博報堂DYミュージック&ピクチャーズは、NFTの保有で拡がる新しいエンタテインメント体験の提供を目指すプロジェクトを始動。まずは、NFT技術を使用して「エウレカセブン」シリーズのデジタルカードを制作し、この冬より、特設サイトにて数量・期間限定で販売する。
NFTとはNon-Fungible Tokenの略称で、主に「偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ」のことを指す。暗号資産(仮想通貨)と同じく、ブロックチェーン上で発行および取引される。
今回販売されるデジタルカードは、映画『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』の公開を記念して誕生した、「エウレカセブン」シリーズ初のデジタルグッズ。「エウレカセブン」シリーズの各キービジュアルがNFT技術によるデジタルカードになって登場する。
第1弾としてTVアニメ『交響詩篇エウレカセブン』のキービジュアルデザインの商品を発売。キャラクターデザインおよびメインアニメーターを務める吉田健一氏のサイン入りビジュアルは、オークション形式で販売される。販売価格/入札開始価格は、「エウレカセブン」にちなみ、7,777円と77,777円に設定した。一般的な通販サイト同様に、日本の法定通貨(円)でのクレジットカード決済も可能だ。
また今後、第2弾として映画『交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい』、第3弾『エウレカセブンAO』、第4弾『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』デザインの商品の販売も計画する。
ボンズ 南雅彦氏 特別インタビュー
さらに、「エウレカセブン」シリーズのアニメーション制作を手がけるボンズ代表取締役の南雅彦氏のインタビューも公開された。NFT業界参入で期待していることやアニメビジネスにおける課題、映画公開への意気込みや見どころなどについて答えている。
――今回の企画は、映画『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』の公開を記念して実施されます。改めて公開にあたっての率直なお気持ちをお聞かせください。
2005年にTV『交響詩篇エウレカセブン』でスタートした「エウレカセブン」シリーズは、映画『交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい』、TV『エウレカセブンAO』と続き、そして今回「ハイエボリューション」シリーズの劇場3部作・完結編『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』が公開されます。16年間、ずっと向き合ってきた「エウレカセブン」が、本作で1つの完結を向かえるという意味では、ちょっと複雑な気持ちで公開初日に向かっている感じですね。
これまでにアニメーション作品以外にも、ゲーム、漫画、小説、遊技機など、さまざまな形で楽しまれていて、長い間、みなさまに触れてもらってきた背景があります。本作は、特に「エウレカセブン」シリーズを全部見てきてくれた人にとって、集大成としての「ハイエボリューション」シリーズだけでなく、すべての「エウレカセブン」シリーズともリンクしているところがあります。本当に長い年月、共に歩んできた作品だと思います。
――今作は「交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」劇場3部作の完結編ですが、見どころを教えてください。
今回、キャラクターデザイン的に大きく変えている部分があります。このデザインの変更には、主人公であるエウレカの本作での立ち位置や心情が影響しています。そして、新しく登場するアイリスという少女とエウレカ。この2人の話が、本作のドラマの軸になっています。これは是非、映画で観てほしいです。
あと、見どころはやっぱりロボットアニメーションというところですね。ロボットによるアクションは、今やCGでの表現が当たり前になってきていますが、「エウレカセブン」シリーズはずっと手描きのアニメーターによるロボットアクションにこだわっていて、今回も変わらず、手描きです。CGとは違う、手描きならではのメカアニメーションの魅力が出ていると思いますので、アクションシーンも楽しみにしていただけたらと思います。
――作品作りにおいて、大切にしている思いをお聞かせください。
どの映像作品においても、やはり観てくださる方たちがいて完成されるので、制作側は作品を作っている段階から、お客さん・視聴者と“対話”していると思うんです。さまざまな映像を見てもらって、さまざまな“対話”を通じて、多彩な感情を受けとってもらいたいなと。
アニメーションは、基本的には絵での表現が中心になるので、登場しているキャラクターは実在していないわけです。だからこそ、自分を投影しやすいし、感情移入しやすい。それは、クリエイターが思いいれる感情だけでなく、観る方の感情を入れても成立するものであるとも言えます。お客さんたちがさまざまな角度から感情移入して、それぞれ楽しめる、というところがアニメーションの魅力につながっているのではないかと思っています。こうしたアニメーションならではの魅力を、最大限生かすことを意識しています。
――今回「エウレカセブン」シリーズ初のデジタルグッズが発売されますが、作品のファンにどのように楽しんでほしいですか? また、NFT業界参入で期待していることは何ですか?
