日本将棋連盟)