ASUSの「Vivobook Pro 14 OLED M3401A」(以下、Vivobook Pro 14)は、14型ディスプレイを搭載したクラムシェルスタイルのノートPCだ。ASUSでは、Vivobook Pro 14と同じ11月14日に主要ノートPCラインアップ「ASUS Zenbook」「ASUS Vivobook」「ProArt Studiobook」で新製品を投入しており、いずれもディスプレイに有機ELパネルを採用したことを重要なポイントとして訴求している。

ASUSのノートPCラインアップでは、既に「ASUS Zenbook 13 OLED」「ASUS Zenbook Flip S」などで複数の製品が有機ELディスプレイを搭載済み。価格性能比を重視するVivobookラインアップでも、10月に「Vivobook 15 OLED K513EA」が登場している。その上位クラスとして今回新たに登場したVivobook Pro、そしてさらにその上位となるVivobook Pro Xで有機ELモデルが登場したことになる。

  • Vivobookの“ミドルハイエンド”で14型有機ELディスプレイを採用したASUS「Vivobook Pro 14」

このように有機ELディスプレイ搭載モデルに注力する理由として、ASUSはインターネット視聴時間の増加と、ディスプレイなどの画面を見つめる時間の長時間化を挙げている。コンテンツ利用におけるディスプレイの依存度が高まるにつれて、表示発色や解像度の質が高い有機ELディスプレイを搭載するノートPCがユーザーに選ばれていくという。

  • 有機ELらしい明瞭でくっきりとした発色のディスプレイ。解像度は2,880×1,800ドットで横縦比は16:10だ

その有機ELディスプレイのアドバンテージとして、ASUSはブルーライト軽減、低輝度における色域の広さなどもアピールする。色域はDCI-P3 100%に対応するだけでなく、液晶ディスプレイが苦手とする、低輝度における色表現でも100%を維持できるという。また、コントラスト比は100万対1と高く、最高輝度500nitsに対して黒さは0.005nitsという「より暗くより黒い画面」を実現している。

加えて、有機ELの焼き付きによる表示色劣化(バーンイン)問題に対して、パネル駆動電圧を上げて表示色を補正する「バーンインリファイン技術」で対処している点も特徴だ。焼き付けリスクを軽減する独自機能「Pixel Refresh」に加え、画素をずらしてパネル定着を回避する「Pixel Shift」機能もをMyASUS登録ユーザーに提供している。

Vivobook Pro 14のディスプレイは、製品名からも分かるように据え置き利用でも屋外への携行利用でも使いやすいサイズの14型。解像度は2,880×1,600ドットで、横縦比は16:10。フルHDの1,920×1,080ドットはもとより、2,560×1,440ドットより広く、それでいて4Kの3,840×2,160ドットほど細かくないという、“ほどほど”な解像度の高さとなっている。なお、WebブラウザのMicrosoft Edgeの標準設定でマイナビニュース パソコンチャンネルに掲載しているレビュー記事本文のフォント1文字分のサイズ(「上」という文字の下横線の長さ)をズーム設定で変えながら実測した値と、同じくメモ帳の標準設定で一度に表示できる行数の値は以下のようになる。

ズーム設定 フォント表示サイズ メモ帳表示行数
200%(推奨) 3.0mm 49行
150% 2.0mm 69行
125% 1.7mm 84行
100% 1.5mm 106行

主観的な評価ではあるが、実際にVivobook Pro 14のディスプレイを見ていると、表示色がくっきりとしていて鮮やかなので、ズーム設定を下げてフォントサイズが小さくなっても見やすさは維持されているように感じた。ただ、それでも100%表示で記事本文を読み続けるのはなかなか難しい。とはいえ、200%表示は体感として表示領域がフルHD解像度より狭くなる。個人的には125%表示がちょうどよい設定だと感じた。

Vivobook Pro X 14が搭載するCPUは、AMDのモバイル向けプロセッサーの中では最上位モデルとなる「Ryzen 9 5900HX」。ちなみに、同じVivobook Proにはディスプレイが15型の「Vivobook Pro 15」シリーズがある。Vivobook Pro 15は、CPUがCore i7-11370HでGPUにGeForce RTX 3050 Laptopを搭載したモデル(K3500PC)と、CPUがRyzen 7 5800HでGPUに同じGeForce RTX 3050 Laptopを搭載したモデル(M3500QC)、そしてVivobook Pro X 14と同じRyzen 9 5900HXのみのモデル(M3500QA)を用意している。

