2009年に放送された『仮面ライダーディケイド』は、『仮面ライダークウガ』(2000年)を第1作とする「平成仮面ライダー」シリーズの10作目を記念し、それまでにない異色の雰囲気を備えた作品となった。
『ディケイド』では第1作『仮面ライダークウガ』から第9作『仮面ライダーキバ』(2008年)までを今一度見つめ直し、それぞれの作品、それぞれの仮面ライダーの魅力をもう一度子どもたちにアピールする使命が与えられた。世界観も人物設定もバラバラな9つの「仮面ライダーの世界」を仮面ライダーディケイド/門矢士(かどや・つかさ)と仲間たちがめぐり、世界の危機を救うというのが『ディケイド』の大まかな展開である。
「クウガの世界」では戦闘種族グロンギの脅威から人々の笑顔を守る小野寺ユウスケ(演:村井良大)の激闘、「キバの世界」では人間とファンガイアの共存問題、「龍騎の世界」では仮面ライダー同士の戦いによって判決を決める仮面ライダー裁判制度、「ブレイドの世界」では大企業に属する仮面ライダー同士の出世争い、「ファイズの世界」ではスマートブレイン高校内に出没するオルフェノク事件、「アギトの世界」ではクウガの世界と似て異なる警察組織でのアンノウンとの戦い、「電王の世界」では時間の歪みを正すためのイマジン捜索、「カブトの世界」では宇宙生命体ワームを撲滅するため組織されたZECTの活動、「響鬼の世界」では3流派に分かれる音撃道門下の争い……と、士はそれぞれの世界で勃発する複雑な事件に関わりあう「通りすがりの仮面ライダー」となり、同時にそれぞれの仮面ライダーと心を通わせ、力を合わせて世界を破滅から救っている。
それぞれの世界のライダーは「リ・イマジネーション」として、異なる俳優によってキャラクターが演じられる場合があり、オリジナルとは一味違う楽しさを備えていた。また、9つの世界の旅が終わったあとも、「ネガの世界」「ディエンドの世界」「シンケンジャーの世界」「RXの世界」「BLACKの世界」「アマゾンの世界」など、スーパー戦隊シリーズや昭和仮面ライダーの世界にも足を延ばすなど、全31話と従来よりも短い放送期間ながら、予測不可能で盛りだくさんな展開で好評を博した。
ここでは『仮面ライダーディケイド』で、いくつもある「ライダーの世界」を旅してきた主人公・門矢士役の井上正大にインタビューを敢行。『ディケイド』で初めて門矢士を演じたときの思い出や、テレビシリーズが終わった後でもなお「仮面ライダー」シリーズに影響を与える士の強烈な存在感について、そして誕生から50年の時を経てなお熱烈なファンが存在する「仮面ライダー」の永遠に変わらぬ魅力を語ってもらった。
――改めて、井上さんが『仮面ライダーディケイド』門矢士役をつかむまでの経緯を教えていただけますか。
オーディションで選んでいただいたんですけれど、『仮面ライダーキバ』が始まったころは、まだ芸能活動もしていなくて、家で日曜の朝ふつうにテレビで観ていたんですよ。「へえ、今の仮面ライダーってこんな感じなんだ……」と思っていたら、いつの間にか自分が次のライダーになっていたという感じでした。渋谷で声をかけられて事務所に入り、俳優の仕事を始め、あるとき「明日はオーディションがあるからね」と言われて、行ったところが「仮面ライダー」で……気づけばディケイド/門矢士役が決まっていました。
――芸能界入りから仮面ライダーへの道のりがあまりにもスムーズで、何か運命を感じさせます。
まったく、あれよあれよという感じではありましたけれど、『ディケイド』出演に至るまでの記憶は今でも濃く残っています。
――第1話の撮影に入った時点から、井上さんは門矢士のような性格だったのですか。
そんなわけないじゃないですか(笑)。それだとかなりヤバイ奴で、現場でも浮いてしまいますよ。たとえ僕が本当に門矢士みたいな性格だったとしても、言えないです(笑)。まあ、プロデューサーの方々が僕の中にある「門矢士的要素」を見つけてくださったんじゃないかと思っています。今でこそ、士という人物に愛着がわいていますけれど、オーディションのとき、僕のどういう部分を見てもらえて合格をいただいたのか……こんな重大なポジション(主役)に僕を置こうと思ってもらえたのか、いまだに謎です。理由を聞かされたことがありませんからね。
――俳優として新人の状態で主演を務めたわけですから、初めのころは不安があったりしましたか。
ありました……って答えなきゃいけない空気ですね。そういうパターンじゃないですか(笑)。でも、単純に「楽しかった」という思いで撮影をこなしていた印象しかないんですよね。
――第1話から最終回(第31話)まで、門矢士は作品の中で経験や成長を重ねていくのではなく、常に超然としていて、むしろ成長するのは士と出会ったそれぞれの「ライダーの世界」のライダーたちでした。やはりディケイド/士というのはかなり毛色の変わった仮面ライダーでしたね。
こんな個性の強い作品で主役を演じさせていただいたのは、とてもうれしいことだと思っています。士は「ライダーの世界」をいくつもめぐっていましたが、どの世界でも少し浮いている「異分子」なんですね。常に完全無敵、超絶最強というキャラが、どこに行ってもまったくブレていない。ことあるごとに、敵に向かって「説教」をしていました。あるとき子ども向けの本で門矢士の解説文を読んだんですけど「人の言うことをよく聞かない、変なヤツだ」なんて書かれていた、あの衝撃は今でも忘れられないです。はっきりと「変なヤツ」って(笑)。門矢士は「変なヤツ」が公式の見解なのかって思いましたからね。
――『ディケイド』はテレビ放送が終わった後でも、映画や他の『仮面ライダー』テレビシリーズにゲストで登場する機会が多いですよね。いくつもの世界を旅する士ですから、前置き無しにいきなり現れて、その場の空気を一変させるとか、おいしいところを全部持っていくとか、まったくブレない態度を貫いています。
最初のころ『ディケイド』は他の作品よりも放送話数が少なくなるという話を聞きました。それで「ああ、僕は他のライダーみたいに1年間やれないんだな」と思っていたのですが、その後にもどんどん登場して、気が付けば誰よりも長くライダーを演じ続けていますね。
もう、人生の半分くらい『ディケイド』にお世話になっている感じ。まさかこんなに長くライダーをやっているとは、と驚いています。『仮面ライダージオウ』(2018年)に出たときも、EP13~16の4話ぶんだけだと聞いていたのに、最後のほうではほとんどレギュラーみたいな出方をして……。驚いたのは、ジオウのカードさえあればディケイドがジオウに変身できるのかってこと。さすがに自由すぎないかと思いました(笑)。
――映画や他のテレビシリーズにディケイド/門矢士として登場されるとき、どんな思いで士を演じられているのですか。
毎回、これで「終わり」だという思いで取り組んでいます。『ディケイド』最終回の段階で、ついに終わったかと思っていたら、次に映画があると。映画をやって、終わったと思ったら、『仮面ライダーウィザード』(2012年)の第52、53話とか、『仮面ライダー大戦』(2014年)とか、再登場の声がかかるたびに「これで門矢士は最後だ」と腹をくくって挑んでいます。配信ドラマの『RIDER TIME 仮面ライダージオウ vs ディケイド ~7人のジオウ!~』(2021年)に出たときは、いよいよ士の長い旅が「終わる」みたいな描写があったので、これでもう映像作品の中で士の役目が完全に終わったのかな、と自分では思っているんです。