DARTミッションのこれから
DARTは日本時間11月24日15時21分(米東部標準時1時21分)、スペースXのファルコン9ロケットに搭載され、カリフォルニア州のヴァンデンバーグ宇宙軍基地から打ち上げられた。
打ち上げは成功し、所定の軌道に投入。その後、通信の確立や、太陽電池パドルの展開にも成功している。
DARTはこのあと、イオン・エンジンに点火。ディディモスへ向けて航行を開始する。約10か月後の2022年9月中旬ごろにはディディモスに接近。衝突の10日前にLICIACubeを分離する。
そして9月26日から10月1日の間のどこかのタイミングで、約6km/sのスピードでディモルフォスに体当たりする。LICIACubeはその様子を観測する。
科学者たちはその後、地球上の望遠鏡を使って、ディモルフォスの軌道の変化を測定。その結果は、コンピューター・モデルの検証と改善につなげ、そして宇宙機を衝突させて小惑星の軌道を変える技術の有効性を評価することに用いられる。
NASAのビル・ネルソン長官は「DARTは、万が一、地球に衝突する危険な小惑星が発見された場合に、その小惑星から地球を守るためのひとつの方法を実証することを目的としています。これまで“サイエンス・フィクション”な映画や小説で描かれてきたことを、“サイエンス・ファクト”に変えるものなのです」と語る。
また、NASAでプラネタリー・ディフェンスを担当するリンドリー・ジョンソン(Lindley Johnson)氏は「いま現在、地球に衝突するような小惑星は発見されていませんが、その可能性に備え、危険な小惑星がないかどうかを探し続けています。私たちの目標は、そうした小惑星を、地球に衝突する数年から数十年前に検出できるようにし、そしてDARTのような技術を使って、その軌道をそらすことができるかどうかを実証することです」と語る。
5年後にはESAの「ヘーラー」も探査
ディディモスをターゲットとしたプラネタリー・ディフェンスへの取り組みは、DARTだけではない。
DARTがディモルフォスに体当たりした5年後の2027年には、欧州宇宙機関(ESA)の探査機「ヘーラー(Hera)」がディディモスとディモルフォスにランデヴーする。
ヘーラーとは、ギリシア神話に登場する最高位の女神の名前に由来する。
ヘーラーは体当たりはせず、ディディモスとディモルフォスを近くから観測し、DARTの衝突による軌道や自転の変化や、DARTの衝突によって造られるクレーターの形や大きさなどを詳しく調べる。さらに、ディディモスとディモルフォスの物性や物質を半年かけて詳細に観測する。
また、ヘーラーには「ミラニ(Milani)」と「ユヴェントス(Juventas)」という2機のキューブサットも搭載。小惑星に到着する際に分離され、ミラニは小惑星の表面を分光観測し、ユヴェントスは小惑星内のレーダー探査を行うことを目指している。
現時点で、ヘーラーの打ち上げは2024年に計画されている。
DARTとヘーラーは、合わせて「AIDA (Asteroid Impact & Deflection Assessment)」とも呼ばれており、2つをセットとした計画として扱われている。またヘーラーには宇宙航空研究開発機構(JAXA)も参加。小惑星探査機「はやぶさ2」で実績のある熱赤外カメラを提供し、さらに衝突現象の科学や小惑星の地質学、ダイナミクス、熱物性などの科学の研究でも貢献することになっている。
NASAはまた、DARTと並行して、「NEOサーヴェイヤー(Near-Earth Object Surveyor)」というミッションの準備も進めている。
NEOサーヴェイヤーは赤外線で宇宙を観測する宇宙望遠鏡で、地球の軌道の約4800万km以内にまで入り込んでくるNEOを発見し、その特徴を明らかにする、侵入者検知器のような役割を果たすことを目的としている。
現在NASAは、2009年に打ち上げた赤外線天文衛星「WISE」を転用し、「NEOWISE」と呼ばれる名前で、地球近傍天体の観測を行っており、NEOサーヴェイヤーはその後継機となる。
現時点で、NEOサーヴェイヤーの打ち上げは2020年代の後半に予定されている。
米国、欧州、そして日本の連携によって、史上初となる本格的なプラネタリー・ディフェンス・ミッションが始まった。それは、いつか人類が小惑星の衝突による地球滅亡の危機に直面したとき、それを防ぐことができるのかを占う、大いなる挑戦となろう。
参考文献
・NASA, SpaceX Launch DART: First Test Mission to Defend Planet Earth | NASA
・DART
・Planetary Defense Coordination Office (PDCO)
・ESA - Hera
・NEO Surveyor | Near-Earth Object Surveyor Mission | NEOS