  • CPU-Zで表示したRyzen 9 5900HXの仕様情報

14型ディスプレイ搭載モデルは15.6型ディスプレイ搭載モデルと比べて、屋外に持ち出すユーザーも多いため、処理能力と同時にバッテリー駆動時間にも配慮するべく、ディスクリートGPUなしの構成のみとなったと思われる。ただ、ディスクリートGPUは搭載していないものの、Radeon Grahicsを統合するモバイル向けRyzenを搭載したことで、グラフィックス描画能力も“それなり”に期待できるはず。

ということで、処理能力を検証するためベンチマークテストのPCMark 10、3DMark、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 7.0.0 x64、そしてファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズを実施した。なお、試用機のVivobook Pro 14の処理能力に影響するシステム構成を見ていくと、システムメモリにはDDR4-3200 16GBを搭載。ストレージは容量512GBのSSDで、ウエスタンデジタルの「SDBPNPZ-512G」を採用していた。接続バスはNVM Express 1.4(PCI Express 3.0 x4)だ。

なお、比較対象としてCPUにIntel Core i7-1165G7(4コア8スレッド、動作クロック2.8GHz/4.7GHz、L3キャッシュ容量12MB、統合グラフィックスコア Iris Xe Graphics)を搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット、システムメモリがDDR4-3200 8GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。

ベンチマークテスト Vivobook Pro 14 比較対象ノートPC
PCMark 10 6377 4615
PCMark 10 Essential 10484 9645
PCMark 10 Productivity 10087 6081
PCMark 10 Digital Content Creation 6656 4549
CINEBENCH R23 CPU 12133 4119
CINEBENCH R23 CPU(single) 1482 1380
CrystalDiskMark 7.0.0 x64 Seq1M Q8T1 Read 2483.33 3249.66
CrystalDiskMark 7.0.0 x64 Seq1M Q8T1 Write 1809.92 2679.52
3DMark Time Spy 1380 1149
FFXIV:漆黒のヴィランズ(最高品質) 3105「やや快適」 2524「やや快適」

それぞれ搭載するCPUのクラスが異なるため、ややアンフェアな比較となってしまったが、それでも価格対性能を重視した同世代の統合型グラフィックスを採用するミドルハイエンドモデルの比較とはなっている。その意味でVivobook Pro X 14の価格対性能はCPU処理能力、グラフィックス描画能力のいずれも優れているといえるだろう。ただ、ストレージ性能を評価するCrystalDiskMark 7.0.0 x64の結果は比較対象より低くなっていることに注意したい。

このように処理能力の測定では高いスコアを示したVivobook Pro 14だが、それだけに、というかRyzenの最上位モデルを搭載しているがゆえに発熱はどうしても気になるところだ。また、そのサイズと重さから外に持ち出して公共の場でも使う可能性もあるため、発熱と連動して大きくなりがちなファンの発する騒音にも注意したい。

そこで、電源プランを「パフォーマンス優先」に設定して3DMark NightRaidを実行し、CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パームレスト左側、パームレスト左側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定した。

表面温度(Fキー) 32.0度
表面温度(Jキー) 36.4度
表面温度(パームレスト左側) 25.8度
表面温度(パームレスト右側) 25.9度
表面温度(底面) 46.1度
発生音 46.1dBA(暗騒音38.1dBA)

Ryzenの最上位モデルを搭載している割には、表面温度は意外と低く抑えられている。これは、本体内部に組み込んだクーラーユニットのおかげだ。ただ、その強力な冷却性能がもたらす音も気になるが、騒音計の数値としては46.1dBAということで、このクラスのモデルとしては突出して大きな音を発しているわけではない。他の同クラスモデルと同じように明確に風切り音は聞こえてくるので、静かなカフェや図書館などで使う場合は電源プランを「バッテリー優先」にするのが望ましいだろう。