NFTは、お客さんが唯一の、または限定された商品を、自分のデジタル機器の中に入れていつも持ち歩けるところと、全世界に向けて発信できるところの大きく2つが特に魅力だと思いますし、楽しんでほしいところです。
ここ数年、さまざまな動画配信サービスを通して、全世界に作品を見てもらえる機会が増えました。コロナ禍の前ですが、海外のイベントに参加して、現地のファンの方と交流して、世界規模で反響やファンの数がどんどん大きくなって世界中に広がっていると感じます。海外でのイベントの熱狂もそうですし、新しい作品のPVを公開すると、さまざまな言語のコメントが届きますね。その一方で、そういう人たちにグッズやサービスを提供したくても、全世界になかなか流通させづらい現実もあります。
なので、NFTの話を聞いたときに、全世界の熱量の高いファンたちに、商品を届けられることに可能性を感じました。また、世界中のファンたちに、作品の商品をリアルタイムでより多く提供できることが魅力的だと思いますね。「エウレカセブン」という作品をコアに愛してくれるファンが世界中にいるので、その人たちに「“EUREKA”やるよ!」というアピールにもつながるなと感じています。
――アニメビジネスにおいて近年感じている変化やこの先について伺わせてください。
・コロナ禍で変化したと感じている点について
アニメビジネスで一番大きく変わったのは、「“パッケージ”から“配信”になりつつある」「全世界に向けたビジネスになった」というところですかね。昔と違って今はパッケージよりも、配信で何度も視聴することが主流になってきています。
ただ、配信とは別に、アニメーション映画が映画館で大きな意味を持つようになっている感じがします。劇場という空間をファンの方同士が共有していくことも大切なコミュニケーションとして必要とされてきているのかもしれません。
こうしたアニメ映画のもつ意味合い、みたいなものが強く感じられるようになったのも、変化の1つだと思います。
・CGアニメーションの台頭について
自分達もCGに取って変わられる部分もあると思っていたし、そう言われていた時代がありました。日本では、ハリウッドとかの最大手のCGを使う会社に対抗できるような設備投資なんてできるわけでもなく、大きくCGアニメーションにシフトすることができなかったのが現実です。
2007年公開の『レミーのおいしいレストラン』がパリの街を、CGを使って俯瞰で見せたとき、二次元の中でもキャラクターが存在できる場所がたしかに広がっていて、「ああ負けだな~」って思うくらい、本当に衝撃的でした。
しかし、日本特有の漫画文化の中では、やはりCGではなく、手描きであることがアニメーションの魅力だと思うんです。ここ20年くらいで世界中にお客さんの裾野が広がっていたり、日本の大手出版社がアメリカやヨーロッパに拠点を作っていたりするのを見ても、手描きの作品が魅力の1つとして、受け止められているのでは、と思いますね。
――アニメビジネスにおいて、課題に感じている点についてお聞かせください。
動画配信サービスが、既存の日本のアニメビジネス予算の2倍くらいの予算でアニメーションを作るようになってきました。ただ、人気が出そうな作品以外の企画が通りづらいのはあまり変わりません。それだけでは表現の仕方やジャンルが狭まると思います。アニメーションは、絵で何でも表現できるということが魅力なので、型にはめるのではなくて、もう少し色々な作品が作れそうだという考えがずっとありますね。
渡辺信一郎総監督と制作した『スペース☆ダンディ』という作品は、そういう固定観念を全部壊すという壮大な計画で作った作品です(笑)。でも、冗談でなくもう少し自由に、表現の幅を広げて作りたいなと思います。そのためには、きちんとマネタイズができるものを置かなければいけないんだろうとは思いますし、バランスはとりつつ、世界のファンと共に生み出せる作品もあると思います。そういった部分で、デジタルグッズというものの価値が大きくなってくるんだろうと思います。
あとは、人材育成とか働き方改革とか、アニメ業界にはとにかく色々な課題があります。ただ今回の新型ウイルスの影響は大きかったですね。我々の仕事の大半が、クリエイター同士で毎日擦り合わせて、ああだこうだ言いながら作品を作り上げているので、その行動を制限されるとやはり厳しいなと。目に見えないところでの影響がでていますね。
――作品のファンへ、メッセージをお願いします。
この「交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」シリーズの3本を制作している中で、もう一度「交響詩篇エウレカセブン」を最初から全部見直さなきゃいけないなと思ったくらい、16年間このシリーズをやってきた意味がすごくあったと感じました。特に今回の『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』は、大きく感情を揺さぶられるというよりは、見た人の記憶に深く残る作品に出来上がったので、ぜひ見てもらえればと思います。
ボンズとしては相変わらず、色々な作品にチャレンジしていくことになると思います。オリジナルとか、アクションものとか、SFものとか、スタジオではさまざまなジャンル分けをされたりするのですが、それを裏切って……というわけではないですが、みなさんがちょっとビックリするような作品も作っていきたいなと思っています。
今年だと、『SK∞ エスケーエイト』という、テーマはスケボーのスポコンではありつつ青春群像として描き、『ゴジラ S.P』のような、ハイブローなSF作品とか。映画だと、『ジョゼと虎と魚たち』という文芸モノや、王道の「僕のヒーローアカデミア」シリーズとかもあります。おもしろいものを、幅広くテーマを絞らずに提供していければなと思っていますので、楽しみにしてください。