コロナ禍を経て、コミュニケーションのあり方が大きく変わろうとしている。さまざまなソリューションが登場する中、これらをどのように使い、どういったマインドで運用すべきなのか。IT全盛の時代に求められるコミュニケーションについて、有識者に伺っていきたい。

今回は、Sansanで取締役/CHRO(Chief Human Resources Officer)/人事部 部長として活躍する、大間祐太氏に話を伺った。「出会いからイノベーションを生み出す」ことをミッションとして掲げる同社において人事を担当している大間氏は、コロナ禍での変化をどう捉えているのか。また自社の人材をどのようにして採用し、育てているのだろうか。

  • 取締役/CHRO(Chief Human Resources Officer)/人事部 部長 大間祐太氏

コロナ禍で増えたテキストコミュニケーションの課題とは

IT技術の発展、そして新型コロナウイルスの流行によって人と人とが直接対面する機会は減少し、インターネット越しにやりとりを行う機会はビジネスシーンでも増えている。昨今、再び対面の機会は増えてきたものの、テレワークの普及によって、場所や時間軸に関係なくコミュニケーションが取れるようになったのは社会的に見て大きなメリットといえるだろう。

こういった状況の中、Sansanの大間氏はコロナ禍におけるコミュニケーションの変化をどう捉えているのだろうか。

「対面コミュニケーションが減り、仕事の場でもチャットツールなどテキストでのやり取りが増えたのではないでしょうか。ですが、テキストでは伝わらないものも多い。シビアな話をテキストコミュニケーションだけで終わらせてしまうことで、そこで認識の齟齬が生まれたり、信頼関係が崩れたりする恐れもあります」

コロナ禍を受けた緊急事態宣言が断続的に続き、すでに1年半以上経過している。新入社員の中には、入社からいままでほぼリモートワークで他の社員と直接顔を合わせたことがない、という方も少なくないはずだ。

「信頼関係が積み上がっているからこそテキストコミュニケーションで通用していたものが、積み上がってないままテキストに移行している状況が生まれています。実際、世の中でも休職が増える傾向にあるようですが、対面からテキストコミュニケーションが中心になったことで孤独感を感じてしまうこともその要因のひとつではないでしょうか」

「どうありたいか」意思と意図を持って決めてもらう

大間氏は、元々キャリア系の採用コンサルタントとして創業したばかりのSansanと関わっていたが、2010年に同社へ入社、営業部門のマネジャーを経て2016年から人事領域を担当している。Sansanの人事戦略を指揮する同氏は、どのような採用基準で判断しているのだろうか。

「Sansanのミッション・ビジョンに共感してもらうことも大切ですが、採用に当たっては『どういう意思と意図をもって、これまで判断してきたのか』を重視しています。採用に応募した方がこれからどうなりたくて、何を実現したいのか。そして人生をどう歩んできて、どうしてSansanを選んだか。これが重要です。やりたいことがSansanで実現できるのか、Sansanと自身が目指す姿が重なっているのか。採用時では、自分の意思と意図を持って決めてもらうコミュニケーションを心がけていますね」

具体的には、「最終的にどうなりたいか」と直接的に質問したり、人生の分岐点を伺ったうえで「どうやって決断したか」を聞いたりするそうだ。その原点は、Sansanが目指したい姿に向かって常に走り続けてきたことにあるという。

「Sansanは、『出会いの在り方にイノベーションを起こしたい』『ビジネスインフラになるんだ』ということを常に言ってきた会社です。『すごい名刺管理サービスを生み出す』がミッションだったとしたら、Sansanは現在の形になっていません」と前置きし、話を続ける。

「僕は営業を5年間やってきましたが、名刺管理ツールの営業をしていたわけではありません。Sansanが目指す世界観に共感をしてもらうことを軸に営業してきました。 共感してくださるお客さまが少しずつ増えていく中で、『Sansanは名刺管理をするためのプロダクトではなく、"出会いたい人が出会いたい人に出会うためのプラットフォーム"を作ろうとしているんだな』と認識してくれる方も増えました。会社として、プロダクトとしてどうありたいか、これが重要なのです」

コミュニケーション不足をリカバーするには

人事部の部長という立場にある大間氏は、社員同士のコミュニケーションについて考える機会も多いはずだ。今、コミュニケーションの方法に悩むビジネスパーソンに向けた心構えを伺った。

「”コロナ禍でコミュニケーションが減ったこと”と”そのコミュニケーション不足をリカバーすること”、このふたつは意識しておきたいことです。これを意識することで行動が変わるでしょうし、ネクストアクションも出てくるでしょう」

では、そのようなコミュニケーション不足に対し、組織はどのような対策を行うべきなのだろうか。

「組織としては、自然発生的にコミュニケーションが起こる仕組みやツールを準備することがとても重要です。例えばSansanでは、雑談が自然発生的に生まれるような仕掛けとして『見つカッチ』という社内制度があります。ちょっとした感謝や見えにくい貢献に対して、称賛のメッセージと少額のインセンティブを社員同士で送り合うというものです。コミュニケーションツールとして社員の多くが利用しており、これがきっかけとなってオンライン飲み会が発生するなど、社員同士の繋がりが強くなっています」

  • 「見つカッチ」のイメージ

また、前編で紹介された全社会議のように、課題を見つけて社内で議論していくこともコミュニケーションを増やすきっかけになるという。

「社内コミュニケーションの発生源となるのは、管理職です。『コミュニケーションが不足する中で、メンバーとどのように信頼関係を構築していくか』という課題は多くの企業の管理職が持っているでしょう。Sansanでも同様の課題がありますが、社内コーチを人事部に置き、マネジャー同士で課題を出し合いディスカッションする場を設けました」

他にも社内向けに「SansanTV」という3分程度の動画を配信しており、このコンテンツをきっかけに会話が発生することもあるそうだ。

コミュニケーションの成功と失敗を積み重ねよう

ビジネスが人と人とのやりとりである以上、コミュニケーションの形は変われども、その重要性は何ら変わらない。コミュニケーション能力を向上させたいという思いは、ほとんどのビジネスパーソンが持っているはずだ。ここからは、若手やキャリアアップを目指すビジネスパーソンに向けて、ビジネスコミュニケーションのヒントを伺いたい。

「ビジネスにおいては、自身で描いたシナリオを意図する方向に進めていく手段としてコミュニケーションがあると思います。コミュニケーション能力の高い・低いは、意図したとおりに相手を動かせるかどうかではないでしょうか。ですので、商談や面接においてはコミュニケーションの前に『相手にどう感じてもらいたいのか』を自分に問うて、ゴールを設定することが重要です。それを意識するだけでビジネスコミュニケーションの取り方は変わると思います」

それでも意図が伝わらないことは必ずある。そんなときは失敗したコミュニケーションを振り返って、何かを得ようとすることが大事だと大間氏は伝える。

「成功体験と失敗体験を繰り返し、積み重ねていく。結局はこれがコミュニケーション能力を高めていくもっとも確実な方法ではないかと思います」