なお、バッテリー駆動時間を評価するPCMark 10 Battery Life benchmarkで測定したところ、Modern Officeのスコアは8時間47分(Performance 6222)となった(ディスプレイ輝度は10段階の下から6レベル、電源プランはパフォーマンス寄りのバランスにそれぞれ設定)。

本体サイズは幅317.4mm×奥行き228.5mm×高さ19.52mmで、重さが約1.464kgとこのサイズのディスプレイを搭載したモデルとしては平均的だ。天板にはプレートを張り付けたようなデザインがアクセントとなっている。

  • 評価機の重さを実測したところ1.443kgだった

  • ASUSが「クワイエットブルー」と呼ぶカラーリングを施した天板

  • プレート状の装飾がシンプルながらデザインのアクセントになっている

試用機の主な仕様

  • CPU:Ryzen 9 5900HX(8コア16スレッド、動作クロック3.3GHz/4.6GHz、L3キャッシュ容量16MB)
  • メモリ:16GB (DDR4 3200)
  • ストレージ:SSD 512GB(PCIe 3.0 x4 NVMe、SDBPNPZ-512G WDC)
  • 光学ドライブ:なし
  • グラフィックス:Radeon Graphics (CPU統合)
  • ディスプレイ:14型 (2,880×1,800ドット) 光沢
  • ネットワーク:IEEE802.11a/b/g/n/ac/ax対応無線LAN、Bluetooth 5.1
  • サイズ / 重量:W317.4×D228.5×H19.52mm / 約1.464kg
  • OS:Windows 11 Home 64bit

本体に搭載するインタフェースとして、USB 3.2 Type-C、USB 3.2 Type-A、USB 2.0 Type-A×2基、HDMI出力(Standard A)、ヘッドホン&マイク端子、micro SDスロットを備える。無線接続インタフェースでは、IEEE802.11axまでカバーするWi-Fi 6(2.4GHz対応)とBluetooth 5.1を利用できる。

  • 左側面には2基のUSB 2.0 Type-Aを搭載する

  • 右側面にはヘッドホン&マイク端子にmicroSDスロット、HDMI出力、USB 3.2 Type-Aを備える

  • ACアダプタは専用端子に接続する。サイズは実測で約74×74×28.5mm。コードを含めた重さは実測で333gだった

  • 正面

  • 背面

  • ディスプレイを開くと本体がわずかにリフトアップする構造になっているが、その影響で最大開度が約135度までとなっている

本体にはディスプレイ上側にカメラを内蔵する。720p対応で有効画素数は約92万画素。レンズには物理シャッターを備えている。レンズをふさぐと赤いカバーで覆われるので、意図せず顔を映してしまうこともなく、ビデオチャットでレンズカバーが外れているかをひと目で確認できる。リモート会議向けにはAIノイズキャンセリング機能を搭載しており、ユーザーの声や周囲の環境音の音質をAIが学習することで、精度を高めてユーザーの声をクリアに聞かせることができるとしている。

  • 内蔵カメラのレンズを物理シャッターで覆うと赤いカバーが見えるので「ビデオチャットでカバーを外すのを忘れていた!」となりにくい

キーボードは、キーピッチが実測で約19mm(キートップサイズは実測で15.5mm)、キーストロークは実測で約1.5mmをそれぞれ確保している。タッチパッドはサイズが130×74mmと広い面積を確保している。なお、上位クラスのVivobook Pro Xシリーズが備えている「DialPad」や生体認証、Zenbook Proが備えている米国軍用規格準拠の堅牢性などは備えていない。

  • キーボードのレイアウトで「スペースバーと変換無変換」「¥とバックスペース」「\と右シフトキー」が同じキーのモールド内に配置されている

  • キーストロークは実測で約1.5mm。タイプの感触は軽めだが押し切ったときは本体がしっかりと支えてくれる

サイズ、本体デザイン、インタフェースなど奇抜なところはなく、ある意味無難にまとまっているが、有機ELディスプレイを搭載しCPUにRyzen 9 5900HXを採用したことで、価格対性能をより高めたVivobookという製品に仕上がっている。外に持ちだせるオールマイティなノートPCを探しているなら、このモデルは有力な選択肢となるはずだ。