「キャンプに葉巻を持って行ったり、在宅の時間を使って手巻きたばこを楽しんだり。最近の喫煙者の方はシーンによって多種多様なたばこを楽しまれている傾向にあります」
そう語るのは今年7月に高級たばこ「ソブラニー」を9年ぶりに国内で再販させた、JTの子会社「日本たばこアイメックス」の担当者。
同社は葉巻やパイプ、手巻きたばこなど“特殊たばこ”と呼ばれる領域を中心に多数の商材を展開し、取り扱う種類としては150近いたばこ製品を誇る。
長年たばこを嗜んできたシニア層のユーザーばかりかと思いきや、昨今のアウトドアブームなどの影響で、幅広い層から注目されているという。今回は特殊たばこ初心者に向けて、葉巻やパイプといったカテゴリごとの特徴や奥深い魅力を紹介していく。
紙巻ユーザーにも人気の特殊たばこ「手巻きたばこ」と「リトルシガー」
「アイメックス」の商品カテゴリのなかでも、一般的な紙巻たばこの喫煙者と親和性の高い製品が「手巻たばこ」と「リトルシガー」だ。
「特に需要が大きく伸びているのが、ローラーや手で巻いて楽しめる手巻たばこです。自分の手でつくる楽しさ、ホビー性の高さが何よりの魅力で、葉っぱの種類によって葉の量や太さも調整できます。たばこ本来の味わいを楽しみやすく、1本あたりの単価は20円弱とコストパフォーマンスも優れています」
フィルター、巻紙、フレーバーを自由に組み合わせられるカスタマイズ要素の高さは、オタク心をくすぐる手巻たばこならではのポイント。慣れるとローラーを使って一本20秒ほどで巻けるようになるそうだ。
一方、今年10月の定価改定まで優遇税制が適用され、通常の紙巻たばこと比べて価格の優位性があった「リトルシガー」も、多くの喫煙者に愉しまれるたばこ製品だ。
「10月以降、大幅値上げすることになってしまったことで、ユーザーが少し離れてしまった状況もあります。しかし、フレーバーが豊富でほかにはない味わいがあり、現在も愛好者が多く存在します」
世界的にマニアが多い「葉巻」と「パイプ」
特殊たばこの中でもひと際高い認知度があるのが「葉巻」だろう。葉巻は職人のハンドメイドにつくる「プレミアムシガー」と、マシンでつくられた「ドライシガー」の大きく2種類に分けられる。
「職人さんが手づくりしたハイエンドな葉巻「プレミアムシガー」に対し、「ドライシガー」はより気軽に吸える葉巻カテゴリ。紙巻きたばこと同様、火をつけて吸うだけで愉しめます。様々なフレーバーの商品があるので、はじめての人もおすすめです」
タールやニコチンが強いため、煙は肺に入れず口の中に吸い込む口腔喫煙のスタイルで愉しむたばこ製品である。
一方、プレミアムシガーは長さや燃えのスピードは違うが、1本あたりの喫煙時間は多くの場合30分~1時間ほど。しかし、中には15分ほどで吸い終わる葉巻もある。
「15分というのはオペラや劇の幕間である“アントラクト”に合わせた時間で、劇場のシガールームに集まり、後半の劇の展開など話しながら嗜むための葉巻として生まれた背景があります。日本ではたばこ事業法で定価が決まっていますが、海外ではワインなどのビンテージの世界と一緒で、年代や産地により葉巻の価格が上下します。何年の何番の畑のこのサイズ、といったところまで指定して葉巻を爆買いする海外セレブもいますね」
葉巻と同じく「パイプ」もお金持ちが嗜んでいるイメージがあるが、実はコスパが最も優れたたばこだという。
「パイプの葉はだいたい50 g単位で販売され、上級者になると1詰め約2gで1時間ほど吸えます。紙巻よりずっと安上がりですが、お金持ちのイメージが強いのは、おそらく喫煙時間の関係です。ヨーロッパはアフタヌーンティーやシエスタなどの時間に、パイプや葉巻を燻らせるんですが、日本人の日常生活にはマッチしにくい側面も正直あります」
「ロングスモーキング」という世界中からパイプ愛好者が集まり、いかに長時間パイプを吸えるかを競う大会まであるらしく、世界記録は3時間を超えるとか。
「『ロングスモーキング』は完全にホビーの世界ですね(笑)。長くおいしく吸うための方法はいろいろありますが、基本は葉を詰めて火をつければいいだけ。パイプの形状もさまざまですが、基本は好みです」
J・R・R・トールキンの肖像写真やゴッホの自画像のパイプの印象が個人的には強いが、長時間のデスクワークでは顎に沿うように曲がったパイプや、自立するパイプのほうが疲れにくくて、おすすめとのこと。
「パイプはメンテナンスすれば孫の代まで何百年と保つ道具なので、世界中にコレクターがいます。値段はピンキリで、中には数百万円のパイプもあります。もっとも味は変わらないので、美味しいワインを紙コップで飲むかワイングラスで飲むかという話です。ワイングラスにもこだわりたい人がハマっていく“沼”と考えていただければ……」
喫煙文化から垣間見える日欧の休息スタイルの違い
ヨーロッパではたばこの一服の基本単位が1時間ほどなのに対し、30秒ほどで吸い終わるのが日本の「刻みたばこ」だ。
「火皿が非常に小さいキセルは1詰めで3服ぐらい吸っておしまいです。刻みたばこは手巻たばこよりも細い0.3ミリ以下。それぞれ葉の刻み方・太さに基準があるんですが、この細さは世界でも日本だけですね。商品によっては、髪の毛よりも細いく刻みのものもあり、こうした裁断が可能なのは日本刀の技術が背景にあるとされています」
現代の喫煙所でも5分ほどたばこ休憩をして、足早に仕事へ戻る会社員たちの姿がそこかしこで見られるが、そもそも一服の単位が日本人は昔から短いという。
“ながら吸い”が多いのも日本人の喫煙の特徴らしく、喫煙できる場所が激減したなか、ニーズが高まっているのが嗅ぎタバコの一種である「スヌース」だ。
「もともとスヌースは北欧の文化で、紙巻たばこを屋外で吸うと寒さで凍ってくっついてしまうために広まったスタイルですが、周囲に迷惑かけず楽しめるため日本人や時代にもマッチした商品です。移動中や会議中でも楽しめる唯一のタバコで、接客業の方などにもおすすめです」
「アイメックス」の特殊たばこは、いずれもボリュームとしては小さく、なかには月数本しか売れないプレミアムシガーもあるそうだが、マスマーケティングに向けた商品とは一線を画するニッチな魅力がある。
「最初の敷居は高く感じるかもしれませんが、たばこ専門店で相談すれば、きっと丁寧に教えてもらえるはずです。『パイプはまだ早い』といった声もよく聞きますが、実は若い方のほうが繊細な味の違いはわかる。お気に入りの音楽と飲み物を用意して、1時間だけ煙を燻らせる贅沢な時間を楽しんでもらいたいですね」