ふだん何気なく使っている箸ですが、正しい持ち方ではなかったり、振り上げ箸(会話しながら箸を動かすこと)や指し箸(箸で人を指すこと)を目にしたりすると、気になってしまう人も多いでしょう。「自分は大丈夫かな?」と心配になる人もいるかもしれません。日常的な動作なので、無意識のうちに誤ったしぐさを身につけている可能性もあるでしょう。
箸使いの美しい人は、それだけで同席する人に好印象を与えます。本記事では正しい箸の使い方やタブーとされる持ち方などを紹介します。これを機に自分の箸使いをあらためてチェックしてみてはいかがでしょうか。
箸マナーとは
日本の食文化は箸と深いかかわりを持っています。まずは箸と箸マナーの歴史を簡単に見ておきましょう。
箸の歴史
日本で箸が使われるようになったのは弥生時代~飛鳥時代で、当初は「神器」として使われていたといわれています。「神様に対して手づかみで食べ物をお供えするのは失礼」ということで箸が使われていたようです。
箸を食事に使うようになったのは、小野妹子で有名な遣隋使の一行が持ち込んで以降。初めのうちは貴族や役人たちのあいだで使われ、奈良時代の終わりごろには庶民にも広く普及したようです。箸が使われ始めた当初は、それまで主に使われていた匙と箸の両方が使われていたものの、次第に匙は使われなくなっていったといいます。
箸マナーはいつ誕生した?
食事の作法は室町時代にはすでに誕生していたとされています。江戸時代に有職故実(公家や武家の典礼などをまとめたもの)として出版された『貞丈雑記』では、箸の使い方を含めた食事作法が書かれており、今日の食事作法として受け継がれているものもあります。
箸の正しい使い方
日本の食事は箸を持つところから始まります。まずは箸を取り上げ、正しく持つところから学んでいきましょう。
箸の取り上げ方
箸の持ち方は気をつけているものの、取り上げ方までは気にしていないという人もいるかもしれません。箸は取り上げる際は「三手」と呼ばれる手順を踏みます。ここでは右利きの場合の手順を紹介します。
(1) 右手の親指と人差し指、中指で、箸を上から持ち上げる
(2) 左手を箸の下に添えて支える
(3) 左手を支えに、右手を滑らせながら箸の下側に動かして持ち替え、左手を離す
箸を置くときは、上記の手順を逆から行います。
箸の持ち方
箸のマナーの基本ともいえる持ち方をあらためて確認しておきましょう。
(1) 鉛筆を持つ要領で、まずは1本持ってみる
(2) 次にもう1本の箸を、親指と人差し指の輪の中に下から通す
上側の箸を、中指と人差し指で上下に動かすことができればOKです。2本の箸のうち、動かすのは上側の1本だけです。
タブーとされる箸マナー
箸の間違った持ち方や使い方を学んで、知らずにマナー違反をしていないか確認しておきましょう。
持ち方のタブー
目白大学が行った調査によると、30代から50代の人でも箸を正しく持てるのは3割程度であったとし、正しく持てる人の割合は年々減っているといいます。
まずは、持ち方が間違っていると指摘されてしまう代表的な例を3つ挙げます。
(1) クロス箸
箸が中央で交差する持ち方です。中指を入れるパターンや、入れずに人差し指だけで動かすパターンなどいくつかありますが、いずれも箸がクロスしてしまうのが特徴です。安定感が悪く、小さなものがつまみにくいという点でもおすすめできません。
(2) 薬指支え箸
箸の間に薬指が入り、中指と薬指で箸を動かす持ち方です。人差し指を使わないので、人差し指が上を向いてしまう人もいます。下の箸を支えているのが小指だけなので安定せず、うまく動かせません。
(3) 握り箸
2本の箸を握りしめる持ち方です。箸をうまく開くことができず、これでは食べ物を刺したり、かきこんだりするしかありません。
自分のいつもの持ち方が、上記に当てはまっていないか確認してみましょう。
代表的な「嫌い箸」一覧
古くから間違った箸の使い方は「嫌い箸」「忌み箸」などと呼ばれてきました。数多くある中から、代表的な15の「嫌い箸」を紹介します。
嫌い箸の名称 | 持ち方と「嫌い箸」とされる理由 |
移り箸 | 取りかけてから他の料理に箸を移すこと |
