図書館の本などに印鑑が押されているのを見た経験がある方は多いのではないでしょうか。この印鑑を「蔵書印」といいます。蔵書印は対象の書物を所有、所蔵していることを宣言するための印章です。
本記事では蔵書印について正しい使い方、形状、蔵書印の歴史、オーダーメイドの蔵書印を作る方法など紹介します。
蔵書印とは
蔵書印と聞いてもイメージがわかない方もいるでしょう。ここでは蔵書印とは何か、形状や材質に決まりがあるのかなど紹介します。
団体や個人が所有や所蔵を宣言するために押す印
蔵書印とは本や書画などの作品に対して、団体や個人が所蔵を宣言するために押印する印章です。あまり縁がなくてピンとこない方もいるかもしれませんが、図書館や学校の図書室の本の最後のページに印鑑が押されているのを目にしたことがないでしょうか。その印鑑が蔵書印です。蔵書印は収蔵印、図書印、所蔵印、蔵印などと呼ばれることもあります。
会社に勤めている方などは、会社で所有している本に蔵書印が押されていることが確認できるかもしれません。
個人で使用する所蔵印の場合は、所有する人の趣味が反映されることも多く、形や書体、イラスト入りのものなどがあり、所蔵している本に対する愛着を感じられるような印章も多いです。
蔵書印を押す場所
蔵書印を押す場所は蔵書によって変わります。蔵書の表紙やその裏面の部分、表紙の次にある白紙部分、巻頭、巻末、本を閉じた状態の上や下などに押されるケースが多いです。本の記載内容の邪魔にならない場所に押すのが基本だと考えておきましょう。
蔵書印のかたち・サイズ・材質
大抵の蔵書印は正方形に印文が刻まれているという形状です。しかし円形、楕円形、短冊形などさまざまな形状のものがあり、正方形と定義されているわけではありません。
サイズに関しても小さいものから大きいものまであります。蔵書印は本を保存するために注意事項などを記入することや、デザインにこだわって作るケースも多く、比較的大きなサイズのものが多いです。
蔵書印の材料は木材、石材、銅、鉄、竹などさまざまな材料が使われます。これは実印や認印、銀行印などと変わりません。蔵書印はその役割から記入事項が多くなるケースも多いので、実印や認印よりも大きなサイズになりがち。
そのため、コストを抑えたゴム印を使った蔵書印も増えています。
蔵書印に使う色
蔵書印を押す対象はその名のとおり本や書物。本の保存は長期間にわたることが多いため、印影には劣化しにくく、なおかつ本の紙と文字に調和するといわれている朱色が使われるケースが多いです。
しかし朱色は高貴な色とされていて、気軽に使うのにためらいがある場合、黒色が使われることも。
他にも藍色、緑色、青色などが使用されるケースもあります。本の装丁に合った色を当てはめるという選び方もあるでしょう。
蔵書印の歴史
蔵書印とはいつ生まれたのでしょうか。ここでは蔵書印の歴史を見てみましょう。
発祥は中国
蔵書印の歴史をたどると、始まりは中国の宋(960~1279年)時代だといわれています。中国では所蔵や持ち主を示すために使う印章は所蔵印や鑑蔵印と呼ばれていて、そのなかでも書籍に押すものが蔵書印と呼ばれていました。
また鑑蔵印は所蔵だけに限らずに書画などを鑑定した人が押印するケースもあったようです。
宋の時代には隋もしくは唐初期に始まったとされる木版印刷が、文治主義の下で普及したこともあり、出版が発達しました。収集家が鑑識収蔵したことを宣言するために書画に押印した鑑蔵印はこの時代のものが最古だとされています。
日本での発達
日本では中世以降、中国から書物が輸入される機会が増えたことで蔵書印が広まるきっかけになったと考えられています。しかし、いつどのように伝わったのかは、はっきりとは、わかっていません。
奈良時代(648~781年)の聖武天皇の「松宮内印」や、光明皇后の「内家私印」、「積善藤家」などが日本最古の蔵書印といわれています。
江戸時代中期(1681~1780年)頃までは蔵書印は一般的なものではなく、寺社、公家、貴族、武家など限られた身分の人々にしか使われませんでした。北条時宗が1275年頃、現在の神奈川県横浜市金沢区の邸宅内に作った金沢文庫の蔵書印は文庫印の草分け的な存在と考えられています。
江戸時代の後期になると、庶民にも書物が広まり、さまざまな種類の趣味性の高い蔵書印が使われるようになりました。
蔵書印に関して知りたいこと
「自分も蔵書印を所持したい」そんな気持ちになった方もいるでしょう。ここでは蔵書印を購入する前に押さえておきたいポイントを紹介します。
蔵書印をオーダーしたい
読書好きな方などは「オリジナルの蔵書印を作りたい」と思うケースもあるでしょう。蔵書印は実印や銀行印などのように自分だけの印章をオーダーして作ることが可能です。
印章を作るショップなどでは、材質や彫り込む印文、書体など自分の希望どおりのものをオーダーできる店もあるので、オリジナルの蔵書印を作りたい方は探してみてくださいね。
かわいいデザインの蔵書印ってあるの
蔵書印はオリジナルでオーダーが可能です。印文もショップによっては、文字だけではなく絵柄などを彫り込むことができます。
読書好きな方が自分の本に押印するために蔵書印を作るときや、飲食店などに置く本に押す蔵書印を作るときは、自分の好みや、店の雰囲気に合わせたかわいいデザインの蔵書印を作れますよ。
シヤチハタタイプの蔵書印がほしい
シヤチハタとはシヤチハタ株式会社の企業名ですが、その名前を耳にすると、スタンプ台や朱肉を必要とせずに押印できる印章を思い浮かべる人もいるでしょう。
簡易に押印できる蔵書印を作成できるショップもあります。「手軽に押せる蔵書印がほしい」という方は作ってみてもいいでしょう。
蔵書印を消すのは難しい
蔵書印を一度押印してしまったら、消すのは難しいようです。本を読み終わったら古書店などに売却する人もいますが、蔵書印を押してしまうと、買取価格は通常より減額になるケースが多いようです。
読み終わったら、すぐに手放す予定の本には蔵書印を押さないほうがいいでしょう。
蔵書印データベースとは
蔵書印の世界に興味を持つと「さまざまな蔵書印の印文を見てみたい」と考える方もいるでしょう。そのような方にはジャパンサーチの「蔵書印データベース」を見てみるのがおすすめ。
ジャパンサーチとは国立国会図書館が運営している検索システムです。日本が保有するさまざまなコンテンツのメタデータを検索することができます。
蔵書印に関しては国文学研究資料館が所蔵している古典籍を中心に、原本から採取した蔵書印の情報を印影とともに検索することが可能です。職種や時代などに絞って探すこともできます。気になる方は利用してみてくださいね。
読書好きな方は蔵書印を使うと愛着が倍増するかも
蔵書印は書物などを所有、所蔵していることをアピールするために押印するものです。図書館などを頻繁に利用する人は蔵書印が押印されているのを目にする機会が多いでしょう。あまり読書をしない方も学校の図書室の本に押印されているのを見たことがあるのではないでしょうか。
読書が大好きで本をよく購入する方は、オリジナルの蔵書印をオーダーメイドして自身の本に押印すると、愛着が倍増するかもしれませんよ。
【参照】
国立国会図書館「蔵書印データベース」
国立国会図書館「JAPAN SEARCH」