JR東日本は22日、東北・北海道・上越・北陸新幹線で「新幹線オフィス車両」の運行を開始した。同日に北陸新幹線東京~長野間で報道公開が行われ、12月から東北新幹線の一部列車で無料貸出を開始するリモートワーク支援ツールも紹介された。

  • JR東日本が「新幹線オフィス車両」の報道公開を実施。リモートワーク支援ツールも用意された

リモートワークが普及し、時間や場所にとらわれない働き方・暮らし方の多様化が起きていることを受け、従来型の通勤とは異なる新たな都市間移動スタイルを見据え、JR東日本とJR北海道、JR西日本が連携。東北・北海道・上越・北陸新幹線の全列車(「こまち」「つばさ」「つるぎ」は除く)・全区間を対象に、8号車をウェブ会議や通話が可能な「新幹線オフィス車両」とした。土休日および最繁忙期(ゴールデンウィーク期間、お盆期間、年末年始期間)を除く平日のみの運行となる。

「新幹線オフィス車両」は対象列車の乗車券類(乗車券・新幹線特急券など。「タッチでGo! 新幹線」「新幹線eチケット」も含む)を持つ乗客が利用でき、追加料金は不要。座席指定はないが、リモートワーク環境向上のため、A・C・E席の利用を推奨している。

報道公開は北陸新幹線の営業列車を使って行われた。「新幹線オフィス車両」の運行開始に合わせ、東京駅(新幹線北のりかえ口付近、新幹線南のりかえ口付近、八重洲中央口付近)に設置されたモバイルバッテリーレンタルサービス「充レン」が紹介された後、E7系の東京発金沢行「かがやき」に乗車。8号車ドア付近の足もとに「新幹線オフィス車両」の案内表示があり、E7系も8号車の乗降ドアやデッキ、客室ドアに「新幹線オフィス車両」のステッカーを掲出している。各座席に車内リーフレットも用意した。

  • E7系が東京駅に入線。8号車の乗降ドアに「新幹線オフィス車両」を示すステッカーが貼られ、ドア付近の足もとに「新幹線オフィス車両」の案内表示も

  • 車内のデッキや客室内のドアにも「新幹線オフィス車両」のステッカーが貼られてある

12月1日以降、東北新幹線「はやぶさ」の上下各3本を対象に、東京~仙台・盛岡間で無料貸出を行うリモートワーク支援ツール、有料貸出を行うWi-Fiルーター(1回200円)も特別に用意された。プライバシーに配慮した製品として貸し出される折畳み式の間仕切り(「EkiLab帯織」提供)は、東北・北海道新幹線で活躍するE5系をイメージしたデザインに。車内でのPC使用時、隣席などからの視線を遮ることで、より集中しての作業が可能になる。展開時の幅は約420mmで大きめのPCもカバーできる一方、折りたたむと軽量かつA4サイズでコンパクトに収納できる。

スマートグラス「MOVERIO」(エプソン販売提供)は、メガネのようにかけるだけで目の前に大画面映像が現れ、PCのサブモニターとして使用可能。ウェアラブル端末「WEAR SPACE」(パナソニック システムソリューションズ ジャパン提供)は、周囲の音を低減するノイズキャンセリングヘッドホン、視界を調整できるパーテーションで構成され、装着することで新幹線の走行音などを低減。周囲を気にすることなく仕事に集中できるという。

  • 「新幹線オフィス車両」(E7系8号車)の車内。各座席に車内リーフレットを用意している

  • 折畳み式間仕切りはE5系をイメージしたデザイン。車内でのPC使用時、隣席などからの視線を遮ることができる

  • 「新幹線オフィス車両」での通話も可能。Wi-Fiルーターは有料貸出となる

  • PCのサブモニターとして利用できるスマートグラス「MOVERIO」

  • ウェアラブル端末「WEAR SPACE」とモバイルプリンターも用意された

これらのツールをはじめ、今後はモバイルプリンター(エプソン販売提供)などのツールも追加予定となっている。有料貸出となるWi-Fiルーター(KDDI提供)はauのLTE回線を利用でき、走行場所によって電波がつながりにくい場合があるものの、より快適な通信環境でリモートワークを行える。なお、リモートワーク支援ツールの無料貸出は12月1日の開始時点で東北新幹線の一部列車・一部区間のみだが、利用状況や利用者の声など踏まえ、他の新幹線への展開も検討するとのことだった。Wi-Fiルーターの有料貸出については、来年1月以降に順次サービス拡大を予定している。

長野駅に到着した後、駅直結の「MIDORI長野」にオープンした駅ビル内レンタルオフィス「STATION WORK 長野」にて、JR東日本事業創造本部の中村元氏がインタビューに応じた。「新幹線オフィス車両」の運行開始を受け、「時間や場所にとらわれない暮らし方・働き方に伴う新しい移動のあり方として提案したい」「ビジネス出張はもちろん、多拠点居住やワーケーションでもご利用いただけるように、『JRE POINT』還元キャンペーンをはじめ、平日の閑散時間帯に利用しやすくなるような提案もしていきます」「新幹線各駅で『STATION BOOTH』等の整備も進めており、これと合わせた新幹線オフィス車両利用者向けのサブスクリプションサービスも提供したい」と述べた。

  • 「STATION WORK 長野」でインタビューに応じたJR東日本事業創造本部の中村元氏

  • 「STATION WORK 長野」は共用スペースのほか、1名用個室「STATION BOOTH」も設置

  • 「新幹線オフィス車両」の運行開始に合わせ、東京駅に「充レン」が設置された

「新幹線オフィス車両」の運行開始に先立ち、JR東日本は今年、2月と6~7月の2回にわたり「新幹線オフィス」の実証実験を行った。中村氏によれば、「利用者からセキュリティ面に関する声が最も多かったので、のぞき見防止、音漏れ防止、机環境の改善といったところをツールで解決できるよう取り組みました」とのこと。利用者向けに行ったアンケートで、追加料金に関して「支払ってもいい」という意見も多かったが、「新しい移動の形を定着させる」主目的もあり、追加料金なしでスタートしたとの説明もあった。

実証実験は東北・北海道新幹線を対象に行われたが、「新幹線オフィス車両」は上越・北陸新幹線も追加しての運行開始となった。これに関して、「分散型の暮らしにおいて、長野エリアや新潟エリアもニーズがあると考えています。今後(新幹線オフィス車両を)欲しいとの声もいただいていたので、エリアを拡大して実施することになりました」と中村氏は言う。

8号車が「新幹線オフィス車両」となった理由を「統一して案内することによるわかりやすさを第一に考えたことと、グリーン車等のお客様も利用しやすいようにとの判断から8号車に決まりました」と話し、「新幹線オフィス車両」の対象から外れた山形・秋田新幹線について、「8号車で統一したこともあり、今回は他の新幹線からスタートとなりました。現時点で計画はないものの、利用状況などを踏まえ、今後の検討課題にしたいと思います」とコメントした。