拝み箸 | 両手で箸をはさみ、拝む動作のこと |
空(そら)箸 | 箸をいったんつけて、そのまま戻すこと |
逆さ箸 | 大皿料理を取るときに、自分の箸の上下を持ち替え、反対にすること |
刺し箸 | 料理に箸を突き刺して食べること |
直箸(じかばし) | 大皿料理を取る時に、取り箸を使わず自分の箸を使うこと |
立て箸 | ご飯の上に箸を突き立てること ※「仏箸」ともいわれ、死者の枕元に供える枕ご飯にのみ許される箸使い |
ちぎり箸 | 箸を両手に1本ずつ持って料理をちぎること |
涙箸 | 箸先からしずくをたらしながら食べること |
ねぶり箸 | 「ねぶる」とは「なめる」ことを指し、箸についたものを口でなめて取ること |
箸渡し | 2人が箸と箸で食べ物のやりとりをすること ※火葬場でのお骨拾いの動作を連想させることから、縁起が悪いとされている |
迷い箸 | お皿の上で迷いながら箸を動かすこと |
持ち箸 | 箸を持ったまま、同じ手で器を持つこと |
寄せ箸 | 食器を箸で手前に引き寄せること |
渡し箸 | 食事の途中で食器の上に箸を渡して置くこと ※「もういりません」という意味になる |
箸マナーのクイズに挑戦
以下の3枚の画像は、どの「嫌い箸」に相当するでしょうか?
解答は(1)が「持ち箸」(2)が「逆さ箸」(3)が「渡し箸」です。
「持ち箸」や「渡し箸」は、ついやってしまいそうな箸使いです。また大皿料理から取る場合に、「直箸」を避けて「逆さ箸」で取り分けた経験がある人もいるのではないでしょうか? 大皿料理では取り分け用の箸を用意するのがマナーです。
外国の箸マナー
日本と同じく箸文化である中国や韓国の箸の使い方を紹介します。あわせて外国人と食事をするときに使える、箸マナーを説明する簡単な英語表現も紹介します。
中国の箸マナー
中国の箸は象牙や木製、竹製が多く、日本の箸に比べて長く、重くなっています。日本の箸とは違い、先端部分が細くなっていません。
箸を置くとき、日本では横向きに置きますが、中国は縦向きに置きます。日本のように家族の中で「自分の箸」を一人ひとり別にするという習慣もありません。
また、食器はテーブルに置いたままで、スープ類を飲むときはれんげを使います。
韓国の箸マナー
韓国では、銀やステンレスのような金属製の箸が使われています。中国のものより小型で、平たくなっているのが特徴です。
箸を置くときは、韓国も中国と同じく縦向きに置きます。家族の中で「自分の箸」を区別する習慣もありません。
食器はテーブルに置いたままで、スープ類を飲むときはスプーンを使います。
箸マナーを英語で説明しよう
近年では中国料理や日本料理の海外進出によって、箸を使わない文化圏でも箸を使って食事をする人が増えてきました。外国人に日本の箸マナーを押し付ける必要はありません。でも、もし相手からマナーを教えてほしいと言われたら、まずは代表的な立て箸を英語で説明してみてはいかがでしょうか。
【例】
「日本では、ご飯に箸を突きたてることは『立て箸』といってタブーとされています。それは、死者の枕元にご飯をお供えする時のやり方だからです」
”In Japan, sticking chopsticks into rice is called "Tatebashi" and is considered taboo. It is because that is the way to offer rice to the dead person's bedside.
”
箸マナーを学んで好印象を与えよう
同じ箸文化を持つ国はありますが、自分専用の箸を持つのは日本ならではの文化です。それだけ日本人にとって箸は大切なものだといえます。
昔と比べて他人に注意される機会も減り、昨今ではマナーの押し付けだと批判的な声も聞かれます。それでも美しい持ち方をしていると、それだけで好印象を与えることができるものです。特に目上の人と食事する機会が多い人は覚えておいて損はないでしょう。
小さいころからの習慣だとなかなか気づきにくいかもしれませんが、この機会に自分の箸の持ち方は大丈夫か確かめてみてはいかがでしょうか。